8.雨の日
朝、目が覚めると雨音が聞こえた。
起き上がりカーテンを開けると、大粒の雨が窓を叩いていた。
今日は出掛けられないな。
宿の食堂では朝食を出してくれないが、外で買って来たりして部屋で食べる事は禁じられていないので、以前市場で購入したチキンサンドと玉子スープをウエストバッグから出して食べた。
「ねむ……」
おかしいな? 【良質な眠り】の効果で、寝不足なんて事はあり得なくなっているのに。
「何でだろう?」
『猫獣人だからだよ。雨の日は眠くなるよ』
イルカが教えてくれた。
「そうか。種族特性か」
じゃあ、仕方ないな。寝よう。
私は宿に今日の宿泊料を払い、ベッドに潜り込んだ。
次に目を覚ました時には、夕食の時間になっていた。
「おはよう、大牙」
「おはよう。眠いな」
「うん」
食堂に大牙が居たので挨拶し、相席させて貰った。
「この天気で、外で活動したプレイヤーは居るのかな?」
「居るんじゃないか? 晴れの日との違いを探すとか、不測の事態に備えて雨天時の戦闘訓練とか」
「中々有意義だったぞ」
その声に顔を上げれば、テーブル脇にレオンとマオが立っていた。
二人共、髪が濡れ水が滴り落ちている。服は濡れていないので雨合羽等を使用したのだろうが、それは仕舞ったようだ。
「え? 戦闘訓練して来たの? つーか、髪拭けよ。風邪引くぞ」
このゲームは、風邪を引く事はあるのだろうか?
「大丈夫か、マオ。青白いぞ」
「マオは何時も通りだよ」
私が心配して声をかけると、大牙がそう言った。
「問題無い」
髪をタオルで拭きながら、マオが答える。
レオンは、炎魔法で髪を乾かしていた。
「猫獣人なんだから、寝てれば良いのに」
同じ席に着いて食事する二人に、大牙がそう話しかける。
「敵は、猫獣人だから雨の日は襲わないなんて配慮はしないだろう。だから、そういう事態で戦えるように特訓して来たのだ」
そんな敵は現れないと良いのだが。
「お前達も特訓したらどうだ?」
マオがスープを飲みながら勧めて来た。
「雨に濡れるのは嫌だ」
私はきっぱりと断る。
「同感」
夕食を食べ終えた二人は唐突に寝てしまった。
食器が乗ったトレイに突っ伏しそうになったので、大牙と二人でさっと避けて上げた。
「無理するから」
「気絶同然だな」
他人の部屋には入れないので、大牙が受付で三人部屋に変更して貰った。
「四人部屋が良かった?」
「いや。別に。それより、部屋まで運ぶの手伝わなくて良いのか?」
「良いよ良いよ」
大牙は二人を順番に所謂お姫様抱っこで運んで行った。いや、男だから王子様抱っこと言うべきだろうか?
「んじゃ、お休み」
「お休み」
大牙が部屋に入るのを見送って、私は欠伸を一つした。
眠い。明日は晴れると良いのだが。
ステータス等に変更は無し。