4.フレンド
2016.10.17 レオン達がみくもとPTを組んだ日を初日に変更。
今日もリンクス山脈にやって来た私は、看板の所で柏手を打って頭を下げた。
「鉱物を取らせてください」
山道は、右へと向かっていた。
出現するモンスターは、最初は石や岩が生えているスライムだったが、次第に銅鉱石や鉄鉱石や宝石が生えていたり・入っているスライムが現れるようになった。
その中に貝が入っているスライムが居て、私は首を傾げた。
「あ! 真珠貝か!」
昨日の海のイメージが残っていたので、一瞬思い付かなかった。
「ん? 何だ、あれ?」
暫く狩っていると黒いスライムが見えたので不思議に思ったが、倒してみると判った。
<石油を手に入れた>
<石油を手に入れた>
<石油を手に入れた>
<石油を手に入れた>
~(以下略)~
なるほど。石油スライムだったか。
この辺りのモンスターからは、既に経験値が得られなくなっている。素材の採集も一通り終わったし、明日は先へ進むか。
夕方になったので、街へ帰る。
これだけ素材があれば、生産職の人達も色々作れるだろう。
ところで、此処三日ほど、リンクス山脈で他のプレイヤーに出会う事は無かった。
誰も来ていないのだろうか、それとも、インスタントダンジョンなのだろうか?
あ、イルカに聞けば解るか。
「イルカ。リンクス山脈は、インスタントダンジョンなのか?」
『そうだよ』
そうだよな。そうでもなければ、道が変わったりはしないよな。
宿に戻ると、猫獣人の二人組が居た。
一人は茶トラの少年で、もう一人はサバトラの少年だった。どちらも美少年だが、系統は違う。茶トラの方は男らしく、サバトラの方は女性的だ。
「もし、私を捜している女が来ても、居ると教えないでくれ」
サバトラ少年は、宿の受付でそう頼んでいた。
『畏まりました』
どのような事情があるのだろうか? 単純に考えるとストーカーされているのだろうが。
此方に気付いた茶トラの少年が話しかけて来た。
「こんばんは。初めまして。私はレオンと言う」
「どうも。初めまして。琥珀です」
「良い名だな。こっちはマオだ」
レオンは、サバトラ少年を紹介してくれた。
「琥珀も、私を捜している女に何も教えないでくれ」
「ストーカー?」
「そうだ」
予想通りだったか。
その後三人で夕食を取って、詳しい話を聞いた。
初日に野良PTを組んで狩りをした事・その内の一人に彼女面された事・フレンド申請を断っても異常な数申請して来たのでブラックリストに入れた事・宿を嗅ぎ付けられて一悶着あった事等。
「好かれるような事は何もしていないのだがな」
「面食いなんじゃないか?」
「琥珀もそう思うか」
「うん」
レオンも同じ事を考えていたらしい。
「その人、種族は?」
「アラクネ」
下半身が蜘蛛か。それは厳しい。
「念の為に言うが、下半身が蜘蛛になるのは【蜘蛛化】した時だけだ。普段は人間と変わらない」
レオンがそう教えてくれた。
「そうなんだ」
「そうだ。フレンド登録しないか?」
レオンが提案する。
「どうやるんだ?」
「『メールボックス』のフレンド申請ボタンで申請する。申請されたら、受諾か拒否を選択する。ブラックリストも此処にある」
レオンに尋ねたから、イルカが反応する事は無かった。
「もしかして、連絡はメールでしか取れない?」
「そのようだ」
二人をフレンドリストに入れ、さて部屋に戻ろうという時、マオが顔色を変えて立ち上がった。
「来た!」
【聴覚察知】で例の女性が来た事を察知したようだ。
マオは急いで部屋に隠れようとしたが、NPCが通路に居たので間に合わなかった。
「マオ! 見付けた!」
派手な印象の顔立ちをした女性が、喜色を浮かべて駆け寄って来た。
「もう! 捜したんだから! 勝手に出歩かないで。あんまり意地悪すると、嫌いになっちゃうぞ」
彼女の中では、フレンド申請を断られまくったのは無かった事になっているのだろうか? それとも、些細な意地悪と感じているのだろうか?
マオの尻尾はパタパタと動き、不機嫌を露わしていた。
「みくも。何度も言うが、マオは嫌がっているんだ。付き纏うのは止めてくれないか?」
レオンがマオを庇うように立って――もしかしたら、マオからみくもを守る為に立って――、そう告げる。
そのレオンの尻尾もマオと同じように動いているので、この三日間で彼女に不愉快な思いをさせられ続けたのだろう。
「貴方には関係無いじゃない! 酷い事ばかり言って!」
そこで彼女は、私に気付いたらしく顔を動かし私を見据えた。
「この子、誰? 随分可愛い子ね?」
みくもはマオを睨んで責めるようにそう言った。
「貴女、マオに馴れ馴れしく近付かないでくれる?」
彼女は私に近付いてそう言った。
「貴女には関係無い。其方こそ、馴れ馴れしく近付くのを止めたらどうだ?」
私の言葉にカッとなったみくもが手を上げた。勿論、私は避けたが。
「避けるなんて、生意気!」
「みくも! 止めないか! 宿に迷惑だ!」
レオンがみくもに注意する。
「NPCが迷惑とか感じる訳無いでしょう?!」
振り向いて怒鳴ったみくもは、マオの尻尾が膨らんでいる事に気付いているだろうか? あれは、驚いているのではない。攻撃しようとしているのだ。猫だったら「シャー」と威嚇している事だろう。
「みくも。私はお前が嫌いだ。PKされたくなければ、さっさと消えろ!」
マオが警告するが、みくもは聞かなかった。
「もう! 照れちゃって! マオってば、冗談ばっかり~!」
次の瞬間、私はマオから恐怖感を感じた。
みくもは、恐らく何をされたかも理解出来ないまま、一瞬で首を飛ばされこの場から消えた。
「【猛獣化】はやり過ぎだぞ」
レオンがマオの頭にポンと手を乗せる。
「PKして大丈夫なのか?」
「ブラックリストに入っているから、問題無い」
私が心配して声をかけると、マオがそう言うシステムだと教えてくれた。
『先程の女性は、出入り禁止に致しました。対応が遅れまして、申し訳ありません」
NPCが近付いて来て頭を下げた。
『お詫びとして、次回宿泊料1,000ガルト割引券をどうぞ』
「ああ。ありがとう」
三人共割引券を受け取った。
「さて、部屋に行って寝ようか?」
「そうだな」
「おやすみ」
◇◆◇
「もう諦めたら?」
神殿から自分の宿に戻って来たみくもは、フレンドの一人であるサキュバスのレムにそんな事を言われた。
チェックイン済みだったので、ガルトが無くても今晩だけは宿で寝られるのだ。
「どうして? マオだって私の事を好きなのに。彼は素直になれない人なのよ」
レムは溜息を吐いた。
「尻尾を思いっきり引っ張っておいて、好かれる訳無いでしょう?」
「ちょっとしたお茶目じゃない」
「お茶目では済まない! れっきとした暴行よ!」
「え~。大袈裟ぁ」
「……何言っても無駄なのね。フレンド止めるわ。さようなら」
「え? 何で? 待ってよ!」
レムは、引き留めるみくもを無視して宿を変える。
「まぁ、いっか。変な事ばっかり言って五月蠅かったし」
みくもはそう言いながら、部屋へと向かった。
「明日はあの女を見付けて、仕返ししなきゃ」
自分を殺したであろう琥珀を思い浮かべて、みくもはそう呟いた。
猫獣人:Lv12
力:84(+0)
生命力:114(+0)
知力:229(+0)
精神力:207(+0)
素早さ:72(+0)
器用さ:108(+0)
幸運:68
先天スキル:【猛獣化】 【跳躍】 【暗視】 【上下知覚】 【聴覚察知】 【隠蔽】 【忍び足】 【水泳】Lv1
後天スキル:【採集士】Lv13→15 【良質な眠り】 【魔力操作効率・中】 【魔法士】Lv3
SP:5
職業:冒険者