19.ログアウト
大変お待たせ致しました。最終話です。
「やっと、出来た……!」
何日もかけて【調薬士】のレベルを50まで上げて、漸く万能薬を作る事が出来た。
「ん?」
気付くと一匹の雛スライムが、万能薬を瓶ごと取り込んでいた。
「わああ! 全部は駄目!」
私は、慌てて人数分確保する。
<雛スライムは、ポーションスライム(万能薬)に進化した>
進化したスライムは、残りの万能薬には興味を示さずテーブルを降りて行った。
「万能薬か……」
配った万能薬の瓶を手に、彪が呟いた。
「本当に、プラシーボ効果で現実の病が治ると良いんだが」
「そうだな。まあ、やるだけやってみよう。ゲームの薬には害は無いし。じゃあ、飲もうか」
私がそう言うと、大牙から待ったがかかった。
「いや。ちょっと、たんま」
「どうかした?」
「もし、これで治ったら、強制ログアウトになるかもしれないよな?」
「その可能性が無いとは言えないな」
「折角だから、ラスボス倒そうぜ」
大牙の言葉に、私達は顔を見合わせた。
「確かに、ラスボス倒さねえでログアウトになったら、スッキリしねえな」
「そうだな。ラスボスまでまだ大分かかるなら兎も角、直ぐだからな」
「まあ、ラスボスに興味が無いとは言わない」
「私はどうでも良いが、皆が戦いたいなら仕方ないな」
ジャガーとレオンが積極的に、マオと彪が消極的に賛成する。
「でも、ラスボス倒して強制ログアウトと言う可能性もあるよな」
「だったら、戦闘中に飲めば良い」
私の言葉に、大牙がそう答えを返した。
「それもそうだな」
夕食後、リビングでまったりしていると、床にうつ伏せになっている大牙にマオが近付いた。
「どうした、お坊ちゃん?」
マオは無言で大牙の上に寝転んだ。
「俺を敷き布団にするんじゃありません!」
「では、私が掛け布団で」
レオンがそう言って、マオの上に被さった。
「ぐえ~」
「レオン。マオが潰れるから退いてやれよ」
「俺の心配もしろよ」
全然余裕そうな大牙を心配する事無く、マオの為にレオンに退いてやるよう言ったジャガーに、大牙は不満げにそう言った。
「もっと苦しそうだったら、考えてやったけどな」
「重かったか、マオ? 済まないな」
言われてさっさと退いたレオンが、マオに謝る。
「それほどでもなかった」
「そうか?」
ステータスも大分上がっているからな。だからだろう。
翌日。
我々は、『HTLV-1』・『サイトメガロ』などのモンスターを倒しながら、コプフの街へと向かった。
これまで、道中のモンスターは動物型が殆どだったが、ハルスの街からコプフの街までの間に出現するモンスターは、球形で宙に浮いていた。
早く倒さないと増殖するが、全員素早さの値が高いので、問題は無かった。
廃墟と化した街に足を踏み入れると、説明し辛い形状をしたモンスターが陣取っていた。
「あれが、死神?」
『そうだよ』
私が呟くと、イルカが答えた。
「皆、準備は良いか?」
レオンの確認に、全員肯定の言葉を返した。
戦闘が始まると、死神は何本もの足を地面に突き刺した。
「飛べ!」
レオンの指示に従って、誰もが高く飛ぶ。
モンスターのこういった行動の場合、大抵は地面等から針の様に飛び出させて貫こうとするか、広範囲を攻撃する魔法を使って来るかだろう。
空から攻撃魔法を降らせるケースは、少ないのではないだろうか?
死神の攻撃は、前者だった。
我々は、着地するまでの間に其々攻撃を加えた。
「自動回復するとか……」
「厄介だな」
ダメージを与えたのに、死神のHPは徐々に回復していく。
「回復が追い付かないスピードで、攻撃し続けるしかないな」
死神は、回復だけではなく増殖もして来た。
「あ~! 増殖系、飽きた~!」
突然、苛立たし気に大牙が怒鳴った。
「同意だが、だからと言って、どうしようもないだろう」
「解ってますよ~」
宥める様に言った彪に、大牙はそう答えると、死神への攻撃を再開した。
攻撃が途切れない様に行動し、減ったHPやMPをアイテムで回復する。
「ヤバい。もうねえぞ」
一進一退の状態が続き、回復アイテムが尽きてしまった。
後は、此方が倒されるしかない。
「万能薬を飲み忘れるなよ!」
「おう」
私は万能薬を飲み、諦めきれない思いで死神を睨んだ。
その時、死神に攻撃していたスライム達が纏めて貫かれ、飛び散った体液が死神にかかった。
すると、死神は見る間に小さくなっていった。
HPも大幅に減っている。
「は?」
「何だ?」
「万能薬だ! どうやら、弱点だったようだな」
万能薬でダメージを受けるなんて、死神は病原菌か何かなのだろうか?
「今の内だ! 殺るぞ!」
ジャガーの言葉に従い、【猛獣化】した我々は、死神のHPを削りきった。
<条件を満たしました。ログアウトします>
気が付くと、其処は病室だった。
ああ、そうか。
病気治療の為に、入院していたのだった。
何だか、長い夢を見て居た様な気がする。
「今日にも退院出来ますよ」
診察の後に、そう言われた。
そうか。治ったんだ……!
荷物を纏めて、受付ロビーへ向かう。
順番を待つ間、私は辺りを見渡した。
品の良さそうな男性二人組が、柱の側で立ち話をしている。見舞客だろうか?
腕と脚を組んで座り、目を閉じている体格の良い男性が居る。寝ているのだろうか?
背の高い男性が、ペットボトルのお茶を立ち飲みしている。あ、噎せた。
姿勢良く座っていた綺麗な女性が、それを一瞥した。
「成功率は?」
「凡そ三割ですね」
「そうか」
今回の実験では、病気が寛解した者が一割・その後の治療で寛解した者が二割・快方に向かっていたものの再び悪化し亡くなった者が二割・快方に向かう事無く亡くなった者が残りを占めている。
一人だけ、此処に移す前に自宅で殺害されていた事には、驚いたものだ。
「寛解したのは、殆どが余命三ヶ月以上と見られていた方達ですね」
「ふむ……」
『シックスバスターズ』は、まだまだ改良が必要なようである。
最後までご覧頂き、ありがとうございました。