18.間もなくラスボス戦?
「でっか……」
私達は、唖然とボスを見上げた。
次の街へと続く道に立ちはだかったのは、山の様に大きなユニコーン。
「これと戦うのかよ……」
大牙がそう呟いた時、ユニコーンが唸り声を上げて後ろ足で地面を蹴った。
そして、此方に突進して来た。
「ぁっぶね!」
幸い全員避ける事が出来たが、あんな大きなもの、掠っただけでもヤバいだろう。
「何処狙う?!」
「勿論、目と足だ!」
そう吠えたレオンが、蹄に向かって炎魔法を放った。
「何とか、誰も死なずに倒せたな……」
時間はかかったが、全員無事でユニコーンを倒す事が出来た。
「『ユニコーンの角』か。これで万能薬を作れと言うのだろうか?」
入手したアイテムを手に、レオンが首を傾げた。
その角は、先程戦ったユニコーンの物ではないのか、何故か小さかった。と言っても、30cm以上はあるが。
「そうかもしれないな」
「良し! 次の街へ行こうぜ!」
要塞の街ハルスに辿り着いた我々は、これまでと違った物々しい様子に気付いた。
兵士の数と質が段違いだ。
何かあったのか、街の住民に聞いてみる。
「済みません。何だか物々しい様子ですが、何かあったのでしょうか?」
『北に在るコプフの街が、壊滅したんだよ。死神が出たらしい』
死神? まさか、ラスボスだろうか?
いや。早過ぎるか?
しかし、これはβテストだから、最後まで完成してはいないと言う事も有り得るのか?
βテストの体験は初めてだから、判らないな。
SPが増えたので、【テイマー】を覚える。
【テイマー】は、モンスターを『捕獲』・『飼育』・『使役』出来るスキルだ。
早速、『リンクス山脈』へ向かう。
「スライムをテイムさせてください」
手を合わせて中に入ると、掌サイズの透明なスライムがいた。
小さくてプルプルしていて、実においし……可愛い。
「【テイム】!」
魔法陣が球体に編まれ、スライムを包み込んだ。
そして、光を放ち魔法陣が消えると、テイム状態のスライムが残された。
私は、それを掴み上げ、じっと見詰めた。
食べられるかな?
「何故、スライムが居る?」
帰宅して来たマオが、スライム達を見て尋ねた。
「私がテイムしたんだ。あ、近付くと攻撃する事があるから、気を付けて」
「テイムしているんだろう? 何故?」
マオは、当然の疑問を口にする。
「テイムされているからって、服従するって訳じゃないみたいなんだ」
「そういうものなのか」
これは、誤算だった。
スライムが小さくて、良かったな。
さて、色々実験しようと思う。
私は、一匹のスライムに向日葵の種を食べさせて見た。
しかし、消化されてしまった。
何度も食べさせれば、一つ位は消化されずに成長するかもしれない。
そう思って、毎日食べさせる事にした。
別の一匹に、向日葵の種を埋めてみる。
グイッと押し付けたが、入って行かなかった。
今度は、水代わりに回復薬を飲ませてみた。
毎日飲ませれば、HPポーションスライムになるだろうか?
翌日。
一匹のスライムに向日葵の種を食べさせていると、別のスライムがそいつを押し退けて食べ始めた。
すると、ピカッと光を放ち、それが治まると向日葵もスライムも成長していた。
<雛スライムは、花スライム(向日葵)に進化した>
まさか、好物を食べると進化するとか?
そこで、色々な物をスライム達の周りに置いてみた。
花の種ばかり食べるもの・野菜の種ばかり食べるもの・鉱石ばかり食べるものなど、様々だった。
しかし、進化したものはいなかった。
どれか一品しか、進化に対応していないのだろうか? コストパフォーマンスが悪いな。
「今日の夕飯は、俺が獲って来た魚だ~」
大牙は漁船を購入して、それに乗船して漁をして来たらしい。
調理は私が行った。
「これは、何と言う魚だ?」
刺身を箸で摘まんだ彪が尋ねた。
「クエ。リアルでは、高級魚として扱われている。ゲーム内でもレア素材だ」
「そうなのか。幾ら位するんだ?」
「さあ? 幾らだ、金持ち共?」
大牙は、レオンとマオに聞く。
「その言い方は止めろ。……まあ、天然物なら一尾10万以上はするな」
レオンの返答に、我々四人は固まった。
え? そんなに高いのか?!
「関サバは?」
「一尾五千円ぐらい」
「伊勢海老は?」
「一尾一万円以上。しかし、同じグラムで比較しなければ、意味がないのではないか?」
「確かに」
そんな中、マオは一人黙々と食べていた。
大皿では無く一人ずつ分けてあるので、食べ尽くされる恐れは無い。
まあ、仮に大皿だったとしても、マオなら自分の分しか食べないであろうが。
「で、味は? リアルで食ったクエと比較して、どうよ?」
「現実の方が、美味い」
ジャガーの質問に答えたのは、マオだった。
「……本物の方が、良い」
その言葉に、重い沈黙が落ちた。
我々は、ゲームに捕らわれている。幾らリアルでも、皆、現実に戻りたいのだ。
ただ、病状によっては食事制限などがあるだろうし、『健康に戻りたい』と言うのが正しいのだろうか?
「どうした? 食べないのか?」
マオは、不思議そうに我々に尋ねた。
うん? 深い意味は無かったのだろうか?
「あ、ああ。食べよう」
レオンの言葉を皮きりに、我々は皿に箸を伸ばした。
部屋に戻ると、雛スライム四匹と花スライムが、私のベッドのど真ん中でくっついて寝ていた。
「クッションの上で寝てくれよ……」
私は、スライム達をそっとクッションに移動させて、眠りについた。