16.ログアウトの条件?
2017.11.23 後書きにステータスを載せるのを忘れていたので、記載。
今日は、午前中にリンクス山脈で素材を採集した。
食材も取れたので先ずは料理をし、其れ等を屋台に並べた後に、調薬を始めた。
鍋に水と薬草を入れる。
火にかけると薬草の匂いが強くなった。
「琥珀ちゃん。何で、そんな離れた所から鍋を眺めているの?」
暫くして竜子に声をかけられた私は、振り向いて答えた。
「この匂い、嫌なんだ」
「ああ。確かに、好みが分かれそうな匂い」
匂いを嗅いだ竜子は、そう納得する。
「でも、遠巻きに見ていても、どうにもならないんじゃない?」
「解っているんだけど……」
私は数秒躊躇い、意を決して鍋に駆け寄ると火を止めた。
火加減を見なかった為、出来上がったHPポーションは、評価1だった。
折角【調薬士】を覚えたのに、臭いがネックになるとは。
鼻栓でもするか?
でも、ティッシュが無いし、何を詰めよう?
「琥珀ちゃん。孟宗汁頂戴」
「あ、うん。ありがとう」
「この臭い、何とかならないかな?」
『【メニュー】の【システム】タブに、消臭ボタンがあるよ』
竜子が帰った後に呟くと、イルカが教えてくれた。
【システム】タブは以前開いたが、良く見なかったので気付かなかった。
私は早速消臭ボタンをオンにし、ポーション作りを再開した。
鍋に水と薬草をたっぷり入れて強火で沸騰させ、弱火にして煎じる。
濾して容器に入れ、蓋をして完成。
出来たポーションは売らずに、宿へと戻る。
途中、マオを見付けた。
「キミ可愛いね。お茶しようよ」
ナンパされている。
「は? 私は男だぞ」
マオが睨むが、男は剣呑な空気に気付く事無く能天気な声で続ける。
「男~? ま、いっか。可愛いし」
そう言うと、マオの腰を抱く。
止めなければ! マオがPKしてしまう!
「止めろ! 嫌がっているだろう!」
「キミも可愛いね」
マオから引き剥がそうとした私の肩を、そう言った男が抱く。
「はいはい。うちの坊ちゃん達は、お触り禁止」
その声の主は、大牙だった。
音も無く近付き男の手からマオを取り上げた彼は、そのままマオを拘束する。
「放せ」
「よしよし。嫌だったね~。あっち行こうね~」
大牙は、マオを放すと頭を撫でた。
「子供扱いするな」
マオは不承不承大人しく、大牙に手を引かれて去って行った。
一方、此方では、私を助けてくれたレオンが男と対峙している。
「セクハラはしないようにと、教わらなかったか?」
「は? あんたに関係無いっしょ?」
「彼等は私のフレンドだ」
「俺とこの子達の問題だろ? あんた等が、この子達の彼氏だってなら、引き下がるけど?」
「一人相撲だと言う事が判らないようだな」
「そんなんじゃ、女性にモテないぞ」
私も何か言わなければ気が済まなかったので、口を挟む。
「え~? 女って、強引な男が好きだろ?」
「それは頼りがいがある・愛を感じる等の場合であって、ただ自己中なだけの男は大嫌いだよ」
「そもそも、パーソナルスペースと言うものがあるのだから、親しくもないどころか初対面の人間に肩や腰を抱かれたら、不快に思う人間も少なくないだろう」
「でも、俺、そんな自己中じゃ無くね?」
男がそんな事を言うので、私達は呆れて顔を見合わせた。
「お前が何時、我々の心情・都合を考慮した? 暇人と決め付けて何処かに連行しようとしたのが、自己中で無くて何なんだ?」
その言葉が男を追い詰めたのか、彼は怒りに顔を赤くして怒鳴った。
「煩せえ! 女は黙って男に従ってれば良いんだよ!」
次の瞬間、周囲に居た女性プレイヤー達が一斉に男のSSを撮った。
「イルカ。無断撮影って、SS削除されるんだよな?」
『そうだよ。でも、要注意人物の注意喚起の為なら、削除されないんだよ』
「そうなんだ」
女性達は、フレンドにメールを送っているようだった。
「え? 何だ?」
SSを撮られて困惑する男に、理由を教えてやる事はしない。
まあ、女性プレイヤーを敵に回した所で、女性の気持など考えないこの男には、何らの痛痒も無いだろう。
「飽きたから、帰ろう」
「そうだな」
男の意識が我々から離れている隙に、私はレオンに催促して同意を得ると、さっさとその場を立ち去った。
「と言う事があった」
夕飯の席で、ジャガーと彪に語って聞かせる。
「これで二回目か? 美少年なんかにキャラメイクするから……」
一回目は、言うまでも無いが、みくもだな。
「煩い。他人の少年期の顔に文句付けるな」
この顔、実在していたのか。
私は、マオの顔をマジマジと見詰めた。
「お前、リアル少年期に何も無かったの?」
大牙が尋ねる。
「無かった。護衛がいるから」
「お前、何処のお坊ちゃん?!」
護衛付きだなんて凄いな。余程の金持ちか? もしかして、マオってスパダリなんじゃないか?
いや、失礼ながら、包容力は無さそうだな。
「何処だって良いだろう」
「もしかして、レオンは護衛か?」
ジャガーがレオンに尋ねる。
「いや。私は友人だ」
「金持ち仲間か」
レオンは否定しなかった。
「良い所のお坊ちゃんでも、ゲームするんだな~」
「VRゲームで病気を治す臨床試験を受けてみないかと言われてな」
「え? マオも病気?」
「え? 俺もなんだけど」
「私もだ」
「俺もって言うか。おいおい。庶民には無断で実験かよ」
なんと、マオだけではなく大牙も彪もジャガーも、療養中だったとは。
「もしかして、レオンも?」
「そうだな」
友人も同じ時期に病気になるとは、凄い偶然だ。
「しかし、では、ログアウト出来ないのは何なんだ?」
彪が疑問を口にする。
「変な思想の奴が、開発スタッフに紛れていたんじゃないのか?」
「ログイン中は現実の痛みを感じないからな。苦痛から解放する為と言う可能性もあるぞ」
「そうかもしれないが、無断でこういう事をすると言うのが、引っかかる」
彪は、レオンの考えに納得がいかない様子だ。
「臨床試験ってのが、嘘と言う可能性もあるよな」
ジャガーがそんな事を言う。
「確かに、このゲームでどうやったら病気が治るのか疑問だが」
「万能薬を飲んでプラシーボ効果で治る、とか?」
私は、思い付いた事を口にした。
「それかな?」
「それかもな」
皆、納得が行った様子だ。
「でも、臨床試験だからって、治るまでログアウト出来ないのは酷いよな」
「そうだな。そんな話は聞いていない」
「ログアウト出来たら、訴訟だな」
レオンが、獲物を狙う肉食獣の目で呟く。
「ログアウト出来ないのは、臨床試験とは別かも」
「その場合も訴訟だな」
皆で訴訟しようと決めて、部屋へと戻る。
訴訟する為には、ログアウト出来るようにならないと。
ログアウトの条件は、『病気が治る事』で合っているのかは判らない。
それでも、可能性があるのならば、試してみるべきだろう。
猫獣人:Lv20
力:100
生命力:130
知力:381
精神力:343
素早さ:88
器用さ:172
幸運:68
先天スキル:【猛獣化】 【跳躍】 【暗視】 【上下知覚】 【聴覚察知】 【隠蔽】 【忍び足】 【水泳】Lv3
後天スキル:【採集士】Lv22 【良質な眠り】 【魔力操作効率・中】 【魔法士】Lv9 【調理士】Lv18 【調薬士】Lv1→3
SP:5
職業:冒険者・商人