14.モフり魔1
市場で目玉焼きや卵焼きを売った後、レオン達との待ち合わせ場所の広場に向かった。
一緒にレベル上げをするのだ。
「お待たせ」
「おお。来たな」
大牙が返答したその時だ。
「キャー! モフモフ~!」
そんな黄色い声が聞こえたので、視線を向ける。
そこには、大きな尻尾が生えた獣人が居た。
「栗鼠か?」
レオンが呟く。
栗鼠獣人の少女は尻尾に抱き着かれて顔を埋められている事に、迷惑そうな顔をしていた。
「もう良いでしょう?」
「え~! もっと~!」
抱き着いている女は、締まりの無い顔で強請る。
「ちょっと、用事があるので」
「あ~! 待ってよ~!」
女は、去ろうとした少女の尻尾を引っ張った。
ブチっと音がして尻尾が千切れる。
「「「取れたー!!!」」」
辺りで見ていた人達が叫んだ。
私を含む数名が、慌てて回復魔法をかける。
「尻尾……」
少女は、悲しげな顔で千切れた尻尾を見詰めた。
「え? え? 生えて来るんでしょう?」
「生えねーよ!」
「トカゲと違うわ!」
ジャガーと大牙が、女に怒鳴った。
「蜥蜴でも、生えるとは限らない」
マオが補足する。
「でも、ゲームだし、千切れちゃっても問題無いよね!」
「お前が言うな!」
「そう言う問題じゃない!」
反省が見られない態度に、女の周囲から非難の声が上がる。
『部位欠損を治せる上級回復魔法か上級回復薬で治るよ』
栗鼠獣人少女のイルカが治す方法を口にした。
「ほら! 問題無いでしょう!」
その瞬間、周囲から殺気が飛ぶ。
「ゲームだから・治るから、問題無いって言うなら、腕とか千切っちゃって良いんだよね?」
何時の間にか其処に居た竜子が、笑顔で怖い事を言う。
「ちょっ! ちょっと、待ってよ! 私はわざとじゃ無かったし! 謝ったじゃない!」
「「「謝って無い!!!」」」
否定の声がハモる。
「え……え~。謝って無かった~? ごめんね!」
「もう良いです。でも、治っても触らせてあげませんから」
少女が不満げに許した。
「え~! そんな~!」
まだ触る気で居たのか!?
「それなら、私が触らせてあげますよ」
声をかけて来たのは、栗鼠獣人の……イケメンでは無い中年男性だった。
「えっ?! 結構です!」
「遠慮しないで。さあさあ!」
グイグイと迫る男性に、女は後退った。
「ご、ごめんなさ~い!!」
女は、そう叫んで逃げ去った。
「やっぱり、あれか。イケメンに限るって奴か?」
逃げられた男性が、寂しげに呟く。
「この子は女の子ですよぉ」
「あ、ごめん。美少女に限るって事か」
「え?! 私、美少女じゃないですよ!」
少女は謙遜する。
「え~! 綺麗ですよ~!」
「いやいや。それを言ったら、貴女の方が……」
「行くぞ」
褒め合いを見ていたらマオが私達を促したので、私達は漸く狩りに向かった。
「しかし、同じ栗鼠獣人だと言うのに、あの女は何故、逃げたんだ?」
Lv20になり、イルカがボス戦を勧めた後、マオが今更そんな疑問を口にした。
「女が好きなんじゃねーの?」
大牙が、同性愛者なのだろうと邪推する。
「例えば、子犬は可愛いが成犬は怖いと言う者もいるだろう。それと似たような事ではないのか?」
彪が尤もらしい意見を口にした。
「なるほど。そうかもしれないな」
マオは、彪の考えに納得したらしい。
「俺は、スケベ心を感じたんだと思うけどな~。女って、そういうのに敏感だろう?」
ジャガーがそう呟く。
「そう言う考えもあるか」
「おい。先程の女性、今度は我々を狙っているぞ」
レオンの言葉に振り向けば、ウズウズと触りたそうに此方を見ている女がいた。
「大丈夫だろう。此方は殆ど男だぞ」
「男っつーか、子供だからな。舐められてると思うぜ」
彪の考えをジャガーが否定する。
そう考えると、恐れられるのは不良風の大牙とジャガーだけかもしれない。恐らく、先程誰に怒鳴られたのかは忘れているだろうし。
「まあ、武器を手にしていれば、多分大丈夫だろう」
「レオンとマオは持っていないが」
「一緒に居れば大丈夫だろう」
レオンが希望的観測を口にする。
「そうかもな」
流石に街の中では、武器を剥き出しにして歩く事は出来ない。
「おい。まだ諦めないぞ」
【聴覚察知】で付いて来ているのが判る為に、振り向かずにマオが言う。
「仕方ない。走るぞ」
我々はレオンの言葉に従い、一斉に駆け出し獣人の素早さを生かして引き離した。
「何と言うか、可愛いものは正義と言うより、『可愛いものをモフるのは正義』みたいな女だったな」
夕食の席で、今日の事を振り返った大牙がそんな事を言う。
「嫌がっても止めないのは、そんな感じだよな」
ジャガーが同意する。
「そうだ。ブラックリストに入れよう」
私は独り言を呟き、メニューを開いた。
「名前知らないだろう」
ジャガーが呆れたように言う。
「そうだった」
「何にせよ、暫くは警戒が必要だな」
彪がグラスを片手にそう口にした。
「もし、モフられたら、どうする?」
「セクハラで訴える」
大牙の質問にそう答える。
「PKする」
「マオはやり過ぎ」
マオは不満気に大牙を睨んだ。
「お前はどうするんだ?」
「お触り料を頂きます」
「俺は、お返しにパフるかな~?」
ジャガーがそんな冗談を言う。
「それは止めろ」
彪がジャガーに軽蔑の眼差しを向けた。
「へいへい。で、お前は?」
「正座をさせて説教をする」
「私もだ。拳骨を落として説教をする」
レオンも割と暴力的な所があるよな。
明日はボス戦と言う事で、夕食後は早めに就寝した。
尤も、私は【良質な眠り】があるから、夜更かししても大丈夫なんだがな。
さて、お休みなさい。
明日は、モフり魔が出ませんように。
猫獣人:Lv19→20
力:100(+2)
生命力:130(+2)
知力:381(+19)
精神力:343(+17)
素早さ:88(+2)
器用さ:172(+8)
幸運:68
先天スキル:【猛獣化】 【跳躍】 【暗視】 【上下知覚】 【聴覚察知】 【隠蔽】 【忍び足】 【水泳】Lv3
後天スキル:【採集士】Lv20→21 【良質な眠り】 【魔力操作効率・中】 【魔法士】Lv8→9 【調理士】Lv17→18
SP:5
職業:冒険者・商人