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進化した武装

 何だかんだ言いつつ、時は過ぎていく。

 研修と実践を交互に挟みつつ、小規模の定期巡回や失せ人探しなどの事件もこなす。たまには捕り物もあり、そこで更に実戦経験を積んだりもした。

 そうした地道な日々と共に暦は真夏へと変わる。七月の末、三嶋一也と紅藤小夜子は本庁に呼ばれていた。



「勤務態度、成績を考慮した結果、二人とも明日で見習い期間は終わりとなる。今後も慎んで励むように」



 大きな黒檀の机越しに威厳のある声が降り注ぐ。金釦と房飾りがきらびやかな制服をびしっと着こなす年輩の男、その視線は厳しくも暖かい。

 綺麗に整えた口ひげが印象的なこの男こそ、第五代警視総監――三島通庸であった。最初に一也と会った時には「よく似た名字だ」と笑ったが、それでも尚その身から放たれる気迫に背筋が伸びる思いであった。



 言うまでもなく、警視総監というのは警察機構の頂点の職位である。警察官になったばかりの見習い巡査二人が会える立場ではない。にも拘らず、こうして時間を割いてくれるというのは、特務課第三隊の特殊性が効いているからである。



 前途有望な二人の若者を見やりながら、第五代警視総監は思う。怪異妖物対策の為、部下の発案を受けて専門の部署を作ることを承認したのだ。

 わざわざ同盟国の独逸(ドイツ)から来てもらった"制裁(シュトラーフェ)"のヘレナ・アイゼンマイヤー。

 呪法を施された銘刀"狂桜"の使い手、奥村順四朗。

 この二人が第三隊の主力であることは違いないが、それに続く実力者の加入が隊を維持する為の絶対条件であった。



「期待しているぞ、両名」



 雲の上の存在からの重く短い言葉は、一也と小夜子の頭を下げさせるに十分であり。そしてすぐに回れ右をして二人は退室していった。



 夏の盛りである。蝉の声が窓を通して聞こえてくる。

 そのような朝、こうして二人の若者は一人の男の期待を背に受け、いよいよ警察官としての出発点に立ったのである。




******




「ふう、緊張しましたね」



「激励のつもりなんだろうけど、気を使っちゃうな」



 三島警視総監の部屋を出てしばらくした後、小夜子と一也は顔を見合わせた。警視総監の肩書きが無くとも、身につけている風格の違いで自然と気圧される。そんな相手から声をかけられれば、やはり緊張はするのだ。



 とはいうものの、やはり見習い期間が終わったのは素直に嬉しい。内示は受けていたため知ってはいたが、公式に認められた安心感はまた別だ。

 今日この時から正式に警察官として勤務することになり、本採用決定である。



 このまま八重洲の第三隊の本部に向かう予定だが、一也はその前に寄る場所があった。本庁の建物を出てから、すぐに同じ敷地内の別の建物を目指す。



「あれ、一也さん。出口あちらですよ、そっちは兵器課の建物じゃ」



 小夜子はそこまで言った時点で気がついたらしい。サイドテールを揺らしながら小走りに近寄る。



「もしかして銃の改造が終わったんですか?」



「うん、昨日連絡あった。ちょうどいいから受け取ってから戻る。小夜子さんも来る?」



「はい、新しくなった銃見たいです!」



 そうこうしている内に、あっという間にお目当ての二階建ての建物の前に立つ。

 黒い漆喰塗りの壁に白く太い格子が走る壁には重厚感があり、本庁とは別の意味で入りづらい。小さめの窓がそれに拍車をかけていた。

 だが一也は意に介さずに近寄る。雰囲気を和らげるためか、扉の近くに植えられている朝顔の花を一瞥しつつ入り口から声をかけた。



「すいません、昨日連絡を受けた三嶋です。お願いしていた銃を受け取りに参りました」



「おお、来なすったか。入れ入れ」



 開けっ放しになっていた入り口から野太い声が聞こえた。

 続いて建物内の薄暗がりから、声の主が顔を出す。

 頭を白布で包んでいるのがまず目につく。ずんぐりした体躯を茶色っぽい作務衣で包み、こちらにのそりと近寄る姿は何となく狸を連想させた。男の小さな目が一也を、次いで小夜子を確認する。



「おお、紅藤さんも一緒かあ。まんずむさ苦しいとこじゃが、入りんさい」



「お邪魔しまーす、谷警部」



「ん。周りで作業しとっからのう、ぶつからんよう気いつけ」



 九州の方らしき訛りがきつい口調で男――谷は二人を促した。

 警部の階級を持ってはいるものの、彼は警察官としての捜査の経験はほとんど無い。

 そしてそれは、建物内で働いている作務衣姿の者達も同様であった。

 


 警視庁本庁に属する兵器課の業務は読んで字の如く、警察官が装備する武器の開発や修理が主である。

 装備を外部調達することもあるので、全ての武装を兵器課で製作している訳ではない。だがワンオフの武器や試作については、この兵器課が行っているのである。

 警察内部の組織でありながら、警察らしからぬ技術者(エンジニア)の集団。それが兵器課である。

 発足時に武器については民間企業に完全外部委託する案もあったのだが、場合によっては武器情報が外に流出し犯罪者らに伝わる可能性もある。

 それを危惧し、一部内製したい武器は兵器課で製作することになったのだ。



 兵器課の中の雰囲気は独特である。

 金槌や釘が作業台の上に転がっており、それを課員が精緻な動作で組み立てている。素人にはまるで分からない順序で、複雑な器具を操り拳銃を直す者もいる。

 その傍らではまた別の作業が行われていた。別の課員が反りが曲がったサーベルを叩き直し、刃を研ぐ。

 カツン、と一つ槌が金属音を産み出す度に火花が散り、サーベルの刃は輝きを取り戻していった。



「お忙しい中すいません」



「いんや、それが俺らの仕事だあ。まあ、ちょいと手のかかる仕事だったんは否定しねえがよ」



 ガハハハと豪快に谷が笑う。周りの様子もあって、警官というよりはどこぞの工場長のようであった。太い首を回し、上背に勝る一也を見る。



電気(エレキテル)で弾を撃つ銃って聞いた時はたまげたがの。難しくもあり、遣り甲斐もあるええ仕事やった」



 そう言いながら谷は立ち止まった。そこだけが周りに壁がある。工房のように仕切られており、入り口には黒い布が垂れ下がっていた。どうやら目隠しらしい。

 それをめくり、谷はそこから何かを掴み取ってきた。ぐい、と力強く一也に差し出す。



「ご期待通り、実弾仕様に改造したわ。持ってみい」



 一也の手に渡った銃は、あの魔銃ではない。微妙に各所に改造が施されてはいるが、それは一也が元から持っていたM4カービンに違いなかった。

 


 高い破壊力と長距離射程を誇る魔銃は確かに強力な武器である。先日の検査の折に、バレル内部のライフリングに沿って呪文が刻印されていることも確認されている。

 今はともかく一也が呪力を鍛えれば、弾丸に特殊効果を付与して撃ち込むことも十分期待できる。

 だが、一也は貪欲であった。せっかく今まで愛用してきたM4カービンも、何らかの形で活用したかったのだ。

 弾丸をBB弾から実弾に変更しただけでは、弾が重くなるため射程の短縮や命中率の低下が免れない。

 しかし秒間20発の連射力は眠らせておくには、余りに惜しかった。



「ばってりいの出力の強化、それに合わせて銃身にかかる衝撃も重くなるからのう。部品交換して金属製にした部分も少しはあるわ」



「バレルと、あとはストック、それに継ぎ目を何ヵ所かですね。本体部分はそのままですか?」



電気(エレキテル)のからくり入っとる所はあんまり手つけると恐いからな。この銃、電気(エレキテル)で空気縮めて、それを放つ力で弾撃ち込んどる。精巧な作りやから下手にいじると修理出来ん」



 谷の言葉に頷きつつ、一也は久しぶりに手にとったM4カービンを眺める。元の艶消しされた黒い強化プラスチックと合うように、随所で交換された金属パーツも黒く塗られた鋼である。多少重くなってはいるが、耐久性向上の為ならば仕方ない。



 M4カービンの改造は一也が見習い期間に入ってすぐに願い出た。最初は見たこともない電動アサルトライフルを前に、谷を始めとする兵器課の人間が奇異な物を見る目を隠さなかった。

 おかげで説得には苦労したものだ。

 だが、そこで退かずに一也が粘ったおかげで互いに信頼関係は築けた。

 


 改造段階で何度か一也も足を運び、知恵を絞ったものだ。悩みの種は連射性能を落とさずに、実弾を撃てるようにする――それは何個かの要素を改良して始めて実現された。

 出力増加の為のバッテリーの蓄電力の強化。

 衝撃に耐えるため、要を押さえた上での金属部品への交換。

 そしてそれだけでは足りず行ったのが、鉛弾ではない別素材による弾丸の使用である。



 そもそも銃が強力なのは、弾に使われる鉛が重い金属だからである。

 固体の比重比較表では鉛は11強の比重を示し、これは鋳鉄の7強よりも五割以上重い。仮に同じ速度で撃ち出せば、鉛弾は鋳鉄製の弾より五割以上の貫通力を示すことになる。

 だが、重い弾というのはそれだけ撃ち出す際のエネルギーを食う。プラスチック製のBB弾から鉛弾に変えては、そこそこバッテリーを強化してもとても同じ連射性能など望めない。



「だから弾丸の材質を変えたんじゃよ。鉛から御影石にの」



「えっ、御影石ってあのお墓に使われたりする石ですよね。そんなに軽いんですか?」



「おう。御影石に限らず、大体の石は鉛の四分の一くらいの重さしかねえ。これだけ軽けりゃ、強化したばってりいの力で十分撃てるってことよ」



 一也がM4カービン、いや、M4カービン改をいじくっている間、谷が小夜子に説明する。正確な比重表など明治時代には無かったが、概ね経験則で主な材質の比重は知られていたのだ。

 ちなみに御影石の比重は約2.7であり、鉛の四分の一という谷の言葉はほぼ正しい。



 その御影石製の弾丸を渡され、小夜子は指で摘まんでみた。紡錘形をしたよく見る弾丸と違い、完全な球体である。これは元々使っていたBB弾と同じ形でなければ、M4カービン改に合わないからであった。



「石の弾で威力があるのかと思ってたりする?」



「ちょっとは。硬いことは硬いですが、あんまり重くないですよね。ああ、でも当たったらやっぱり痛いんだろうな......」



「見た方が早いな。谷さん、せっかく仕上げてもらったんだ。試射出来ますか?」



 小夜子に説明するならば論より証拠である。一也の質問に谷は「おうよ」と頷いた。




******




 兵器課はその業務の性質上、銃の試し撃ちを所定の場所で行うことを許可されている。三人が移動してきたのは、本庁の敷地の隅であった。

 この一角だけはぐるりと木々で囲まれており、更にその中にある簡易な組み上げの建物がある。

 奥行き十間(約18メートル)ほどの先、壁には的となる藁人形が立っていた。よく刀の試し切りなどで使われる物である。



 小夜子と谷を背後に残し、一也は無言でM4カービン改を構える。久しぶりの感触に心が踊る。

 グリップを変更しなかったのは正解だった。もっとも手が触れる場所だけに、あまり慣れ親しんだ感触を変えたくは無かった。



 プラスチック製から御影石製に変更したことで、どれくらい破壊力が上がったか。素材の比重から推定は出来るが、やはり実際に撃ってみないと分からない部分はある。

 モードはフルオートだ。狙う。引き金を弾く。出力を上げたバッテリーがモーターを駆動させ、秒間20発の連射性能を可能にする――



「う、わあ......石でもこんなになるんですね」



「うむ、自分で作ったとはいえ見事なもんじゃな」



 掃射を浴びた藁人形の惨状に、小夜子と谷が顔を見合わせた。

 完全破壊こそされていないが、高速でめり込む御影石製の弾が藁をちぎりとばしている。人体ならば骨に当たる木で組んだ部分、そこも何ヵ所かへし折られたり削られていた。

 一発一発の破壊力はそこまでではないものの、集中砲火すると十分凶器の領域に達しているのは明らかである。



「一撃必殺の貫通力、遠距離狙撃の面では魔銃に分がある」



 一也がM4カービン改にセーフティをかけ直す。カラリ、とマガジンの中で弾が転がる音がした。



「比較的近い間合い、対多数相手にはこいつの出番だ。見ての通り、鉄が相手じゃ無ければ十分これでも通用する威力はあるし」



 谷に礼を言いつつ、一也は微かに笑いを浮かべた。近距離はともかく、中~遠距離の装備についてはこれで十分という自信が生まれた。その自信が、見習い期間中にたくましさを増した体を更に大きく見せていた。








 既存の火器とは一線を画す漆黒の長銃二挺、そしてそれを自在に操る一人の青年。"黒の銃士"の物語はここから始まる。

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