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職場の皆はよく食べよく飲みよく話す

 気絶していた――と思う。

 どれくらいの間かは分からない。だが派手に電流を頭に流されたのだ。

 唸りながら一也が意識を取り戻した時には、彼の体勢は最後にとっていた体勢とは違っていた。

 比較的キチンと椅子に腰かけていたのに、だらしなく投げ出されたようになっている。手足の先が軽く痺れている感触があった。



「......う、うう」



「おお、気がついたかね。ふむふむ、予期していたより頑丈だな。気絶時間は三分と」



「い、いきなりご挨拶じゃないっすか。どこが呪力測定だ」



 恨みがましく見上げる一也の視線など気にもせず、伊澤博士は机に積まれた機械を見ている。

 電極仮面から伸びたコードがそこにつながっていることから、恐らく呪力の測定装置か何かなのだろう。「ほほう」と感心するような声を博士があげる。



「三嶋巡査、歓びたまえ。君には呪力があると確認された。それもそれなりにな」



 ツカツカと踵を鳴らしつつ、伊澤博士が近づく。次に何を言うのか、と一也が思っていると。



「というわけでこのまま実験を続けようか!」



「子供が珍しい玩具見つけたみたいな顔で言わないでくれます!?」



「失敬な。珍しい玩具などではないよ」



 コホンと咳を一つ鳴らし、白衣を翻す。

 その真摯な表情に、少なからず一也はホッとした。

 そうだ、仮にも警視という責任ある立場の人間なのだ。人を無下に使うような真似はしないだろう。さっきの電流はたまたま――



「貴重な実験動物だと思っているからな。安心したまえ」


「ノー! 俺、マウスじゃない!」



 ――たまたまでは無かったらしい。思わず英語で突っ込むほど、一也の心拍数が変に上がる。

 このままでは呪法が使えるようになる前に、寿命が尽きるのではあるまいか。そう半ば本気でびびっていた。



 だが黒々と高まる一也の恐怖など無視して、伊澤博士とその部下達は実験を進めるようだった。

 一也はそれに従うしかない。

 相手は上官であり、身体は椅子に拘束されているのだ。とにかく一刻も早くこの時間を終えたかった。



「さて、三嶋巡査。先ほどの測定で君の呪力が大体分かった。その結果を話す前に問うが、君は呪力がある人間が全体のどれくらいの割合か知っているかね?」



「あてずっぽうですが、一割くらいですか」



「うむ、まあそんな物だな。正確には能力覚醒の努力や工夫をしなくても、一割弱の人間は呪力がある。これが正しい」



 思わせぶりな言い方である。丸眼鏡のブリッジを指で持ち上げつつ、伊澤博士が語る。



「先ほどの電極仮面な。あれは単なる測定用の機械ではない。拷も――いや、一定以上の刺激を与え、対象の眠っている能力を目覚めさせる機械でもある」



「今、拷問て言いましたよね?」



「男が細かいことを気にする物ではないよ」



 体よくかわされた。伊澤博士は一也の気持ちも知らずに説明を続ける。



「自分の持っている潜在能力を特にきっかけが無くても引き出せる者もいれば、危機的状況に陥って初めて能力に目覚める者もいる。こと呪力に関しては、君は後者であったということだ」



「ん、じゃあもし一般の人がこの機械でわざと電流浴びたら――呪力に急に目覚める人が急増するかもしれないと」



「然り。だがまあ、ほとんどの人間はこの電極仮面に触れる機会も無く、人生を終える。もし全日本国民にこれを使うことが出来たら、全体の二割三割が呪力に目覚めるかもしれん。現実味は欠くがね」



 過程はともかく、一也が呪力がある、と判断されたのはかなり幸運だったようだ。

 強引な手段で無理矢理引き出されたようなものであり、それは大いに不満であったが今は口を閉じる。

 伊澤博士はそんな一也の顔を見ながら頷いた。



「でだ。せっかく君の中に呪力があったと分かったのだから、これからそれをどう活用しようかを考えよう。呪力というのはそれだけではどうにもならぬ。形を整え、正しい方向に発揮してやらねばな」



「......分かりました」



 渋々と言った形ではあるが、一也は了承した。

 実験は嫌ではあるが、呪力といういわばサブウェポンが増えるのは歓迎だ。

 それに小夜子を見ている内に、中々便利だなと思うこともあった。



 そう、一也が内心密かに暖めている目的達成の為にである。



 再び電極仮面が一也に被せられる。

 わぁんと音が反響する仮面の中で、一也はかろうじて外からの声を聞き分けた。

 微かに聴こえる足音から、周囲の警官達が動いているのが分かる。「電流強度、下げました」「うむ」という声が聞こえた気がした。すぐに伊澤博士がこちらに向いた気配がする。



「さて。今から行うのは君が呪力を認識するための訓練だ。弱い電流を流し、君の中の呪力をその分だけ引き出す。全力にしないのは、君が操作できる呪力の量が少ないからだな。初心者だから当然なのだが」



 ここまでは分かるかな、と確認され、一也は声を出す代わりに頷いた。仮面に隠れてはいるが動作くらいは伝わるようだ。



「よし。呪力を意識出来たらその感覚を覚えろ。この訓練を積んだ後、具体的にどんな呪法があるか教える。頑張りたまえ」



 伊澤博士の声が遠のく。座った一也の腕を抑えつけていた警官達も離れる。一瞬の空白の後、ぴりぴりとした感覚が頭の中に走り始めた――




******




「ほうほう、一也君も呪法使えるようになったんや?」



「これで使えないのはお前だけだな」



「意地悪言わんといてや、隊長......」



「事実だろ」



 順四朗とヘレナが話すのを、一也は苦笑いしながら聞いていた。隣では小夜子がガシガシとへらを使って、もんじゃ焼きを焼いている。

 所は月島、とあるもんじゃ焼きの店である。

 いい感じに煙でいぶされた板壁とそれに合わせたような畳が渋い。



「まだ大した呪法は使えませんよ。習い始めて一週間ですし」



「あ、一也さん。そこのもち入り焼けてます」



「紅藤君、悪いがそこのスジ肉入り少し分けてくれないか。そう、それ――で、ええと何か言いかけてたっけ?」



 ヘレナが器用に箸を使いながら聞いてくる。

 どうやらもんじゃに気を取られて聞いていなかったようだ。

 独逸(ドイツ)人が珍しいのか、周りの客が好奇の目でちらちら見ているが本人は気にも止めない。

 本人いわく「一々気にする程の物じゃない」ということらしい。

 小夜子がそれを聞いて「隊長って器が大きいですよね」と言ったのは、女性にとって誉め言葉かどうかは微妙な気がする。

 それはともかく、ヘレナがもんじゃ焼きを頬張りながら一也の方を向く。



「今、何種類使えるようになった?」



「二つだけですね。狙撃眼と鉄甲」



「小夜ちゃん、解説お願いしてええ?」



 順四朗がさっぱり分からない、といった様子で聞く。

 ちなみに彼が小夜子の呼び名を紅藤さんから小夜ちゃんに変えたのは、単に呼びづらいからである。

 一見すると飲み屋のお姉ちゃんを呼んでいるようだが、順四朗の性格も相まって嫌らしい感じはしない。



「はい。狙撃眼が遠くを見る為の呪法です。遠見とも言いますね。で、鉄甲が自分の全身を硬化して、攻撃を防ぐ呪法です」



「文字通りやな。ふーん、狙撃眼は三嶋君の特性考えたら分かるけど、鉄甲は? 他にも足速くなったり――あっ、隊長、その海老入りの己の! 他にも索敵に使う呪法とか、あるんちゃうん」



「ありますが、それらの方が高度なんでまだ取得出来なくて。あと、俺は全然防御の技術無いから、呪法で補うことにしました」



 実際、一也の選択は無難である。

 使いたいと思える呪法を選んだ方が慣れるのは早いし、あまり色々選んでもどれもが中途半端ということになりかねないのだ。

 銃をメインウェポンとする以上、それを活用する構成で呪法も選択しておきたかった。



 一也も自分のもんじゃに取りかかる。

 昔食べた時はちょっと気張って、海老イカ豚玉もちチーズなど頼んだこともある。

 今日は久しぶりなので、無難に豚玉にした。自分でへらを使って作る分、娯楽的な要素が強いのがもんじゃの特徴である。



「あっ、堤防決壊してもうた!」



「馬鹿、私の方に混じるじゃないか。止めろ止めろ」



 その為、このように部下と上司のわだかまりを解く――あるいは逆に悪化させる――効果も望める大変楽しい料理でもある。



「おばさーん、もう一つ。明太子の!」



「あいよ。お嬢ちゃん、よく食べるねえ」



「やだ、ほんの三枚目ですよ?」



 小夜子はそう言うが十分過ぎる。痩せの大食いの典型なのか、とにかくこの子はよく食べる。

 そんな和気あいあいとした雰囲気の中、一也はこっちの堤防決壊を直し、あっちのお茶がなければ注文し、更には他の客に「うるさくしてすいません」と頭を下げたりと苦労していた。






麦酒(ビール)もいいが、たまには日本酒もいいな」



「はい、ただいま!」



 ヘレナの呟きに即反応し。



「あー、あかんわ、一也んのと混ざりそう」



「ほら、もう貸してください!」



 順四朗の下手なへらさばきを見かねて堤防決壊を修理したり。



「もぐもぐ......もっといけるなあ」



「すいません、この蟹入りもんじゃ一つ――蟹い!?」



 小夜子の分まで追加注文したり。



 まさに店員かと見間違うばかりに、実によく働いていたのであった。



 別に一也は他人の世話を焼くタイプではない。

 この時彼にとって不幸だったのは、ただ単に周りの人間がマイペース過ぎて、自然と彼が動かざるを得なかった点である。



「ねえ、小夜子さん」



「何でしょうか?」



 仰天のお値段の蟹入りもんじゃを頬張りつつ、小夜子があっけらかんとした顔で答える。一也は心持ち小声で囁いた。



「あのさ、俺ら一応見習いなんだし。食べるより先にね、こう気配りとかさ」



「た、食べたら駄目なんでしょうか!?」



 余程ショックだったのか、小夜子が箸を取り落としそうになった。



「駄目じゃないけど、それより周りを見ないと。一応縦社会なんだし」



「ん、んん、注意します」



 初めて気がついた、という感じで小夜子が頷く。

 これは本人の不注意でもあるが、周辺の環境も悪い。

 あの第三隊の期待の新人、しかも珍しい女性警官ということで周りが甘やかしてる部分もあったからだ。

 その辺りの機微は、一応部活を通して上下関係を経験している一也の方が知っていた。



「む、確かに三嶋君の言う通りだな。ただ、そう堅苦しくなる必要はないぞ。所詮ご飯だし」



「あー、そうやねえ。己もあんまり小うるさいこと言うの嫌やなあ」



「そうですか......」



 ヘレナと順四朗がいい感じにのほほーんとしていては、一也の注意もさほど効果は無さそうである。「気をつけまーす」という小夜子の声にもあまり緊張感は無い。



 "おかしいな、昔の人間の方が行儀作法とかうるさいんじゃなかったっけ"



 釈然としないまま、へらでもんじゃをいじくる。

 半ば焦げかけた辺りは意外にもパリパリして美味であった。



「すまない、追加だ。冷奴と牛肉のしぐれ煮」



「まだ飲むんですか、隊長」



 日本酒の徳利を振りながら頼むヘレナに思わず突っ込む。典型的な酒の肴しかさっきから頼んでいない。順四朗と小夜子も似たようなものである。



「まだ宵の口だろ、ほら、三嶋君も一杯やろう」



 上機嫌な笑顔でお猪口をもたされては、断れる訳もなく――結局、一也は翌朝二日酔いに悩むほど飲まされたのであった。

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