いくつかの詩
『酒』
一盞に如かず
一時の憂い
一盞に如かず
無量の悲哀
一盞に如かず
我が恋の火
酒肴にすべし
『うつ』
腐ってゆく
よろこびの樹
瘴気に満ちた
冷湿な土壌で
よろこびの樹は
腐ってゆく
ああ、立ち腐れだ
花実のないよろこびの樹
見知らぬ他人の吐きかける
灰色の霧によって
よろこびの樹は
腐ってゆく
ほら、さいごの一葉が
音もなく散った
『闘争』
さあ、噛め
我と我が身を噛んで
丈を増せ、心の火
そうして燃やすんだ、
天の場末のあの顔を。
『苦味』
冬よ、夏よ、秋よ
どうして、貴様らは
わたしにそれと知らせてくれぬのだ
春の季節を
鬱金桜よ
わたしの目の届くまで
散ってくれるな
ひまわりよ
わたしが覚めるまで
顔を上げないでくれたまえ
わたしはまだ、地虫なのだ
土の苦味を噛んでいる
哀れな地虫なのだ