第6章 使者
第6章 使者
第1話 伝言
ムーに使者があった。
使者といっても、その存在は地球の軌道上にいる。
ムーの防衛機構は、何も働かなかった。
そのものが言う。
「私は、ただのメッセンジャーです。
SSRの少し外側に、それは、存在します。
そこの座標はお教えします。
そこは、他の者には見えない領域です。
私の主は、頼まれた事を果たす時が来たと、言っています。
『命を織り成す方』と伝えれば分かる、と言っていました。
そして、そこに来るか来ないかは貴方達が決めろとも」
そのものは、突然消えた。
空間転移をしたのではない。
空間転移なら検知できる。
LB13は、思案した。
「行ってみたい。
『命を織り成す方』との接点があるかもしれない。
使者の移動手段にも興味がある。
ここは、4つの艦隊が守ってくれるだろう。
いざとなったら戻ってくればよい」
だが、それは間違いだった。
戻ってくる事は、出来ない。
途中で戻る事は、出来なかった。
第2話 罠
指示された座標に、アプリが着いた。
暗闇の空間だ。
遠くに光る恒星達が瞬く。
「来たか。
入るがよい」
アプリは、異質な空間に居た。
いや、それは、空間なのだろうか。
だが、呼吸はできる。
誰かを探した。
何かを探した。
「お前達には、何も見えぬ。
何も感じられぬ」
これは、罠だったのか。
誰が、何処で、『命を織り成す方』と我らの接点を知ったのだ。
罠なら、もはや、逃れられない。
「罠ではない。
わしは、頼まれただけじゃ。
40億年前に、ある方からな。
わしは、代替えにここを貰った。
遅かったが、速かったではないか。
さて、始めるとしようか」
「おぅ。
そうじゃ。
ここでは、呪文も精も使ってはならぬ。
自分自身の能力で対処するのだ。
13人全員揃ってでもよいぞ」
目の前に巨人が現れた。
身体も大きいが精神エネルギーが桁外れだ。
測定する気にもなれない。
いや、測定できないだろう。
巨大な精神エネルギーに押し潰される。
圧倒的なパワーだ。
速度を上げても振り切れない。
「無駄じゃ。
気付け」
第3話 気付き
幸は、最初、圧力に負けそうになった。
だが、だんだん楽になっていった。
全てを回避できているのではない。
最小限の圧力だけを受けているのだ。
「無意識の意識」を発動させている。
この発動も無意識だった。
巨人は、放射状にパワーを発している。
だが、その領域は均一のパワーを持っていない。
波のように、周期を持っている。
幸は、その谷間を漂っている。
だが、それだけだ。
幸には、これから為す術がない。
「無意の祈り」を発動させた。
これで、皆の負担が軽くなるはずだ。
「無意の祈り」は、精神エネルギーの攻撃を一時的に防御する。
レオの思考が戻った。
「幸。
皆に、お前の意識を伝えろ」
「無意識の意識」が皆に伝わった。
皆の負担が軽くなる。
アリスの会得が早かった。
アリスは「弱点検知」を発動させた。
エネルギーの最小値の箇所がいくつも見つかった。
イワンがその箇所をMAXパワーで攻撃する。
巨人の領域が狭まった。
連続したものが、断続的になったためだった。
このアリスとイワンの攻撃が続いた。
巨人が極小化したように見えた。
リーが「強制の転送」を発動させた。
巨人は、見えなくなった。
「気付いたか。
この巨人のパワーは、EXPレベル4じゃ。
お前達の攻撃は、直線的に波を発しているだけじゃ。
放射状に発する事を覚えるがよい。
全ての異能力は、性質じゃ。
威力には、個体差がある。
精進せよ」
「さて、次に移ろうか」
第4話 速さ
何かに攻撃されている。
「次は、本気で行くぞ」
幸が気付いていた。
ロバートも気付いていた。
ロバートは、指数関数に交換していた。
「速くて、小さいものが攻撃している」
物質の速さは相対的なものだ。
物質は光速に近付くほど、加速させるEOPは速さでは無く、重さへと転じられる。
しかし、固有速度は違う。
遠距離攻撃は、物質とほぼ等しくなる。
が、被攻撃者に接触する瞬間に実体化させれば、攻撃者と被攻撃者の速度の差だけになる。
光速の制限は、適用されない。
レオが言う。
「ロバート。
連動の射撃を皆に向けて、発動しろ。
但し、指数関数だけだ。
力は加えるな」
これは、以前からアインと考えていた。
結果が予測できなかった。
今は、仕方がない。
ロバートが、連動の射撃を発動させた。
関数だけが、天井を向く。
皆の身体が揺らめく。
強制的な突然変異が始まった。
皆が、指数関数を手に入れた。
勾配には、個人差がある。
攻撃が始まった。
直撃すれば、身体を貫通するだろう。
だが、皆には見えた。
そして、回避できた。
「ほぉ。
さすがに、成長が速いな。
今の攻撃は、周波数と速度のEXPレベル4だ。
次は、一緒にいくぞ」
第5話 呪文(1)
攻撃が、掠める。
いや、当たっている。
直撃を受けていないだけだ。
じょじょに慣れてくる。
じょじょに避ける事ができる。
いや、最小限に抑えているだけだ。
長い時間は、耐えられないだろう。
反撃する。
要領は、パワーで実証済みだ。
攻撃が止んだ。
「皆、手に入れたな。
だが、それは初歩だ」
皆が「無意識の意識」と「指数関数」を手に入れた。
「次は、教えてやろう。
だが、覚えるのはお前達だ。
魔女達から呪文を教わったな。
彼女らの禁忌も教わったな。
使ってみろ。
禁忌以外の呪文は、銀河では役に立たん」
皆が呪文を唱える。
しかし、発動しない。
使った事がない。
使ってはいけないと、思っていた。
確かに、地球上で使えば破滅が待っていただろう。
しかし、この広い銀河では、必要なのだろう。
どうやっても、発動しない。
「当たり前だ。
儀式がなっておらん」
第6話 呪文(2)
「えっ。
儀式?
何が足りないのだ」
「お前らの発動しようとしている呪文は何だ」
「召喚の呪文…」
そうだ。
召喚される者は、何処から来るのだ。
この世界からではない事が、予測される。
召喚される者への願いが、足りないのかもしれない。
儀式とは、願いの強さなのかもしれない。
LB13は、1つとなって願いを捧げた。
そして、呪文を発動した。
出来た。
そこに巨大な蛇がいた。
生身を持たない蛇がそこにいた。
巨大な精神エネルギーの塊だった。
「用がないなら、帰るぞ」
巨大な蛇が、いなくなった。
「うむ。
出来る事は、出来たな。
後は、経験だけだ。
教える事は出来ない。
あの蛇が暴れたら、わしでも手に余す…
もう2つの呪文も知っているな。
要領は同じじゃ」
第7話 精
「精を使ってみろ」
レオが『引用の棚』を発動させた。
「なんじゃ、それは。
まるで、精が活かされておらん。
精が力を持て余しているぞ」
レオが考える。
「…
呪文に願いが必要なら、精には望みか」
レオが望みを持つ。
「この者の正体が知りたい」
レオが『引用の棚』を発動させた。
すると、何処かに引き摺り込まれた。
「ははは!
うまく使えたようじゃ。
だが、これも未だ、初歩だ。
わしの正体を知るのは、もっと経験を積んでからじゃ」
レオは、我に帰った。
周りの者は、何も気がつかない。
レオ「疑似体験ではない。
実体験だ。
精をまるで使い切れていなかった」
この事を皆に伝えた。
皆もそれぞれの精を発動して見た。
実効がまるで違う。
手応えがまるで違うのだ。
「今まで何をやっていたのだ」
第8話 ムーへ
「ここまでじゃ。
約束は果たした。
1つだけ、お前達に褒美をやろう。
これから、お前達が所有している領域は不可侵じゃ。
わしが、後見となろう。
ユーラには、わしから伝えておく」
アプリは、ムーへ戻った。
半年が経過していた。
今は、あそこでも、今なのか。
初歩を覚えるのに、半年もかかったのか。
襲撃は、あれ以来起こっていないらしい。
鉱山開発が進み、技術も進歩しているらしい。
ターナー「今まで、何処にいたのですか。
いくら探しても、見つからなくて…
心配していました」
鎮也「すまなかった。
3日後に出発する。
ペンタダイバリオンとセントニウムの補充を頼む」
ターナー「了解しました。
鉱山開発が予定より早く進み、貯蔵は充分です。
絶対量は足りませんが…」
あそこの者は思っていた。
「40億年か。
わしに時間の流れは無縁じゃが。
長いのだろうな。
しかし、成長の速度が速い。
速過ぎる。
教えていない事も、瞬時に覚える。
楽しみなのか、怖いのか分からない。
だが、EXPレベル1だ。
防御も使い方も教えた。
EXP属なら、何とかなるかもしれない。
だが、FCT属が混じってくると無意味になる。
ここでの学びが無意味になる。
あの方は、それも想定しておられるのだろうか。
保険を1つかけておいた。
気休めの保険じゃが…」
・遺伝子の第1話 ストレス
丹波は、レアレベル者だ。
それも3つの分野のレアレベルを持っている。
その分野の1つに「遺伝子学」がある。
遺伝子学は、染色体、DNA、RNAそのものの構造を研究するのが主題だ。
だが、いくら研究しても遅々として進まない。
丹波は、視点を変えた。
「研究そのものよりも、実世界に応える事が重要だ。
今までの経験からストレスと遺伝子が関係している事は分かっている。
ストレスを計測できないだろうか」
ストレスは、いくつかの種類を持っている。
心理的ストレスに焦点を当てた。
心理的ストレスにも2種類ある。
快ストレスと不快ストレスだ。
丹波「両方の研究が必要だ。
問題がある。
被検体をどうするかだ。
自分がなるしかないか」
快ストレスから始めた。
丹波に異様な高揚が襲う。
周囲の者は、実験を途中で止めた。
丹波「測定には、問題が有り過ぎる。
1つ1つ処理しよう」
丹波は、鎮也に頼んだ。
「ユーラの保証が貰えませんか」
被検体となった者の精神が破壊された時、転生できる保証だ。
記憶付きを願う。
鎮也はユーラに訊ねた。
ユーラ「リーとロバートは、特別なのです。
同じ命が同じ精神を紡ぐために、必要なものがあります。
それは、精神の完全安定です。
そのために、突然変異領域帯を除く98%の遺伝子発現が必要です。
つまり、全ての発現が必要なのです。
記憶は…
貴方達は、冬眠技術を得ていますね。
目覚めのタイミングで命を与えましょう」
丹波「現在の人類には無理という事か。
別の手法を考えよう」
・アインの考察の第5話 観測
アインは、観測に疑問を持っていた。
「我々の観測は、事実を語っているのか。
計測・測定といえば、もっともらしいが、根拠が薄い」
問題を単純化してみた。
観測者は、平面を測定したい。
観測者が、その平面上に居たとする。
観測者は、その平面上の2点の距離を測りたい。
観測者が、その1方の点上に居たとする。
観測者は、どうやってもう1点を確認できるのだろうか。
更に、もう1点を確認した時、どうやって移動するのだろうか。
もっと不可能な事がある。
2点の距離を測定できたとする。
この平面の目盛が均一である事をどうやって確かめるのだろうか。
「観測は、被観測次元の1つ高い次元からのみ正確な観測できる」
これを、「次元の不可観測原理」と呼んだ。
この問題を3次元に、当て嵌めてみる。
観測者が3次元に居れば、2次元(平面)は観測できる。
だが、3次元は直接観測できない。
「次元の不可観測原理」が、適応される。
3次元を正確に測定するためには、4次元目が必要だ。
時間は、3次元空間の中の物質が産み出す相対時間だ。
絶対時間は、存在しない。
つまり、この世界に4次元目は存在しない。
3次元内の2点間を正確に測定するためには、2点に同時にアクセスする必要がある。
同時にアクセスする事は出来ない。
相対時間がその邪魔をする。
同時にアクセスしないと1方の点が動いてしまう。
この動きを予測できるという事は、未来が測定できる事と同義だ。
アイン「現在の我々の観測は、近似か概測なのだ」