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第2章 EXPレベル2

第2章 EXPレベル2


第1話 怒り


 EXPレベル2の者は、ランサーと呼ばれた。

彼の怒りは、怒髪天を衝いていた。

「誰が、ここまで狂わせたのだ。

私は、8億年平安を保ってきたのだ。

欲望は、生命体を滅亡へと導く。

私が、覚ったのは8億年前だ。

そして、不老不死と平安を手に入れた。

ここでは、誰もが他者に干渉しない。

それ故、争いは起こらない。

争いが起こらなければ、滅亡も起こらない。

全ては、そこに収まるのだ。

私は、全ての恒星系に呪をかけた。

不埒な者が現れないようにと、呪をかけた。

足りなかったというのか。

欠片がやったのか。

いや、そんなはずはない。

彼奴にも呪をかけたはずだ。

完全にはかける事が出来なかったが、解く事も出来ないはずだ。

解けたとしても、彼奴が現実世界にここまで影響を及ぼす事はできないはずだ」


 マントは、8億年前、ランサーに介入した。

彼が、放つ輝きに眼を奪われた。

マントは、彼の覚醒を促した。

マントは、彼に試練を与えた。

何処かで間違えた。


 ランサーは、覚醒した時、マントを受け入れる事ができなかった。

「マントは、間違っている。

私の方が、正しいのだ」

ランサーの成長の速さは、凄まじかった。

それは、マントの想定を遥かに超えていた。


 ランサーは、煩いマントに呪をかけた。

マントは、気付かない。

マントは、善意の塊だった。

自分が攻撃される事など、それこそ想定外だ。

完全に呪は、かからなかった。

だが、マントはランサーに意見する事を止めた。

いや、止めさせられた。



第2話 能力


 ランサーが覚醒し始める頃、マントが聞いた。

「何が、望みだ。

何を願う」

ランサーは答えた。

「ここの平安が、望みだ。

願いは、争いがなくなる事だ」


 マントはランサーの成長が、嬉しかった。

「欲しいものを与えよう。

これから行って取ってくるがよい。

望むものは、全て手に入る」

マントは、ランサーに試練を与えた。


 ランサーは、過酷な運命に翻弄された。

それは、創られた運命だ。

彼は、少しずつ道を外れて行った。

彼は、翻弄され過ぎた。


その時、欲しいものが見つかった。

それは、絶対的な精神感応能力だった。

彼は思った。

「これさえあれば。

これさえあれば、平安を手に入れられる。

争いはなくなる」

安直な答えだった。

この世界には「これさえ」など、ないのだ。


 マントは、気付かなかった。

ランサーの思い違いに気付けなかった。

8億年前の事だった。


 アプリは5つ目の恒星に向かっていた。

この時、アプリは9つの恒星系を感知していた。

「順番に行こう。

どうせ何処も同じだ」

LB13も思い違いをしていた。


 強烈な酔いと悪夢、眠りが襲った。

最初に気付いたのは、幸だった。


「アプリ。

脱出して」



第3話 再びの


 幸は、似た経験を持っていた。

それは、あの者達との試練の時だった。

あの時、それは別々に来た。

それも弱く来た。


 今回のそれとは違う。

同時に、それも強烈にやって来た。

幸は、本能的に『夢想の房』を発動させていた。

それでも酔いと悪夢は、未だ残っていた。

幸以外の他の者は、眠りから覚めない。


 幸は一人一人に『夢想の房』を発動させた。

皆眠りから覚めた。

だが、酔いと悪夢は残っていた。

幸が倒れた。

精の連発は、未だ幸には荷が重過ぎる。

鎮也はアプリに何が起こったのか訊ねた。

「詳しい事は分かりません。

幸以外は、皆眠っていたようです。

そして、今は幸が眠っています」


 レオは『引用の棚』を引いた。

「…

そうか。

マリヤ。

平衡の糊を発動させろ」

マリヤの『平衡の糊』は、皆を回復させた。

だが、幸だけは未だ眠っている。


 『引用の棚』は疑似体験を与えてくれる。

そして、レオは実体験もしている。

 レオが言った。

「ここは違う。

対策が必要だ。

あの時と同じだ。

いや、威力が違う」


 皆、EXPレベル1だ。

精を使い切れていない。


 しかし、レオのアイディアに頼るしかない。



第4話 試す


 レオが言った。

「引用の棚は、疑似体験を与えてくれる。

しかし、解決方法は教えてくれない。

分かる事なら、引用の棚で充分だ。

だが、分からない事は、引用の棚でも分からない。

試すしかない」

それは、あまりにも危険だった。


 ランサーの能力は、放射状に発している事が予測される。

分散攻撃は無意味だ。


 防御から試す事になった。

防御できないのに、攻撃するのは無茶だ。

「攻撃は最大の防御」は、能力が同程度の時だけだ。

ランサーの能力は、遥かにLB13の上をいく。


 防御の要である幸は、未だ眠っている。

リーが『複合の笠』を発動させた。

それは「無意識の意識」だった。

リーは発動に自分でも驚いていた。

幸が発動させたのだろうか。

幸は自分を目覚めさせるために、リーに「無意識の意識」を送り込んだのだろうか。

それは謎だった。


 マリヤの『平衡の糊』とリーの指数関数が複合される。

幸が覚醒し始める。

リーの指数関数は「天井知らず」だ。

幸が目覚めた。

今度は、リーが倒れた。

レオが言う。

「リーはそっとしておいてやれ。

リーは自分の役割を果たしたのだ」


 幸が言った。

「一人一人試してみましょう。

私は未だ、夢想の房を全員に発動させる事が出来ません」

鎮也が言った。

「なら、僕が最初だ」


 幸と夢想の房の加護を貰った鎮也が、UP1に降り立った。

ランサーは驚いた。

だが、隙を見せるほど愚かではない。



第5話 試験OK?


 鎮也は強烈な酔いと悪夢、眠りを受けた。

だが、防御は出来る。

鎮也は、短距離のテレポートなら出来る。

鎮也は、アプリに戻った。

次は、サムが志願した。

防御出来る。

サムもアプリに戻った。


 他の者が問題だった。

降り立つ事は出来る。

だが、アプリに戻ってくる事ができない。


 レオが言った。

「ロバートの指数関数を試そう」

ロバートは愛機ZF11に搭乗した。

UP5に向かう。

その間「連動の射撃」を数発、発動させた。

「足りない」

続けて「連動の射撃」を数発、発動させた。

彼の周波数と速度が天井に向かう。

彼は無事にアプリに戻った。

レオは言う。

「指数関数は一時的かもしれないが通用する」

他の者は「夢想の房」の発動とZF11によって、UP1へ向かった。

レオは言う。

「防御は出来る」

 この時、ロバートが倒れた。


 レオが言った。

「軽率の桶を使ってみよう」

『軽率の桶』は精神エネルギーを一時的に溜める事ができる。

皆が言う。

「それじゃ、一時凌ぎじゃないか」

「違う。

溜めるのは『夢想の房』だ」

だが、『軽率の桶』の威力は未知数だ。

「試すしかないのだ」

皆、サムと同行してUP1に向かった。

5秒保った。

だが、それが限度だった。

その前に未久が言った。

「サム。

戻って」

皆が軽く酔っている。



第6話 行き止まり


 レオの能力は、ここまでが限界だった。

もはや、アイディアは浮かばない。

レオが倒れた。

レオの行き止まりだった。


 未久が話している。

誰に話しているのだろう。

「青い月が、照らす時、現れる。

6番の輝きが、目覚める時、守る。

赤い月から、迎えが来る。

故郷から便りが、届く」


 「予知なのか。

何を予知しているのだ」

誰も分からない。


 アインが考えている。

「月か。

UP1には、7つの衛星がある。

関係があるのだろうか。

6番の輝きとは、新和の事か。

故郷とは、ムーの事か」


 この時、6つの衛星が欠けた。

空に昇っている月は、第3衛星だけだ。

その月が青く地上を照らす。


 アインが言う。

「何が起こったのだ。

月が惑星を照らすはずがない」


鎮也は言った。

「僕がもう一度行ってみよう」

ランサーの力が弱まっている。

「サム。

新和を連れて来い」


 新和は『軽率の桶』を奪った。

『軽率の桶』は新和のものだった。

レオは誰の精でも持ち出せるのだ。

だが、持ち主ほど使い切れない。


 新和の結界が張られる。

幸はそこへ『夢想の房』を発動させる。

新和の結界が夢想の房で満たされる。

 幸が倒れた。



第7話 月


 未久の予知は、2行目まで当たった。

赤い月とは何なのだ。

ポセイと倒れた4人を残して、皆新和の結界にいる。

「ポセイ。

ZF9で7つの月を探れ」

ZF9は7つの衛星に向かった。


 青い月の正体が分かった。

大気を持っていた。

その大気の80%がクリプトンで構成されている。

青く見えたのはUP1の地上だけだった。

その衛星は青白く光っていた。

クリプトンは恒星の光と反応している。


 アリスは『覗闇の社』を発動させた。

アリスは「過去の視線」を手に入れている。

過去視の能力が跳ね上がった。


この領域の生命体の起源は、この衛星だった。

クリプトンが原初の生命体を育んだ。

だが、クリプトンによって育まれた生命体は強固過ぎた。

それらは、全ての成長を止めた。

育まれた生命体は、直ぐ眠りについた。

 UP1に逃れた生命体がいた。

ランサーの祖先は、クリプトンを含んでいた。

そして、ランサーもクリプトンを含んでいる。

 ランサーは青い月の影響で眠りに付こうとする。

だが、ランサーはEXPレベル2を持った段階で、その影響を少なくした。

 ランサーの力が弱まった理由が分かった。


 第1衛星に向かったZF9が吸い込まれた。

第1衛星は、UP1の一番内側を周っている。

アリスが言った。

「あの衛星には、強力な呪が掛けられています」

誰が掛けた呪なのだ。

「正体は何だ」

「ランサーと呼応しているようです」



第8話 呪


 ランサーは、成長の過程で、呪を得た。

その呪は、自分の能力を上げてくれた。

そして、溜める事ができた。

彼は、全ての恒星系に呪を掛けた。


 8億年を掛けて呪を溜めこんだ。

ランサーは不思議に思っていた。

突然、呪の溜まる量が減って行った。

放物線を描くように減って行った。


 その時が、成長を止めた時だった。

彼が成長したのは、最初の500年だけだった。

覚醒してから500年で、成長が止まった。

彼は気付けばよかったのだ。

 その時に、成長が止まる理由に。


 彼は、8億年のほとんどを成長に使っていない。

呪もほとんど増加を止めている。

いや、ゼロだ。

ひょっとして、僅かずつ減っているのかもしれない。

彼はEXPレベル2を持った段階で、成長を止めた。

いや、彼のEXPレベル2は偽物だ。

呪が、そう見せ掛けているだけだ。


 UP1の第1衛星は、赤く見えた。

その衛星は大気を持っていなかった。

そして、地表面をルビジウムが厚く覆っていた。

ルビジウムが微かに炎色反応を起こしていた。

呪は、それも止めた。

第1衛星は、暗い衛星になった。

「大好きな月だったのに」


アリスは『覗闇の社』を発動させた。

赤い月は、第1衛星だった。

迎えは、ZF9を吸い込んだ。


アリスは『鎮魂の鏡』を発動させた。

だが、効果がない。


機会は、青い月が昇っている時だけなのだ。



・元素の第2話 ルビジウム


 サッキのチームは、ルビジウムの特性について研究を進めていた。

ルビジウムは、自然界に存在する原子番号37の元素だ。

 化合物は、電気絶縁体として用いられる。

カリウムと似た性質を持つ。

特定の光で炎色反応を起こす。


 このルビジウムが、エラドル砲のエネルギーに過剰な反応を示す事が解った。

つまり、エラドル素粒子と反応しているのだ。

結果として、炎色反応を強く起こす。

そして、一定の値をとると、炎色反応は安定する。

見掛け上のルビジウムには、変化はない。


 エラドル砲のエネルギーは、ルビジウムの炎色安定状態で威力を増す。

ルビジウムの炎色安定状態が、レンズ効果を産み出す。

このレンズの形や厚さは、研究途中だ。

 エラドル砲の改良が、見込まれる。


 植物に対し、強く作用する事も解った。

カリウムをルビジウムに換えてやると、植物の測定が鮮明になる。

だが、これも研究途中だ。



第9話 便り


 サッキから通信が、入った。

「ルビジウムの特性が、少し解りました」

アインは、興味を示した。

しかし、今はそれどころではない。


 鎮也が言った。

「故郷からの便りとは、この事か」

エラドル砲を第1衛星に向けて、発射した。

第1衛星は、赤く輝き出した。

エラドル砲の出力を上げる。

エラドル砲のエネルギーが、反射し始める。

「出力を抑えろ」

このままエラドル砲の出力を上げると、他の衛星や惑星に被害を与える。

エラドル砲は、第1衛星を炎色安定状態にした。


 ランサーが、泣いていた。

「大好きな月が戻った」

彼は、呪を放棄した。

彼は、8億年をかけて、何かに目覚めようとしていた。


ランサーが、不埒者に頼んだ。

「私を第3衛星に届けてくれないか」

ランサーは、眠りにつく事を決めていた。

「眠りながら、考えてみよう」

ランサーと眠りは、供依存だ。


 マントの意識が明瞭になった。

8億年の間の事は、記憶にある。

「私が間違ったのだ」

9つの恒星系は、自然に委ねる事にした。


 自然に意図を加えてはならないのだ。



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