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最終話.告白

 あれからカミルは少しだけ足掻いたが、遅れてやってきたサディアが捕まえた隙に魔界へ通じる穴へと叩き込んでやった。向こうにはもっと怖い連中が待っているから無事ではすまないだろう。秘宝録の贋作について尋問もあるみたいだし。


 その後、駆けつけてきた勇者や候補生に囲まれて危うく大騒動になりかけた。面倒なことは全部サディアに押し付けたので詳細は知らないが、クリスやネイキスが色々証言したおかげで何とか事なきを得たらしい。一応付け加えておくと、クリスとネイキスには鬱陶しくなるくらい謝罪された。


 アウグスト(ヒゲ面)がいなくなったことにより、セントアレグリーの日天玉は少しずつ力を取り戻していくらしい。ウィクマムの危機が去ったことでミズホとの契約も解除されることになった。


 パージ達は無事目を覚ましたが、ウィクマムへ攻め込んだ時のことをよく覚えていなかった。連中をどうするかはミズホに任せたのだけど、結局はセントアレグリーへ丁重に送り返した。


 フェリンは秘宝録の贋作を回収できたし、色々と頭が痛かった問題が片付いたことで俺はやっと自由になった。という訳で、清々しい開放感を満喫しようとした……のだけれど。


 その矢先に、ゼウスリーナがやってきた。

 

 

 

「人間界最大の国セントアレグリーに乗り込んで、歴史的価値が非常に高い大聖堂に向けて爆撃を繰り返し大破させた上に、自分に直接被害をもたらした訳ではない人間に暴行。さらに大量の魔族を召喚して同国を混乱の渦に叩き込んだ……」


 ふ、ふふ。と声が漏れる度に白金色の髪が揺れる。その上でふよふよ浮いている光の輪がプルプルと震えている。小さな手に持っていた報告書らしき紙切れから顔を上げると、俺を思い切り睨みながら紙をぐしゃりと握りつぶした。

 

「やっぱりレオンはバカなのだ!! やるならバレないように上手くやれって言ったの聞いてなかったの!?」


「そんな器用なことする余裕なんて無かったんだよ。一応死にかけてたんだぞ?」


 正確には、呪いの指輪のお陰で一命を取り留めたらしい。非常に不本意な事実だ。

 

 まるで反省していない俺の態度にゼウスリーナは頬を膨らませていたが、すぐにガックリと肩を落とした。


「リーちゃんは全部お見通しなのだ。レオンがあんなことをした理由だってわかってるのだ」


「でも、あれだけハデに暴れてしまったら見逃せない、だろ? ちゃんと大人しく捕まってやったんだから騒ぐなよ。んで、ここには何年くらい居れば良いんだ?」


 すでに周囲はどこもかしこも真っ白だ。千年閉じ込められていたあの世界によく似ている。ここでしばらく反省しろ、というのが与えられる"罰"らしい。


「……刑期はこれから決めるのだ。少なくとも千年くらいは覚悟して欲しいのだ」


 またかよ、と文句を言ってもどうしようもない。そんな訳で、俺はまた真っ白い世界に閉じ込められることになった。




 騒がしいのがいなくなって、周囲から一切の音が消える。どこを見渡しても真っ白で楽しそうなモノは何も見当たらない。当たり前だけど出口のようなものも見当たらない。退屈しのぎになりそうなものといえば、俺の隣で静かに立っているコイツくらいだ。


「どうしてお前までここに居るんだよ、リア」


「お願いして連れてきてもらったんです。わたしの身勝手な行動で、いろんな人にたくさんご迷惑をかけちゃいましたから」


「……やっぱり変なヤツだな、お前って」


 まあいいか。リアと二人なら退屈な時間も少しはマシになるだろう。


 そうして腰を下ろした俺たちは色々なことを話した。そしてひと段落ついた頃、気になっていたリア自身について改めて話を聞いてみた。

 

 

 * * *

 

 

「わたしは、今からだいたい200年くらい前にウンディネアという国で生まれました。お父様が国王だったので、お姫様なんて呼ばれていました。優しい人たちに囲まれて幸せに暮らしていたのですけれど、十六歳の誕生日に突然聖痕が浮かび上がってきました」


 混乱したリアは聖痕を隠そうとしたが、湯浴みに付き添う侍女たちに発見されて大騒ぎになってしまった。そして紆余曲折の後、結局は勇者として旅立つことになった。


「当時の世界は魔物さんが闊歩していて、多くの人が被害にあっていました。魔物さんを一掃することが自分の使命だと教えられたわたしは、ひたすら魔物さんを倒しました。エクちゃんと出会う頃にはどんな魔物さんにも負けないくらいに強くなっていて、一番強かった龍族も何とか倒せるようになっていました」


 苦労しながらもあらかた魔物を倒し終えたリアは祖国へと戻った。そして御伽噺の英雄のように盛大に賞賛された。

 

 しかし、いくら待っていてもリアの聖痕は消えなかった。

 

 理由がわからず困り果てていた時に事件が起きる。ある国の日天玉が暴走し、リアの国の全てが一瞬で凍りついたように固まってしまったのだ。

 

「とっさにキラノが庇ってくれたお陰でわたしだけは助かりました。あの衝撃は未だに忘れられません。あまりにショックで、ただ泣き叫ぶことしかできませんでした」


 そんなリアを再び立たせたのは二人の従者だった。国を離れていたおかげで難を逃れた二人の提案で、皆を助ける方法を探すことになったのだ。


「風雨や魔物さんたちに破壊されないよう国全体を隠してから、わたしたちは様々な場所へ行きました。あらゆる資料を紐解いて、多くの人に教えを請いました。そして、日天玉を使った"奇跡"の存在を知りました」


 しかし、まるごと一国を救う"奇跡"の代償がとても大きいということも同時に明らかになった。


「日天玉を三つ集めて、その力を全て使ってしまわないと、その"奇跡"は実現できないんです」


 全ての日天玉はその周囲の命を支えている。リアの願いを叶えようとすれば、多くの命が犠牲になることは明らかだった。


「わたしの中にある日天玉を使おうと思ったのですけれど、たった一つでは力が足りなくて無駄になっちゃうらしいんです。結局何もできないまま、時間だけが過ぎていきました」


 宝玉を使わない方法を求めて、リア達はまた世界中を探し回った。しかし、どうしても発見できなかった。

 

「十年、二十年……うーん、もう少しくらいは頑張っていたんですけれど、世界中を探しつくして、もう二度と皆と会えないんだなって思った瞬間に、わたしはそれ以上動けなくなっちゃいました」


 気力をすり減らして絶望したリアは、自ら命を絶とうとした。


「もう歩く気力も無くなっちゃったんです。そして、最後まで一緒に居てくれた二人が亡くなってしまったことを切欠に、わたしは長く長く眠りました」


 しかし日天玉を宿すリアが死ぬことはなく、長い年月を経てリアは目を覚ました。これが俺と出会う数ヶ月ほど前の話だ。


 だれも自分のことを知らない世界で、自分だけは全く変わりなく存在している。使命を果たさなければ自ら死ぬこともできないと思い知らされたリアは、それから自分の使命が何であるかを求めて彷徨った。


 そして、封印された魔王の伝説を知った。


「魔王を倒せば使命から解放されるかもしれない。そう思って、わたしはレオンさんに会いに行ったんです」


 でも実際に会ってみて、どうしても貴方が滅ぼされるべき悪だとは思えなかった。リアはそう言うと、逸らしていた視線を俺に戻した。


「……まあ、あんな間抜けな状態を見ればそんな気も失せるかもな」


 独演会とか我ながら黒歴史もいいところだ。思い出しただけで(うつ)になる。


「ううん、そうじゃなくてですね、レオンさんと一緒なら新しい道が開けるかもしれないって思ったんです。まるで根拠の無いただの思い付きだったんですけれど」


 思いつきで魔王を仲間にしようとしたってのは本当だったんだな、お前。


「で、どうにかして俺と一緒に行こうとしたわけだ」


「はい。わたしがまだ使命を果たせていないのは、この世が平和になっていないからだと考えたんです。わたしの知るかつての勇者は皆世界を平和に導いていますから」


 平和な世界になれば使命から解放されるかもしれない。そう考えたから、俺を連れまわしながら自ら厄介ごとに首を突っ込むようなマネを繰り返していたらしい。


「俺が同行を拒否したらどうするつもりだったんだ。そもそも俺がお前を殺そうとしたとは考えなかったのか?」


「それならそれで良いと思っていたんです。レオンさんならわたしを殺すこともできるでしょうし」


「……冗談だ。バカ」


 ぽつぽつと告白していたリアが少しだけ笑い、話し疲れたのか小さく息を吐いた。


「色々と黙っていてごめんなさい。あまりにも身勝手な話ですよね。その、私にできることなら何でもしますから、どうか償いをさせてください」


「何でもって言われてもな。こんな世界じゃ何も無いし」


「身の回りのお世話とかどうですか? お掃除とかは得意ですよ! 水を使ってあっという間に綺麗にしちゃいます」


「いや、必要ないだろ」


 こんな世界じゃ掃除するものが無いぞ。

 

「じ、じゃあお料理とか。レオンさんは食事が好きですよね? 今はちょっと苦手ですけど、頑張って美味しいお食事を作りますから」


 そもそも食材が無いし、この世界にいる間は空腹にもならないから意味が無い。

 

「一応聞くけど、苦手ってどれくらい苦手なんだ。作れる料理が一個しかないとか?」


「わたしの作ったスープで魔物さんを倒したことがあります」


 よし、リアは絶対に厨房に立たせない。


「……他には?」


「……うー、だったらレオンさんが決めてください。何でもしますから」


「本当に?」


 念を押した俺に向かって、リアはこくりと頷いた。


「それじゃ行くか」


「え? 行くって、どこへですか?」


 いいから、とリア促して歩き出す。しばらくすると小さな人影が見えてきた。


「お待たせ、フェリン」


「話が長いわよお兄様。さっさとやらないとバレちゃうじゃない」


「え、あの? フェリンさんがどうしてここに?」


「ここから出る為に迎えに来てもらったんだよ。大丈夫、時々戻っていればバレないから。多分」


 俺たちの世界には人間界にはないものが多い。リアの願いを叶える方法が見つかるかもしれない。


「キラノだったかしら? あの子が貴女を出せと喧しいから早く静かにさせてちょうだい。今はサキちゃんが面倒を見ているけれどそろそろ限界なの」


 色々と言われて混乱しているリアの手を強く握る。リアが俺を引っ張っていた時はこんな顔をしていたんだろうな、と思いながら歩いていく。

 

「今から俺たちの世界に招待してやるよ。今度は俺が、お前を連れまわしてやる」


 だからついてこい。そう言うと、リアはようやく笑ってくれた。

これで、この物語はお終いです。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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