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36.ふりだしにもどる

 見事セントアレグリーの勇者を撃退した俺達は歓喜の渦の中盛大に祭り上げられて、隷属の呪いも無くなり晴れて自由の身になり大団円……なんてコトになる訳もなく。


「さて、どうする」


「どうしましょうか」


「なの」


「結局、ほぼ振り出しに戻っただけだよね。ボク達」


「……今更な感想を口にしないでください。ミズホ様」


 撃退した直後こそ楽観的な雰囲気に包まれていたが、結局状況は勇者迎撃前に戻っただけだ。当然のように隷属の呪いは健在だし、俺が自由になる日はまだ遠いみたいだ。

 

 そんなわけで、俺たち五人は軍議が行われる部屋に集まってお喋りをしていた。


「いやー、ちょっとやりすぎたかな」


 ポツリとそう呟いたら、目いっぱいの強さでアホの子に叩かれた。


「何がちょっとだよ! パージを追い返すだけで良いのにもうちょっとで殺しちゃうとこまでやっちゃうなんて! さすがだね!」


 どう答えればいいのか途方に暮れるような発言だ。


「……だってさ、あんまりムカつく事をやりやがったからさ、」


 その先を言いかけた口を噤む。自分の中の勇者像とあまりにかけ離れた姿にがっかりして、ムカムカして、イラついてヤっちゃったなんて、とても正直に言えなかった。


「う、確かにあれはボクも悪かったよ。でも、あの勇者と一騎打ちでずっと戦ってるって聞いちゃったらどうしてもジッとしていられなくてさ。その、ゴメン」


 怒ったり、謝ったり、落ち込んだり。相変わらず忙しいヤツだ。別に悪気があったなんて思っていないから、そんな顔しないでほしい。


「……でも、レオンがパージをボコボコにしちゃったってのもビックリしたけどさ。クラリスもフレイも一対一で倒しちゃうなんて、みんなどんだけ強いのさ」


「クラリスさんは油断してましたから」


「良い勉強になった、なの」


 俺が見た限り、二人とも目立った傷は負っていない。ダメージを受けたのは衣服くらいだったけど、ミズホの手配によって既に新調されていた。サキはともかくリアの格好はやっぱり戦闘向きとは思えないけれど、ちゃんと勝ってるあたり一応考えていたんだろう。

 

 ま、そんな話はとりあえず横へ置いておこう。

 

 頭が痛くなるような状況だけど、セントアレグリーについて考えない訳にはいかない。まずはあの三人について確認することにした。


「あいつ等はまだ寝てるのか?」


 俺達は別館で治療を受けているはずのパージ、フレイ、クラリスの扱いについて困っていた。


 捕虜として監禁しているようなこの状況は相手を挑発するだけだろうし、当初の予定通りさっさと国へ帰ってもらいたいところだ。しかし、怪我した連中をそのまま捨て置いて死んでしまったらそれこそマズイ。そんな訳で、いまは三人を治療している最中なのだ。


 治療を担当しているリアによると、パージが完治するまではまだ数日はかかるらしい。気絶したフレイ、氷の彫像になっていたクラリスも同様にまだ目を覚ましていない。こちらは回復するまで丸一日は必要だろうという所見だった。


 ちなみに残りの八人は既に退却していったと報告があった。今頃は本国と連絡を取っている頃だろう。


「わが国の勇者がけちょんけちょんに、だと?」


「我らに歯向かうとはなんと馬鹿な真似を!」


「おにょれウィクマムめ! 許せん全軍出撃だ!!」


 おにょれって何だおにょれって。


 ……まあ、ミズホが今やってみせた寸劇のような展開になれば、本当にセントアレグリーと全面対決になりかねない。というか、ミズホを襲ったラピリッツ曰くそうなるコトはほぼ間違いないらしい。

 

 というわけで、何とかそんな事態を避けようと色々考え込んでみたけれど……出るのは知恵熱と溜息ばかり。色々面倒なコトになってきたもんだ。

 

「それにしても、ミズホが俺を復活させた犯人として考えられているとは思わなかった」


「ボクだってビックリだよ……って、レオン!? 千年封じられていた魔王って、あれ本当にレオンのことなの!?」


 正確には、あの世界に閉じ込められた当時は魔王の息子だったけど。


「……どうして驚いているんだ。魔王なんて俺しかいないだろ? それを呼び出したんだから当たり前のことじゃないか」


「イヤイヤイヤ! だってボク本当に封印なんて解いていないんだもん! まさかそんな大物を呼び出しちゃったなんて……」


 今更何を驚いているのかと思えば、実は俺のことを本物の魔王だとは思っていなかったらしい。


「だって、本物にしてはちっとも怖くないよね」

 

 うるさい。密かに気にしているコトを言うんじゃない。



* * *



 とにかく、ミズホの話を聞く限り、連中がこの国の宝玉を奪おうとした理由は俺にあるらしい。


「そういう事なら、この国を守るために一番手っ取り早そうなのは……ミズホが俺を向こうに突き出せばいいのか?」


 口で何を言っても話を聞かない連中に理解してもらうには、それくらいしないとダメかもしれない。半分冗談だった発言だけど、ミズホとロベリアから即座に却下された。

 

「ちょっと待ってください。相手の言葉をそのまま全部飲み込むのは、まだ早いと思います」


「ロベリアの言うとおりだよ。ボクそんなコトするつもりは無いからね。レオンは僕たちを守ってくれたんだ。恩を仇で返すようなコトはできないよ」


「ミズホ様の仰ることはもっともですが、それ以外にも不自然なことがあると思います。セントアレグリーはどうして最初から具体的な理由を言わなかったのでしょうか。復活した魔王が暴れる事を恐れている筈なのに、まるでそのことは二の次で、あくまで宝玉を手に入れようと固執しているように思えてなりません」


 本当に魔王が暴れることを阻止したいのなら、宝玉なんて構わずに攻め入るのが普通じゃないのか。このロベリアの意見は一理ある。連中がとにかく宝玉のことばかり考えているというのは俺も感じていた。

 

 パージの口から魔王なんて言葉は最後まで出なかったし、どうも向こうの発言が一貫していないように思える。共通しているのは宝玉を手に入れたいと思っているってコトくらいだ。



「あーうー。ロベリアぁ、これからどうしよう。このままボヤボヤしてたら、きっとまた同じような展開になっちゃうよね」


 ミズホに声をかけられたロベリアは先程からずっと何かを考えている様子だったが、やがてニヤリと笑って鋭い瞳を光らせた。


「……幾ら考えようとも、勇者と一戦交えたという事実は消しようがありません。セントアレグリーがわが国を敵視するこの状況を即座に解決することが難しいならば、次善の策として最悪の事態の一歩手前で食い止めるしかないと思います」


「ろ、ロベリア? どーしちゃったのさ、そんな悪の宰相みたいな顔しちゃって。似合いすぎて怖いんだけど?」


 少々圧倒されつつ先を促すと、さらにロベリアはその笑みを深くする。「うふふふ」と危険な香りをふりまきながらクワッと目を見開いた。


「人質です。いずれにせよ、セントアレグリーが今まで以上に私たちを敵視する事態は避けられないでしょう。だったらこちらも黙っている義理などありません。これ以上こちらに干渉するのならあのお三方の命は無い、と取引を持ちかけるのです」


「ちょっと! ロベリア、それ本気?」


 ズダン、とロベリアが両手を机に撃ちつけた音で不覚にも体が浮いた。


「勇者の国? 上等です。精々あの三人には役に立っていただきましょう……うふふふふふ」


「ろっ、ロベリアが壊れたーー!!」


 ……まあ、つまるところ未だに根本的な解決方法が見えていない。あまり頼りきりになるのは気が引けるのだが、後であの(見た目だけ)可愛らしい黒い子犬に相談してみることにしよう。


「えー、失礼します。リア様、お忙しい中申し訳ありませんが、えー、治療のご助力をお願いできませんでしょうか」

 

 今も「うふふふ」と怪しい笑みを浮かべているロベリアから目を背けると、コンコンと控えめなノックの後にクロちゃんがやってきた。


「はい! それじゃ皆さん、少し席を外しますね」


 リアは今回の騒動で傷を負った全員の治療を自ら担当している。人間とは思えない魔力量と献身的な治療によって、命を落とした兵士は奇跡的にゼロだった。クラリスを倒した直後からロベリア達の元へ走り、傷ついた兵士の回復に専念していたらしい。

 

 そしてリアはパージ達の治療も担当している。アイツが今受け取った鍵の束は別館へのものなので、今回はパージ達の治療に向かうのだろう。

 

「えー、申し訳ございませんが、お願いいたします」


「いえ、私からお願いしたことですから」

 

 リアはぺこりとお辞儀して、クロちゃんと共に部屋を退出していった。



* * *



「そう言えばさ、レオンを復活させたひとって誰なの? それとも千年の間に封印が劣化して勝手に壊れちゃったのかな」


 ミズホの疑問に答えるために「犯人はアイツだ」とリアが出て行った扉を示すと、その場にいた全員が驚いていた。


「ホント!? リアちゃんって勇気あるんだね。ボクなら怖くて絶対にできないよ」


 俺もビックリしたよ。そもそも魔王を復活させようなんて奇特な考えを持つやつは普通いない。

 

 大げさに驚いていたミズホはもう一度「そうなんだ」と呟いて、リアが出て行った扉をしばらく見つめていた。

 

 あの時はうやむやになって詳しく話を聞けなかったけれど、もしも俺がストレスを発散させるために暴れまわるようなヤツだったらどうしようとか、リアは考えなかったのだろうか。

 

 それとも、もしもそうなったら俺を再度封印する自信があったのだろうか。

 

 真相はわからないが、アイツの思考を推理することはこの世を征服するより難しそうだ。機会があったら答えを聞いてみるのも面白いかもしれない。

 


 結局これ以降も今後について話し合いは続けたが、良さそうなアイデアは出てこなかった。一度気分を変えようということで解散して、俺は自分の部屋に戻ることにした。

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