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35.小さな女王

こんにちは。ここまで読んでくださってありがとうございます。

今回は一部残酷描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

 一人でいると、いつもの部屋が倍以上に広く感じる。

 

 大きな玉座にちょこんと座るミズホは、落ち着かない鼓動をなだめようと深呼吸を繰り返していた。


「うぅ……」


 耳を塞ぎたくなるような喧騒がここまで微かに響いてくる。千を越える仲間たちの悲鳴が聞こえる度に胸が苦しくなる。だが、戦えない自分が前に出るわけにはいかない。もしも自分が敵の手に落ちれば、全てが無駄になってしまう。

 

 ミズホは自分を抱くように腕を絡め、目を瞑った。

 

「マジーク兄様……」


 最後まで自分を守ってくれた兄の名を呟く。どうして殺されなければならなかったのだろう。神に誓ってもいい、セントアレグリーが主張していることは全てデタラメだ。自分達はただ毎日を平穏に暮らしていただけなのに。


 形見となってしまった指輪を握り締める。老齢だった両親が他界してからは、十以上も歳が離れた兄が親のように守ってくれた。母の後を継いで女王の座に就いた時も、慣れない執政に頭を悩ませた時も、体調を崩して寝込んでしまった時も、いつも近くで見守っていてくれた。

 

 しかしもう、兄はいない。


 ロベリア達のお陰で、何とか平気なフリをしていられるくらいには立ち直ることができた。それでも、ふとした瞬間にどうしようもなく寂しさが襲ってくる。特にこんな不安でたまらない時には――

 

「……んむ! 私がしっかりしないといけないんだっての! 女王さまなんだから!」

 

 思い切り自分の頬を叩く。自分がしなければならないことを考えろ、と言い聞かせながら、溢れそうになったしょっぱい水をごしごしと拭って立ち上がったところで、


「――罪人にしては、なかなか立派な心掛けですな」


 知らない男の声が、ミズホの全身を貫いた。

 

 硬直したミズホの視線の先でギィ、と扉が開く。その先に見慣れない男が姿を現すと、全身から冷たい汗が一斉に吹きだした。

 

「失礼いたします。ああ、表の見張りには少々眠っていただきました」

 

 深い黒髪が風もないのに揺れている。生気が感じられない程の白い肌はもしも触れたら石のように冷たそうだ。黒ずくめの衣服といい、手にした大きな鎌といい、その姿はまるで物語に登場する死神のようだった。

 

 どんなに好意的に解釈しても味方には見えない。震えて彷徨うミズホの眼が、男の腕にある剣を模した紋章を発見して正体を確信した。

 

 最悪だ、と泣き叫びたくなった。



* * *



 死神のような男は、表情を全く変えずにミズホへと歩み寄る。

 

「ああ、ご心配なく。貴国の家臣が一人残らず倒された訳ではありません。ひととおり見学してまいりましたが、寧ろ予想外の奮戦に驚いているところです。このラピリッツ、敵ながら感服いたしました」


 名乗った男は自分の胸に手を当てて、嫌味なほど丁寧に一礼してみせる。胸の奥が際限なく冷えていくような感覚に、ミズホの小さな体がカタカタと震えた。

 

「このままでは予想外に時間を浪費してしまうでしょう。ですからこうして十一人目(・・・・)の私が貴女の元へと参上した次第でございます。……ああ、ご心配なさらずともここで殺しはしません。我が国でじっくりと己の過ちを認識していただきたいと存じます」


「それって、せ、洗脳ってヤツなんじゃないの」


「人聞きの悪い……もっとも、ここで宝玉を渡して頂ければ手間も省けるのですがね?」


「宝玉が無くなっちゃったらボクたちの国が死んじゃうだろ!! どうしてボク達がいわれのない罪で非難されなくちゃならないんだ! どうしてこんな目に遭わなくちゃならないんだよ!?」


「魔王を復活させるという大罪を犯しておいて、よくそのように惚けることができるものです」


「……え?」


 その言葉を彼女は理解できなかった。目を丸く開いてぽかんとした少女に畳み掛けるように、死神は続けて口を開く。

 

「千年にわたる魔王の封印を解いたのは一体誰なのか? その答えは、ある古文書が教えてくれたのです」


 "レナスの秘宝録"は古今東西のあらゆる秘宝を網羅する。そこに記されていた"麒麟玉"こそが、封印を解いた犯人を示しているとラピリッツが語る。

 

「さて、この"麒麟玉"はとある王族に伝わるものなのですが……これがどこに存在するのか、そしてどのような物なのか、あなたは当然ご存知ですよね?」


「ま、待ってよ! ボクは千年も厳重に封印されているような恐ろしいモノを解放したりしないよ!! だいいち、ボクがレオンを召んだのはそっちが宝玉を寄越せって言ってきた後のこと――」


「そのような些事、いくらでも偽装が可能でしょう。古の魔王を復活させ、麒麟玉の力を借りて制御する……恐ろしいことです。常人ならば抵抗する魔王を無理に使役しようとしても、すぐに術者が力を使い果たして全てを失うでしょう。しかし、日天玉の力があれば話は別です。今はまだ魔王の復活から日が浅いせいか目立った行動は起こしていないようですが、遠くない未来に世界中に恐怖をまきちらす存在になるでしょう」


「何だよそれっ!! バカにするのもいい加減にしてよ!! そんな大それたコトはしないって何度言ったらわかってくれるんだよ!?」


 極度の緊張と興奮でミズホの呼吸が酷く乱れている。対照的に侵入者は何の感情も現さないまま、さらに前へと足を踏み出した。


「これ以上話すことはございません。罪人の言葉に耳を貸すのは、愚者のすることです」


 大鎌が不吉に光り、ミズホの瞳がぎゅっと収縮した。奥歯を思い切り噛み締める。どうしようもない怒りが際限なく溢れて止まらない。感情がどうしようもなく言葉にならないから、小さな女王は思い切り襲撃者を睨みつけた。


 しかし、造り物のような瞳からは何も読み取れない。どれだけ叫んでも幽霊のように全てが通り抜けていってしまう。静かに歩み寄った襲撃者がミズホの肩へと腕を伸ばしてきた。


「ひぁっ……」


 ローブ越しだというのに濡れた舌で舐められるような、酷くおぞましい感覚だった。はやく、早くどこかへ逃げないと。ここで自分が捕まれば全てが台無しだ。そう自分を叱咤するのに、ミズホの足は床に張り付いたように動かなかった。


 恐怖から逃げるように横を向いた顔を、死人のような指が撫で回してくる。想像を絶する嫌悪感にミズホは吐きそうになったが、気付けば全身がまったく動かない。


 指がツゥと滑ってミズホの白い首筋へとゆっくり進む。全身の毛が逆立ち、食いしばろうとした歯が微かに音を立てた。


「恐れることはありません。目を閉じていればすぐに終わりますよ」


 僅かに漏らす呼気を感じられるほど顔を寄せ、死神のような男は満足したように口を歪める。そのまま骨のような手を白い首にかけようとして、下から伸びてきた闇色の手に腕をガッチリと掴まれた。


「――ったく。女のコへの口説き文句としては最低ね」


 足元から知らない誰かの声がする。「ひうっ!?」と怯えるミズホの目の前で影が徐々にヒトの形に変化してゆく。腕が死神をぶん回し、入り口の扉に勢い良く投げ捨てた。

 

 分厚い扉に激突し破壊され、木屑が周囲に散乱する。


「残念。レオン様は、アンタみたいなヤツが来ることもお見通しよ」


 影が鮮やかに色をつけてゆく。そこには黒ずんだ赤髪が目を引く女性がミズホを守るように立っていた。



* * *



 大胆にヘソを露出した艶のある衣からは、スラリと伸びた脚が大胆に晒されている。上半身も下着姿かと見まがうほど肌を見せる面積が大きい。風邪ひかないのかな、と場違いな感想を浮かべたミズホに向かって、新たな登場人物がぺこりと頭を下げた。

 

「どーもー、魔人のサディアでっす。レオン様の命令でお邪魔してます。よろしくねー」


 呆然とその姿を見やるミズホに小声で挨拶してくる。大きな黒槍を持った魔人だと名乗った女性は、くるりと背を向けて壊れた扉へと視線を戻した。


「というわけで、そこの勇者の一味その8。私が遊んであげるわ」


 ドアを突き破って倒れている男に向かって挑発するように指をクイクイと曲げる。口から覗く鋭い牙が妖しく光っている。女のミズホが赤面してしまうほど大胆な衣服に身を包んだ魔人が、艶然としてラピリッツの前に立った。


「……誰だか知らぬが、無駄なことを。これ以上罪を重ねても意味などあるまいに」


 幽鬼のようにゆらりと立ち上がったラピリッツが、自らの周囲に円を描くように何度も大鎌を走らせる。すると土色の光が床を満たし、大量の砂粒が湧き上がった。

 

 振り回される鎌の軌道を砂が追従して鞭のように唸る。穴が空いた扉が幾重にも切り刻まれて粉々になっていく。石を敷き詰めた床には、鋭い刃物の痕のような溝が円を描くように次々と生まれていった。


「キサマを始末すれば、その子供も冷静さを取り戻すだろう」


 ラピリッツが大上段に構えた大鎌を振り下ろす。砂の鞭が空気を震わせて、サディアの肩口を狙うように真上から降り注いできた。「あぶない!」と叫んだミズホは思わず目を覆ったが、魔人が手にした黒槍が鞭を両断すると、サラサラと形が崩れて砂へともどってしまった。


「あいにく、くだらない話に付き合う趣味は無いの」


 余裕の笑みを浮かべた魔人がそう告げた直後、床で何かがニョロリとうごめくのが見えた。ツタだ。部屋の床に生えるはずのない緑の草がラピリッツの足に絡まり、気味悪いほどに速く成長しながらうごめいている。反射的にツタを振りほどこうとした男の視線がサディアから逸れた。

 

 このほんの一瞬の失策は、魔人にとってあまりにも大きな隙だったらしい。


「バカね、よそ見しちゃうなんて」


「ぐッ!?」


 ずぶり、と胸に黒槍が沈む。歪んだ口からこぽりと鮮血が垂れて、白い顔に線を引いた。


「呆気ないわね。どうやらアンタもハズレみたい」


 魔人は酷薄な笑みを浮かべて紅い舌をちろりと覗かせる。両腕を使って逃げようとする努力を嘲笑うような、見たままの細腕からは信じられない力で徐々にラピリッツの体を吊り上げてゆく。辛うじて床にあった爪先がゆっくりと離れてゆくと、力ない足先がゆらゆらと揺れた。


「っ……がっ……ぁ」


「ほらほら、早く逃げないと。ピクピク健気に動いているアンタの心臓が二度と使い物にならなくなっちゃうわよ?」


 魔人が徐々に腕に力を込めてゆく。黒衣を濡らした血が足先を伝って血溜りを作る。能面のようだったラピリッツの顔色が苦悶の色に染まるまで、そう時間は必要なかった。

 

 希望が薄れてゆく瞳をのぞきながら魔人はさらに力を込める。嬲るようにして明らかに楽しんでいるその姿に、呆然としていたミズホはゾクリと身体を震わせた。


「……そうそう、ひとつ聞きたいのだけど。どうして"レナスの秘宝録"をアンタ達が持ってるのかしら? 答えてくれたら離してあげても――」


「――仕方がありません。ここは一旦引きましょう」


 口元を鮮血で濡らした死神の口がニィ、と笑う。舌打ちしたサディアの槍から零れ落ちるように身体が動き、全身が青い炎に包まれた。

 

「次回を楽しみに待っていてください。どう足掻いても、この国が消える運命から逃れることはできませんので」


 まるで沼に沈むように、青く燃える体が徐々に床へと潜ってゆく。壮絶な笑みはまるで死神そのものだ。最後にヒャハハ、と耳障りな声を残してその姿が消えるまで、ミズホは体の震えが止まらなかった。




「さてと」


 忌々しげに床を眺めていた魔人の視線がミズホの方を向く。思わず身構えてしまった幼い女王に対し、サディアは意外なくらいにふにゃっと柔らかく微笑んでみせた。


「いやーゴメンね、怖い思いをさせちゃって。レオン様に少しでも情報を集めるように言われてたから、ギリギリまで泳がせておいたんだけど」


「あ……ううん、ありがとう」


「いえいえー」


 こんな風に笑う人があんな恐ろしいことをするなんて信じられない。


 ミズホはまだボンヤリしている頭でそう考えていたが、今の状況を思い出して慌てて立ち上がった。


「そうだ、他の皆は!? お姉さん凄く強いから応援に行ってあげてよ!」


「大丈夫だよー。残りはあの自称勇者だけだから」


 両手を握られたまま、サディアは物足りなさそうに笑うのだった。



* * *



「貴様っ……ハァ、ハァ、……何者だっ」


 およそ互角の打ち合いを演じていた俺達の戦闘は、ここで久しぶりの空白が生じた。未だに目の前の一人すら倒せていない事態に、パージは明らかに困惑の表情を露にしていた。


「この件を任された大臣だって、さっき教えた筈だが」


「ふざけるな! ただの役人風情が私の相手になる訳がない!」


「お前が弱いだけじゃないのか?」


 明らかに怒った顔をするコイツはけっこう単細胞なところがあるみたいだ。そんな事じゃこの先が思いやられる、と珍しく老婆心を披露したものの、ちっとも通じなかったようだ。


《――大いなる雷よ、眼下の悪に怒りの裁きを。雷の大鎚!》


 中空に生じた黒煙のような塊が眩く光る。力任せに頭上へと落ちてくる雷撃を地から沸きあがる氷の結晶で受け流す。弾け飛んだ氷の粒が辺りに飛び散って、大上段に構えていたパージの剣にもカツンと当たった。


「アアアアアアアッ!!」


 詠唱直後に飛んでいたのだろう、身長の五倍以上跳躍したパージが剣を天高く掲げて咆哮した。悪くない連携だが少々遅すぎる。これでは避けてくれといっているようなものだ。近づいたらカウンターをくれてやろう……と思っていたのだけど。


「……うーわ」


 予想に反して俺の遥か手前で剣が空を斬る。呼応するように、先程の十倍はある極大の雷雲が出現した。


 触媒詠唱だ。本来なら長すぎて詠唱する時間が作れないような呪文を、剣や杖などの特殊なアイテムを利用することで短縮するテクニック……って、そんなコト考えている場合じゃない。

 

 やられた。完全に回避が間に合わない。


《――剛なる雷よ、悪を裁く神の御使いよ。眼下の罪人に大いなる鉄槌を下せ!》


 目を開けていられないほどの光に包まれて、巨大な衝撃が俺の全身を貫いた。

 

 とっさに腕で頭を庇うがあまり意味はない。全身からぶすぶすと焼け焦げる音が聞こえ、叫びたくなるような痛みが全身を襲う。

 

 随分長く感じた光の滝が収まると、周囲一帯の地面が焼かれ、地面に生えていた草木が根こそぎ消滅していた。近くにあった石垣もかなりの部分が焦げてしまっている。高熱で俺の喉も少し焼かれてしまったらしく、「ゲホッ」と咳き込んだ拍子に口から出た自分の声が少し別人のように聞こえた。


 ……全身がヒリヒリして痺れている。正直に言って、ここまでデカイ攻撃が来るとは予想外だ。慌てて髪に手をやって、その感触にホッとする。チリチリになってなくて本当に良かった。


「……バカな。竜を仕留めた一撃だぞ……あれを受けて生きている、だと……」

 

 パージは片膝をついて愛剣に寄りかかったまま絶望したように喘いでいる。信じられないモノを見ているような目をしながら、若干青くなった口を震わせていた。


「おー痛い痛い」


「ふざけるな! 貴様本当に人間か!?」


 悪かったな、これでも魔王なんだよ。ただの雷で死ぬほど柔じゃないんだ……なんてことはもちろん言わない。

 

 さすがに全身が痺れている。じきに回復するだろうが、ちょっと時間を稼がないとマズイかも――



「レオン! 大丈夫!?」


 知った声に後ろを振り返ると、何故か石壁の頂上にミズホが乗っていた。青褪めた表情で必死に俺の名前を叫ぶなんてらしくない。大丈夫だとアピールしたけれど、いつもの様に俺の話を聞こうとしない。大きく身振り手振りをしながら、かなり慌てた様子で叫び返してきた。

 

「あんな攻撃を受けちゃって平気なもんか! 待ってて、今皆を呼んでくるから――」


「――クク、これは好都合だ。まさかそちらから顔を見せるとはな」


 俺が目を離した隙にパージが立ち上がり壁を駆け上がる。意図を察してすぐに追いかけようとしたが、まだ痺れが抜け切らない俺よりも向こうの方が遥かに早かった。石垣の頂上で手を伸ばしたパージは小さな身体を抱え込んで、手にした大剣を首筋にピタリと押し付けた。


「やはり、神は正義に、味方するようだ。残念だったな、悪人ども!!」


 相当体力を消耗しているらしく、あちこちがヘコんだ鎧が呼吸に合わせて大きく揺れている。驚きすぎて声が出ないらしいミズホの頭をぐいと引き上げて白い喉をさらす。痛そうに目を閉じたミズホのことなどまるで気遣いもせず、地上にいる俺に視線を向けて勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「……何をやってんだよ、お前は」


 その姿を見て、なんだか笑いが込み上げてきた。

 

 必死の形相でミズホを押さえつける姿を眺めていると、笑いが後から後からこみ上げてくる。我慢ができなくなった俺は、腹を抱えながらひとしきり笑ってしまった。そして、まるで状況を理解していないマヌケの後ろに控えている女に命令を下した。

 

「こっちに飛ばせ」


「はーい」


 直後にミズホの体が消えて、宙に投げ出された身体が俺を目指して降ってくる。ツタに自由を奪われたパージの柔らかい腹を鎧ごと突き破るつもりで、手加減なしで思い切り蹴りつけた。



* * *



「サディア。コイツから目を離すなと言っただろ」


「いやいや、ちゃんと守ってましたよ。それに、囚われのお姫様を助けるなんていかにもレオン様好きそうじゃ――いたい!」


 しれっといい加減なことを抜かす手下に拳骨を落とす。ミズホは身体を小さくして「ごめんね」としおらしい声で頭を下げた。


「急にレオンのことが心配になっちゃってさ。ほ、ほら。相手はなんてったってあのセントアレグリーの勇者だし――いひゃひ!」


 こっちは頬をぐにぐにと抓ってやる。小さな手でぺしぺしと腕を叩いてくるがまだ許してやらない。

 

「俺があんなのに負けると本気で思ってたのか?」


「ひゃっへ、ひんはいひはんはほん」


「だって、心配したんだもん、って言ってますね。やー、レオン様ったら愛されてますねー」


「サディア。お前は後でアレジから説教な」


 絶望の叫びを無視しながら、そろそろ泣きそうになっていたミズホから手をはなしてやった。

 

 何だか疲れた。考えるべきことは色々あるが、とりあえず一休みしたい。後始末をサディアに押し付けて、俺は城に戻ることにした。

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