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30.「きっと何とかなります」

 ミズホはともかくロベリアは優秀らしい。俺が二人を探して欲しいと頼んでから、僅か一時間程で二人を発見したとの連絡があった。悲しいことにそれは最悪のタイミングだったけれど。


「リア様、サキ様。こちらで御座います」


 ロベリアが案内した部屋の中では、一角獣のツノを頭に生やしたミズホが夢中で手を振っている。背を向けているので二人には何をしているのかわからないかもしれないが、ロベリアは理解したようで溜息もそこそこに耳を引っ張り上げた。


「いたたたたた! なにすんだよロベリア!? いまボクはちょーきょーで忙しいんだよ」


「なんという言葉を口にするのですか」


「初めまして、ミズホさ、ま?」


「なの?」


 リアとサキが眼をぱちくりさせて固まった。その先にいた俺に驚いたからではなく、その状態に。目の先にはミズホ、そして俺。


 ――座ったまま手を握られてぶんぶん振られている、俺。


 釈明なんぞできる状態ではない。どう言い訳しようとも絶対に嘘だと思われる。こんなぐうの音も出ない状況で、俺に何ができるのか。


「……笑えよ」


 無理矢理片手を握られて「お手っ!」と繰り返されている俺を笑えばいいだろこんちくしょう。


「レオンさん何をやってるんですか?」


「レオンがイヌみたい、なの」


 ……すみません、冷静に突っ込むくらいなら笑ってください。頼むから。



* * *



 ミズホから時計回りに俺、リア、サキ、そしてロベリアが丸い形のソファーに腰掛けて互いに向き合う。ミズホ達への紹介もそこそこに、リアとサキにこの国の状況を簡単に説明した。

 

 二人はすぐに協力を快諾してくれた。今はこれから相手することになる"従者"について、知る限りの情報を伝えているところだ。


「俺はパージの相手をする。二人にはクラリスとフレイを抑えて欲しいんだ」


 早くもアレジから届いた情報によると、クラリスは炎の魔法剣を得意とし、フレイは近接打撃戦に加えて魔法も得意らしい。奥の手があるかどうかはまだ不明だが、この二人なら何とかしてくれるだろう。


「わたしはフレイと戦いたい、なの」


「あれ、剣を使う相手の方が()り易いんじゃないのか?」


「たまには違う武器を使う相手とやってみたい、なの」


「では、私がクラリスさんの相手をしますね」


 相性とかは考えていないらしい。ま、この二人なら何とでもなるだろう。結局リアがクラリスを、サキがフレイを相手する事に決まった。


「あとは残りの七人をボク達が押さえ込めばおっけー!!」


「俺の頭を撫でながら喋るのは止めろっての」


 言っても構わずに纏わりついてくるミズホのしつこさに負けて、可能な限り無視を決め込む。こら、耳をくすぐるんじゃない。


「えー、コロは気持ちよさ気だよ?」


「それ本物の犬の話だろ!」


 ああもう、作戦会議が全く締まらないのはもう諦めるしかないのだろうか。「わたしもやってみたいです」と物騒なことを呟くリアの言葉は聞こえないフリで何とか回避した。



「一応確認しておきたいのですけれど、彼らが宝玉を譲渡するようにと圧力をかけてきた理由は何なのですか?」


「我々が危険思想の持ち主だから、だそうですよ。このまま放置すれば、我々はいずれ宝玉の力を暴走させて世に災いをもたらすのだそうです」


 リアの疑問に、ロベリアはまるで他人事のように答えた。実際まるで身に覚えがない話だという。

 

「ボク達はちゃんと説明したよ。そんな意思はないし、やりたくても出来ないよって。でも何度繰り返しても『悪党は皆同じことを言う』って取り合ってくれなかった」


 その時に対応したのがミズホとロベリア、そしてこの国の勇者マジークだった。要求を呑むわけにはいかないミズホ達に対し、相手は当然のように刃を向けてきた。


 二人を守ろうと前に出たマジークは、何の躊躇いもなく殺されてしまったという。


「……よくお前たちは無事だったな」


「私を殺しちゃったら日天玉も奪えないからね。多分知らないと思うけど、あの宝玉は人を使って"鍵"をかけられるんだ。主鍵と副鍵があって……って難しいことは横に置くけど、鍵がかかっている間はどうやっても動かせないようになってる。この国と宝玉が同化しているからね」


「脅しすぎて自暴自棄になられたら困ると判断したのでしょう。主鍵をかけたまま対象の人物が死ぬと、宝玉を動かせなくなってしまいますから」


 次までに宝玉の鍵を開放しておけ、と言い捨ててヤツらは帰っていった。絶望的な空気はあっという間に国中を駆け巡り、それ以来淀むような重苦しい空気がこの国を支配している。


「どうして連中は宝玉にそこまで拘るんだろうな。話を聞くと、宝玉の為だけにわざわざ一度帰ったんだろ? 壊した方が何かと早い気がするんだけど」


「宝玉は非常に貴重なものですから、可能な限り壊すようなことはしたくないのでしょう」


「まあ、そうなんだけどさ。どうも力の入れ方が違うというか、宝玉を奪うことこそが連中の第一の目的のように思えるんだよな」


 そもそもミズホ達を非難する理由がただの言いがかりにしか聞こえない。セントアレグリーは未来予知でもできるのだろうか。……ああもう、不確かな予測で考えをまとめようとするから混乱するんだ。これ以上考えても仕方ない、直接第三勇者に話を聞けばいいことだ。


「……どうしてこんなコトになっちゃったんだろ。あの国の勇者と敵対する日が来るなんて、夢にも思わなかったのに」


 がっくりと肩を落とすミズホの呟きに、誰も答えられない。ロベリアが慰めるように肩に手を置くと、ミズホの頭が甘えるように彼女の首に擦り寄った。


「……宝玉を失ってしまえば、この国一帯は死の砂漠になっちゃう。ボクは皆を守らなきゃいけないんだ。だからお願いだよ。力を貸して欲しいんだ」


「大丈夫です。わたし達も精一杯協力させてもらいますから」


「わたしも頑張る、なの」


 リアの笑顔には、相手の心を無防備にする力があるのかもしれない。まだ出会って僅かだというのに、ミズホは「ゴメンね」とリアに飛びついて顔を埋めた。サキにも「ありがとう」と両手を握り、ついでとばかりに俺にも言う。


「レオンもゴメンね。こんな可愛い彼女達がいるなんて知らずにあんなことしちゃって」


「あんなこと、なの?」


「うん。ボク、レオンと抱き合ってちゅーちゅーしちゃったんだ。ちょっとヘンな気分になっちゃったんだけど、そしたらギュッと抱きしめてくれて――」


「ちょっと待てお前!」


 お前は突然何を告白してるんだ。行為については事実だけど、妙に誤解しそうな言い方をするんじゃ――


「……今回は協力的だと思ったら、そーゆー事ですか」


 ――リアの声のトーンがいつもと違う。周りに渦巻く空気が氷のように冷たくなっているせいか、その笑顔が笑顔に見えない。その隣のメイドさんと一緒に、そそくさと俺から距離を取ってしまった。


「酷い目に遭うのも、そう遠い話ではないみたいですね」


 そんな嫌な予言を繰り返さないでくれロベリアさん。頼むから。



* * *



 ミズホのほっぺを引き伸ばしながらお願いした結果、リアとサキにはちゃんと事実が伝わった。それでもあまり態度が軟化しなかった理由はもうよく解らない。


「まず間違いなく、勇者が現れる場所は前回と同じこの北門でしょう」


 ウィクマムの概形が描かれた地図を指しながら、ロベリアの白い指が一点を指す。


「この国は周囲を石垣で囲っています。乗り越えられなくはないですが、彼らは既にこちらが抵抗するとは思っていません。悠々とこの門からミズホ様を呼びつけるでしょう」


 この北門にはパージを相手する俺が立つことになった。一応話し合いもしてみるつもりだけど、今までのことを考えると望みは薄そうだ。


「可能ならば、この北門で彼らの足並みを乱したいところです。特にパージ、フレイ、クラリスを一度に相手をするのはくれぐれも避けてください」


 複数の相手への対処法といえば、全員を孤立させてからの各個撃破だ。そこで俺は、パージを除く全員を、それぞれが待ち構えている地点に飛ばすことにした。

 

 西門の外で待つリアの元にはクラリスを、南門の外で待つサキの元にはフレイを。そして残りの七人は、ロベリアと千人以上の大群が待つ東門付近へ強制的に転送してやるのだ。警戒されていると難しいかもしれないが、相手はこちらが抵抗するとは考えていない筈だ。強制転送という少々大掛かりな罠でもきっと引っ掛かってくれる。


「くれぐれも無理はしないで下さい。あらゆる魔物を打ち倒すといわれる彼らの力は強大です。可能なら応援に駆けつけたい所ですが……」


「そうだな。リアとサキは余裕があるなら他の手伝いをしてやってくれ。俺もなるべく早く片付けるようにする」


「……簡単に言っちゃってるけどさ、相手はあのセントアレグリーの第三勇者なんだよ? 第三位なんだよ? フレイもクラリスも超強いんだよ? みんなどうしてそんなに余裕なのさ」


「大丈夫ですよ、きっと何とかなります。のーぷろです」


「強い相手と戦うのはワクワクする、なの」


 ミズホの視線がこちらを向く。「みんな、ホントに無理だけはしないでね」と言いながら泣きそうな目になっているけど、心配しなくていいから。大丈夫だ、多分。


「それで、やっつけた後はどうすればいい、なの?」


「勝手に退却していくだろ。捕虜にしたところで面倒なだけだし」


「……そうですね。判断が難しいですが、下手に捕虜として身柄を拘束するとさらなる非難に繋がるでしょう。無理してまで拘束する必要はありません」


 今回の目標はあくまで防衛ですから、と結論付けたロベリアの言葉に全員が頷いた。


「勇者の前に立ち塞がる敵役、わたし一度やってみたかったんです」


 妙にやる気を出してリアがぴょこんと立ち上がった。ひょっとして悪の道に目覚めつつあるのかもしれない。キメ台詞を考だしたリアにはできるだけ触れないようにして、ひっそりとその場を解散した。

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