23.隠し部屋への道
こんにちは。ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回ちょっとした謎解き要素を入れてみたのですが、携帯からご覧になっている方は、ズレて表示されるかもしれません。ごめんなさい。可能ならばパソコンからご覧下さい。
2階へ到着して少し移動すると、1階と繋がっている大きな吹き抜けがある。それを挟んだ反対側の壁に馬鹿でかい肖像画があり、俺を見下ろしていた。
一階からでもぼんやり見えていた絵だが、近くで見ると細部までよく見える。長く放置されているのでボロボロだが、人を食ったような笑顔の男が描かれていることはちゃんとわかった。くすんだタイトルプレートには"城主 エドガー・アラン"と書かれていた。
「カッコイイでんな~」
「そうか? 肖像画で舌を出してるなんて相当の変人だろ」
カタカタと骨を鳴らすガイコツのセンスは良くわからない。
……なんだこれ。プレートの下にさらに石が嵌め込まれているのだが、そこにも文が彫られていた。
「"九重の天に住むものは、位の高きものが先頭に立つ。我に会うことを望むなら、4人を正しく導くことだ"……また変な文章が出てきたな」
「兄さん、こっちにもありまっせ」
1234
四ABCD 薔薇の根
三OPQR 敵葬の溝
二GHIJ 奈落の淵
一TSTU 絶望の莚
……なるほど。 これが隠し部屋への道しるべなのか?
「兄さん? そんな腹痛が三日も続いたような顔して、どうしはりました?」
どんな顔だよ。失敗した彫刻みたいな顔に言われたくねえよ。
「これは後回しだな。それよりもフェリンたちを探す方が先だ」
一体どこを遊び歩いてるんだろう。俺だけ除け者にして帰ったんじゃないだろうな――おいガイコツどこへ行く。
「ひひひ、子猫ちゃんを見つけましたわ。見ててや兄貴、カワイイ声を聞かせてやりまっせ」
浮かれた声色の骨が怪しい動きでコソコソと西の通路へ走ってゆく。乾いた足音が聞こえなくなると、耳が痛くなるような静寂が訪れた。
今までガイコツのせいで忘れていたが、この城は本当に音がない。こんな所で誰かが叫んだら確かによく聞こえるだろう。簡単に声を辿れそうだ。
「ギャアアアアア~~~~!」
……あっちか。
予想通り聞こえてきた骨の悲鳴を、俺は辿る事にした。
* * *
「何なのこの不快な珍獣は。このわたしが壊せないなんて有り得ないわ」
手にした"扇子"という道具を苛立たしげに少し開き、すぐ閉じる。フェリンは癖のようにその動きを繰り返しながら、バラバラになった骨が再生する様を不満げに睨んでいた。
「こんな所で何やってんだ。もう1階の探索は終わってたのか?」
「あらお兄様。思ったよりもずっと早かったわね」
1階の探査を早々に終えたフェリンは、サキの探索を手伝うつもりで2階に来たという。そんな事をするなんて、妹は本当にサキを気に入っているらしい。
「お兄様さえ許してくれるのなら、本当に連れて帰りたいわ」
「ダメだっての」
じいさんが知ったら多分腰を抜かすから勘弁してやってくれ。サキを頼むと言われた手前、自分から約束を破るのも寝覚めが悪いだろ。
「はいはい、お兄様は相変わらずね。それで地下はどうだったの?」
「残念ながら、収穫はあの骨だけだ」
収穫ではなく被害と表現した方が正しいかもしれない。
フェリンは呆れたように扇子を広げて顔を仰ぐ。そんな非難するような目で見ないでほしい。
「……わたしもオーガについては収穫なしだったわ。そうそう、1階の井戸で妙な一文を見つけたの」
同じ文を諳んじた妹は興味深げに笑う。
「吹き抜け近くの壁に大きな肖像画があったでしょう? そこに示されていた文も興味深いし、きっとこの城には何かあるわね」
「……ここにあまり長居はしたくない、なの」
辺りを窺うように、フェリンの背後からサキが顔を出した。この城の雰囲気があまり好きではないらしく、普段の泰然とした姿とはまるで違っている。体を縮めて、足元で呻いているガイコツを泣きそうな目で見ていた。
「ぐおお、なんつ~強力な一撃や。もう少しであの河を渡るとこやった」
「お前もう死んでるだろ。どこの河を渡るつもりだ」
……それにしても不可解な程の耐久力だ。完全にバラけた骨は先程と同じようにどんどん組みあがっていき、すっかり再生してしまった。
「全部の部屋を探したけど、結局二階には居なかった、なの」
ガイコツの予言を証明するように、この階にも鬼はいない。まさかとは思うが、オーガは本当に隠し部屋とやらに潜んでいるのだろうか。
「まだリアは帰ってきていないよな。ついでだから三階も行ってみるか」
「お兄様」
今までより少しだけ冷たい声で、フェリンが俺を遮る。
「リアさんのお迎えはお兄様にお願いしても良いかしら。その代わり、わたしとサキちゃんは肖像画の方を調べますから」
「お前、相変わらずそういうの好きだな。別に良いけど、サキに襲い掛かるなよ」
「大丈夫よ。ちゃんと合意の上で襲うから」
「……もしも不埒なことされたら遠慮なく斬って良いからな」
「……なの」
さて、行くか。
「あれ? ワイは?」
* * *
階段を上り3階に到着した。
通路を進んですぐのところで、大きな扉が通路を密封するように立ち塞がっている。ギィ、と音を響かせて扉をくぐると、その先は今までと様子が違っていた。
空気が重く湿っている。床も水らしき液体で濡れていて、溜りになっている部分もあった。
「なんだ、ここだけ雨でも降ったのか?」
「イヤイヤ兄さん、ここはこういう場所なんですわ。研究のために、ここはいつも過剰なくらいに湿気ってるんや」
水棲生物が快適に過ごせるように、意図的にこんな環境になっているらしい。
城主は長い間生物の研究を繰り返しており、外の堀にいたバケモノもその成果の一つだという。
「昔は1階の井戸から水を汲んでいたんやけど、ここの研究が進むうちにそれも要らなくなったみたいですわ。なんでも水を無限に生み出す生物とかもいたみたいでっせ」
眉唾モンですけどな、と喋るガイコツ自体が奇跡の存在なので、そんな変な生物も実在するのかもしれない。
「この分やと、まだ生き残ってる巨大生物とかが徘徊してるかもしれへんね。リアちゃんやっけ? 彼女は大丈夫かいな」
それはきっと余計な心配だ。あいつがただデカイだけの相手に負けるとは思えない。
「それで、リアの居場所はわかりそうか?」
「ほいほい兄さん、今度こそ御所望の可愛い悲鳴を聞かせたりまっせ」
「誰も頼んでねーよ」
まあまあ、と下品に笑いながらガイコツが眉間を揉むような動きをする。リアの気配を探しているのだろうか。うつむき気味の姿が置き物のように僅かも動かなくなり、周囲が静かな緊張に包まれた。
「あ、レオンさん?」
「ギャアアアア!! 出たァ!?」
茶色い悲鳴を上げた骨がひっくり返り、床に打ち付けた衝撃でまたバラバラに散乱した。存在自体がホラーの癖に、実はかなりのビビリらしい。
リアはきょとんと骨を眺めていたが、さして気にする訳でもなくこちらを向く。
「レオンさんのお友達ですか?」
断じて違うわ。
「アレは無視してくれ。それより、もう終わったのか?」
お前とんでもない方向音痴だったはずだけど、ちゃんと見て回れたのか?
「エクちゃんがサポートしてくれたので、なんとか大丈夫でした。でもこの階にオーガさんはいなかったです」
……ここもハズレなのか。ということは本当に隠し部屋に潜んでるのかもしれない。
「なあリア。この階のどこかで変な文章を見なかったか?」
「文章、ですか?」
気が進まないが、こうなったら隠し部屋ってのを見つけるしかない。今頃フェリンがサキと考えているあの謎文を解けば、きっと隠し部屋の場所が示されるのだろう。しかし、解くにはまだ必要なピースが足りていない筈だ。
「ごめんなさい、気付きませんでした」
リアが申し訳なさそうに首を振る。
「イヤイヤ、気にすることはおまへん。ワイが手取り足取りエスコートするさかい。うひひひひ」
「そうですか? ありがとうございます」
にこやかに笑うリアとカタカタと笑う骸骨は、そのままてくてくと歩いて行ってしまう。
……なんだろう、すごく負けた気がした。
* * *
「それにしても、本当に喋る骸骨さんなんているんですねー」
「俺はお前のリアクションの方が驚いたけどな」
まさか眉一つ動かさずに受け入れるとは思わなかった。
「兄さん、無言でワイをバラバラにするの止めて~な……」
うるさい。
また新たな部屋に入ると、怪しい色をした液体がなみなみと注がれたビンが所狭しと並んでいた。奇妙な形の何かが、中でクルクルと回っている。
「何だこの部屋は。気味が悪いな」
「様々な実験生物の保管場所みたいですね。……うーん、特に文章はありませんね」
井戸の文章も偶然気付いただけだし、全部を見つけるのは相当の根気が必要そうだ。
……それとも、何かヒントでも見逃しているのだろうか。
「奈落の淵、か」
1階の文章は井戸の側面に書かれていた。これは"奈落の淵"という一文が示していたのかもしれない。
記憶から文章を引っ張り出す。
薔薇の根
敵葬の溝
奈落の淵
絶望の莚
この館は地上3階と地下1階の4階構造になっている。そして1階井戸にあった文章を示すと思われる"奈落の淵"は下から2番目の文だ。文の位置が階を示すのならば、3階の文を示すヒントは"薔薇の根"なのかもしれない。
「この階で薔薇なんて見たか?」
「バラですか? ……あ。そういえば、向かいの部屋で寂しそうに一輪だけ咲いていました」
リアの案内でそこへ向かう。
実際に見てみると確かに棚の上に花瓶があり、黒い薔薇が一輪刺さっていた。その根ということは――
「あった」
花瓶の底を確認すると、意地悪なほど小さな文字が書いてあった。
「"赤薔薇もつ貴公子の"……多分これだな」
これで2つ。恐らくは2階と地下のどこかにもある筈だ。
俺達はフェリンと合流する為、2階の大きな肖像画まで戻ることにした。
* * *
フェリンたちの所へ戻ると、肖像画の前で妹が難しい顔をしていた。どこからか椅子を用意して座り込んでいる。
「むー、やっぱり考え方が違う気がするわ……」
「……、にゃの」
案の定サキはフェリンに撫で回されていた。サキはもう色々諦めたらしく、大人しくフェリンの膝の上に収まっている。サキの頬をぷにぷにしながら、妹はこちらに目線を向けた。
「あらお兄様。やっぱり3階にもいなかったみたいね」
「ああ、ガイコツが言うには隠し部屋に潜んでいるらしいけど」
「隠し部屋ね……いるとすれば、もうそこしか考えられないわね。そうそう、3階の文章は見つけてきてくれたかしら」
既に2階から地下までは発見済みだという。俺はフェリンに3階の文を告げて、4つ全てを並べてみた。
"見目麗しくとも天寿天命は"
"赤薔薇もつ貴公子の"
"刹那のみの幻のひと"
"手足胴すべては脆く"
そして、意味ありげに肖像画の下に記された文章は次の通り。
"九重の天に住むものは、位の高きものが先頭に立つ。我に会うことを望むなら、4人を正しく導くことだ"。
1234
四ABCD 薔薇の根
三OPQR 敵葬の溝
二GHIJ 奈落の淵
一TSTU 絶望の莚
恐らく、必要なピースは全部ある。これを解けば隠し部屋への道筋が示される筈だ。日が暮れるまでには終わらせたいもんだ。




