0.ある魔王の愚痴
はじめまして。小説を自分も書いてみたくてやってしまいました。もしも気に入ってもらえたなら嬉しいです。
基本的に主人公視点で書いています。一部に残酷描写と考えられる部分が有る(予定の)為、ご注意ください。
なんか面白い事が起きないかなーと思う。
面白いコトなら何でも良い。今も俺を苦しめ続けている退屈という名の暴力から全力で逃げたいのですよ。何か良いアイデアがあれば是非お願いしたい。
自分で考えろって? そこを何とか。もう自分で考え付く限りの暇つぶしを試した後なんだよ。もう飽きちゃってさ、何するにしてもやる気が出ないんだよね。
こんな事ばかり言ってると、もしかしたら俺を「つまんねーつまんねー」と口だけ動かしてるぐうたらな男だと思ったかもしれないけど違うからな。俺はそんなんじゃないぞ。
ホントだってば!
……すまん、ちょっと取り乱した。が、しかし。
そうじゃないんだ、解かってくれ。飴あげるからさ。すっぱい果実を贅沢に使った一品だからきっと疲れも吹き飛ぶぞ。多分。
要らない? 美味しいのに。
ま、ともかくだ。
俺はそんなんじゃないんだ。自分で言うコトじゃないかもしれないが、行動力はあるほうなんだ。叶うなら今すぐに元の世界へ飛び出したいと思っているさ。
なら勝手に行けば良いだろって? それが無理だから困ってるんだ。俺は、この見渡す限り真っ白な世界に閉じ込められているんだよ。
辺りには何も無く、小さな家がポツンと建っているだけ。その中にはベッドが一つ置いてあるだけで、何の面白みも無い世界だ。
何故か空腹にはならないし、それに伴うアレとかも起きない。だからお見せできないような光景になっていないのが救いといえば救いだ。
何か発見が無いかと試しに十分ほどボロ家から真っ直ぐ歩いてみたんだが、ふざけた事に辿り着いたのはこのボロ家だった。たった十分で世界一周は間違いなく世界記録だな。ぶっちぎりの。
……そう、出口が無いんだ。
例えここが海に囲まれた無人島でも、世界最大の砂漠ど真ん中だとしても俺なら脱出できるのに、この世界のどこを探しても出口が見つけられなかった。
酷い話だよ。虐待だよ。非人道的な仕打ちだよ。
何も無いこの世界ではあまりに暇すぎたので、実はこの家一度ぶっ壊した。
今建っているこの家は、その残骸でまた組み立てたものなんだ。
……そんな目で俺を見ないでくれよ。俺だって壊すつもりは無かったんだ。ただ、世界一周感動のゴール地点にのほほんと突っ立ってたボロ家をみたら無性に腹が立ってさ、つい自分を抑えられなかった。
たぶん経験なんて無いと思うけど、こんな所に何年も閉じ込められるのって大変なんだよ。 自分で言うのも変だけど、よく気が狂ってないと思う。
どうしてこんな事になったのかって?
うん、さっき言ったけど閉じ込められたんだよ。故意に。
そいつ酷いヤツなんだよ。俺はただちょっと世界征服でもしようかなって思っただけなのにさ。……世界征服は気ままに出来ることじゃない? うん、そう考える貴方は全く正常な感覚の持ち主だと思う。ただ、俺の家だと世界征服ってのが普通に話題になるんだ。
俺をこんな所に閉じ込めた犯人は誰かって? えーと、面と向かって聞いた訳じゃないんだけど、仲間らしきやつらから"ユーシャ"って呼ばれてた。変な名前だよな、あはは。
……あー。思い出したらまたムカムカしてきた。あいつらは世界を自由に歩き回れるんだもんな。酷い話だよ。俺が何したってんだよ。そりゃ確かに世界征服しようかなーって思ってたけどさ、思っただけなんだよ。本当だって。最近は妄想まで取り調べられるのか? 時代って変わるよな。
『あの……』
今思えば昔は良かったよ。あの時は親から憎むほどの愛情を貰っていたけど、まだこの世界よりはマシだった。死ぬほど酷い目に遭ったけどこの世界と違って刺激が有るしさ。本当に何回か親に殺されかけたけど。
「愛情よ」なんて戯言を抜かしながら地獄の火炎を投げつけてきたお袋様とか、無言で俺の苦手なホーリーブレスを延々と浴びせかけ続けてくれた親父殿とか。懐かしいな、絶対あれ夫婦喧嘩の八つ当たりだったと思うけれど。
『あのっ……』
5歳の時にグレイトドラゴンの巣に放り込まれた事もあった。あの時はもう凄かった。卵産んだばかりらしくてピリピリしていたから、俺が侵入させられた時はとんでもない勢いだった。見てるはずのキール……俺付きの執事なんだけど、こいつもちっとも助けてくれなかった。
……やっぱり何度思い返しても酷い生活だ。だんだん今より良かったなんて思えなくなってきた。
『もしもしっ……すみませーん』
この空耳しつこいな。まあいいや、どこまで話したっけ……ああそうだ。
そんな過剰な愛情に囲まれていた俺は、ほとほと嫌気が差していた。だってこんな生活を続けてたら近いうちにきっと死ぬ。だから両親から逃げ出したくて言っちゃったんだ。
「世界征服してきます」って。
何故こんな事を宣言したかって? それは親父達が四六時中口を開けば「お前は選ばれしものらしいので、人間世界でも征服してこい」なんて言うからだよ。今思い出してもテキトーな予言だよなこれ。
当初は世界征服なんて興味なかったし、明らかに面倒そうだからそんな予言は無視していたんだけど……歳を取るごとに段々と身の危険を感じるような愛情を向けられるようになっちゃってさ。両親と執事の三人がかりで闇討ちとか、本当に洒落にならないと思う。愛情が歪みすぎてもう殺意があるとしか思えないっての。
……だから世界征服に行くって言えばこの家から逃げられると、そう思ったんだ。
計画通りに、俺は人間の世界へ潜り込めた。
自由に歩ける初めての異世界が嬉しくて舞い上がっていた俺は、色々な国へ観光に出かけた。市場に行くと美味しそうな物を売る屋台がずらっと並んでいたから、全部制覇する勢いで食べ歩いたりしていた。そんな風に自由を満喫しながら辿り着いたある町で、俺はいきなり大勢に囲まれた。
がちゃがちゃと汗がダラダラ出そうな鎧を込んだ人間がざっと千人くらい。あれ? と思ったらあれよあれよという間に捕まって、俺は偉そうな髭もじゃジジイの前まで連行された。抵抗なんてしないさ。だって俺は何も悪い事をしていないから。
すぐに開放されるだろう……そう考えてていた俺の読みは完全に外れた。見事なまでに俺の言い分は無視され、俺はそのまま牢屋に閉じ込められたんだ。
ほら、俺これでも魔王の息子だし。やっぱり普通の人から見ると怖いのかもしれない。
あれ言わなかったっけ、俺はこれでも魔族の王子をやってるんだ。よくある御伽噺に出てくるアレの息子だよ。俺も昔は悪い魔王を勇者がやっつける話を良く読んだもんだ。
格好良いよね勇者って。当時は聖剣エクスガリオンとか欲しかったなあ。
……ああ、話が逸れたゴメン。捕まった後の話ね。俺はこれでも平和主義だから、3日ほど断食してアピールした。どっかの聖人みたいに。
我ながら結構続いたと思う。でも何の効果も無かったし、空腹で段々馬鹿らしくなってきたからもう止めようかなと思ったその時、ちょっと強そうな男率いる集団がぞろぞろと登場した。
そいつらは、俺がフレンドリーに話しかけても全く無視して大掛かりな魔術を唱え始めた。人間にしては大層な魔力だったと思う。でも俺は鎖に繋がれて動けなかったし、死ぬような魔力でもなかったから何とかなるだろうと大人しくしていたんだけど……。
何度思い出しても溜息が漏れる。
その結果、此処にご招待されたんだよ。
浅はかだったと思ってるさ。でもさ、何度も言うけどちょっと酷くないか? 俺は本当に何もしてないんだ。見た目だって人間と違うのは銀髪ってコトと、人間と比べてちょっとだけ尖った耳だけで、ほとんど変わらないしさ。それなのにこんな非人道的な世界に飛ばしやがって……俺は奴等こそ悪い魔王とその一味だと確信したね。ここから出たら、
『あのっ!! すみませんっ!!!』
「うるせえよ空耳! 俺の記念すべき独演会通算一万回目を邪魔すんじゃ」
……ん? やけにハッキリ聞こえたな今の空耳。
「そ、空耳じゃありませんっ」
やっぱり聞こえた謎の声の方に振り向くと、そこには長い黒髪の小柄な女の子が。
誰?
「は、初めまして魔王さん。わた、わたくしは勇者のリアと申しますっ」
……誰?