「はい」と「いいえ」しか話せない勇者様をもてなすことになった
「フィアナ、た、大変だッ!」
「――!」
私がリビングでのんびり本を読んでいると、お父さんが大層慌てた様子で駆けて来た。
「落ち着いてお父さん。何があったの?」
「ゆ、勇者様が……、勇者様がこの村に向かっているらしい!」
「……っ!」
勇者様が――!
――今から二年ほど前。
長年の封印から突如復活した魔王の軍勢によって、世界は混乱の渦に巻き込まれた。
だがそこで、女神ニャッポリート様から加護を授かった一人の青年が、勇者として立ち上がった。
勇者様は各地の魔王軍を討ち倒して回っており、徐々にだが敵の戦力を着実に削っているそうだ。
そんな世界の英雄である勇者様が今、この村に向かっている――。
これはもう、村を挙げてのおもてなしをするしかない――!
私のお父さんはこの村の村長なので、お父さんが中心となり、勇者様をおもてなしする準備が、急ピッチで進められた。
「よ、ようこそおいでくださいました勇者様! 歓迎いたします!」
「はい」
そして遂に勇者様が、我が村に訪れた。
勇者様は、歳は私と同じく十代後半くらいの、優しそうな顔をした青年だった。
ハッキリ言って見た目は平凡で、あまり強そうには見えない。
だが、装備している鎧には無数の傷がついており、それがここまでの壮絶な旅を物語っていた。
こんな私と同年代の若い青年が、文字通り命を懸けて世界の平和のために戦っている……。
そう考えた途端、私は何の取り柄もない自分が恥ずかしくなり、それと同時に、この歳で勇者として人類に希望を与えている勇者様に、畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
「いやあ、こんな辺鄙な村までお越しになるのは、大変だったことでしょう」
「いいえ」
「……あー、夜には勇者様の歓迎会を開くことになっておりますので、それまではごゆっくりなさっていてください」
「はい」
お父さんと勇者様の遣り取りを見ていて、私はそこはかとない違和感を覚えた。
……さっきから勇者様は、「はい」と「いいえ」しか言っていない。
――まさか!
「あの、勇者様、失礼ながらお訊きいたします!」
「フィアナ!?」
困惑するお父さんに無言で頷きながら、私は一歩前に出た。
「……もしかして勇者様は、『はい』と『いいえ』しか話せないのではありませんか?」
「……はい」
「「「――!!」」」
――やっぱり!
「ど、どういうことですか勇者様!? 魔王軍の者に、呪いでもかけられたのですか!?」
お父さんがアワアワしながら、勇者様にそう尋ねる。
「いいえ」
「そ、そうですか……」
どうやら違うらしい。
だとすると――。
「――勇者としての力を得るための、代償のようなものでしょうか?」
今度は私が、自分の仮説を展開する。
「……はい」
「「「――!!」」」
なるほどね。
いくら女神ニャッポリート様といえど、一人の青年に、単身で魔王軍と戦えるほどの力を与えるためには、相応の代償が必要だったということなのだろう。
となると、必然的に――。
「それは、筆談等でも、自分の意思は伝えられないということでしょうか?」
「……はい」
「「「……!」」」
当然そうなるわよね。
筆談がアリだったら、代償としては弱いもの。
つまり勇者様は、「はい」と「いいえ」以外で、自分の意思を人に伝える手段が一切ないのだ。
それって何て、孤独なのだろう……。
もしも私が勇者様の立場だったら、自分だけ世界から隔絶されたような気持ちになってしまうかもしれない……。
――私は改めて、勇者様を全力でおもてなししなければという、使命感に駆られた。
「あの、勇者様! 勇者様は何か、苦手な食材はございますか!?」
「――! ……はい」
やっぱりあるんですね!
勇者様だって人間ですもの、苦手なものの一つや二つありますよね!
でも、何が苦手なのか一つずつ確認していたら、時間が掛かってしまうわよね。
――よし。
「ちょっとお待ちください、勇者様!」
「オ、オイ、フィアナ!? どこに行くんだ!?」
私は急いで、台所へと向かった。
「さあ勇者様、これが今夜の歓迎会で使う食材です」
「……!」
私はテーブルの上に、全ての食材を並べた。
「この中に、苦手な食材はございますか?」
「……はい」
なるほど、あるんですね。
できれば勇者様に、その食材を指で差してもらえればすぐわかるんだろうけど、きっとそれも封じられているのだろう。
――となると。
「では勇者様、その苦手な食材は、こちら側のどれかですか?」
「……!」
私は食材を左右で二つのグループに分け、向かって右側のグループを指で差した。
「いいえ」
ふむふむ、つまり苦手な食材は、左側のグループにあるということね。
私は今度は左側のグループを、更に二つに分けた。
そして――。
「では勇者様、その苦手な食材は、こちら側のどれかですか?」
再度向かって右側のグループを指で差した。
「はい」
よしよし、段々正解に近付いてきたわ。
こうして私はこの作業を何度か繰り返し、遂に残り二つまで食材を絞れたのだった。
そして――。
「では勇者様、その苦手な食材は、これですか?」
「……はい」
「「「――!」」」
遂に勇者様の苦手な食材が判明した。
――何を隠そう、それはピーマンだった。
超オーソドックスなやつ!
ふふふ、やはり勇者様も、一人の人間なんですね。
この瞬間、雲の上の存在だと思っていた勇者様が、とても身近に感じられた――。
「オオ! でかしたぞフィアナ! よし、お前のことを、勇者様の専属お世話係に任命する」
「えっ!?」
お、お父さん!?
何を言い出すのよ急に!?
いくら何でも、それは恐れ多いわよ!
「では勇者様、歓迎会まではまだ少しお時間がございますので、何かありましたら、この私の娘のフィアナにお申し付けください」
クッ……!
でもこうなったからには、私も後には引けないわ――!
「よ、よろしくお願いいたします、勇者様!」
私は勇者様に、深く頭を下げた。
「――はい」
「――!」
そんな私に、勇者様は春の陽だまりみたいな笑顔を向けてくださったのだ。
――私の胸が、トクンと一つ跳ねた。
あ、あれ??
何だろう、今の……。
「あ、勇者様、こちらどうぞ。紅茶です」
「はい」
我が家のリビングに座られた勇者様に、そっと紅茶を差し出す私。
ちなみにお父さんは歓迎会の準備で忙しいので、今この場にはいない。
私が幼い頃にお母さんを病気で亡くして以来、ずっとお父さんと二人暮らしだったので、今この家には、私と勇者様しかいないのである……。
クッ……!
そう考えたら、途端にまた胸がドキドキしてきた……!
い、いやいやいや。
私はただのお世話係に過ぎないんだから、変に意識する必要はないのよ。
お世話係に徹しなさい、私――!
「これは私の作ったロールケーキなんですけど。お口に合うかわかりませんが、よろしければどうぞ……」
「はい」
私はお菓子作りが趣味なので、勢いで手作りロールケーキを勇者様にお出ししてしまったものの、先に甘いものは苦手じゃないか訊くべきだったかしら……!?
男性は甘いものがお好きじゃない人も多いし……。
――だが、勇者様は無言でペコリとお辞儀をすると、フォークでロールケーキを一口サイズに切り、それを口に運んだ。
すると――。
「――!」
漫画だったら、「パアァッ」という効果音が出ているくらい、勇者様のお顔がほころんだ。
こ、これは――!?
「あ、えーと、お口に合いましたでしょうか、勇者様?」
「はい!」
勇者様は満面の笑みを浮かべた。
ま、眩しい――!
嗚呼、流石世界の英雄たる勇者様……。
笑顔だけで、こんなにも私の心を潤してくださるなんて……。
……でも、だからこそ、勇者様の置かれている運命を思うと、途端に胸がギュッと苦しくなった。
「……勇者様は、怖くはないのですか?」
「――!」
こんなことを訊くのは失礼かもしれないとは思いながらも、訊かずにはいられなかった。
「『はい』と『いいえ』しか話せず、たったお一人で強大な敵と戦い続けるなんて、私だったら多分耐えられません。どうして勇者様は、それでも逃げずにいられるのですか?」
「……」
あ、しまった。
勇者様は、「はい」か「いいえ」でしか答えられないんだ。
今のは、私の訊き方が悪かった。
「う、うわあああああああ!!!!」
「「――!!」」
その時だった。
家の外から、お父さんの叫び声が聞こえてきた。
な、何が――!?
「……」
「あっ、勇者様!」
勇者様は一瞬で戦士の顔になると、流れるように剣を掴み、外へと駆け出した。
「クッ!」
私も急いで、勇者様の後を追った――。
「ぐ、あああああ……!!」
「お父さんッ!?」
家の前の広場に出ると、頭に二本の禍々しい角が生えた大柄の男に、お父さんが首を掴まれ、宙吊りにされていた。
まさかあの男は、魔族――!!
「……」
勇者様が剣を構え、魔族の男と相対する。
「ハッハッハァ! やはりここにいたか勇者よ! 俺は魔王軍六騎将の一人、【灰拳】のゲルザ! よくも我が同胞たちを斬り捨ててくれたな! その仇、今こそ討たせてもらうぞ!」
何が仇よ!
最初に人類を攻撃してきたのは、そっちじゃない!
「……!」
「おっと動くなよぉ? 俺が少しこの左手に力を入れれば、こんな人間の首、一瞬でへし折れるんだからなぁ」
「ヒィ……!?」
「お父さん……!!」
クッ、何て卑怯な……!!
「さあ勇者よ、この人間を殺されたくなければ、剣を捨てろ」
「……」
「ゆ、勇者様……」
「勇者様……! 私のことは構いません……! た、戦ってください、勇者様……!」
お父さん……!
嗚呼、お父さんには死んでほしくないし、かといってここで勇者様が殺されてしまったら、この世界は終わり……。
私は、いったいどうしたら……!
「……いいえ」
「勇者様……!?」
が、勇者様は躊躇なく、剣を捨ててしまったのだった。
あ、あぁ……。
「ハッハッハァ! それでこそ勇者だ! ご立派ご立派ァ! やっぱ偉大な勇者様は、こんな雑魚の命でも見捨てられねぇよなぁ? ――じゃあ、そのまま動くんじゃねぇぞ」
お父さんを左手で掴んだまま、ゲルザは下卑た笑みを浮かべて勇者様に近付いて行く。
そして――。
「オラァッ!!」
「「「――!!」」」
空いているほうの右手で、勇者様の顔面を思い切り殴ったのである。
ドガンという、まるで隕石が降ってきたみたいな、物凄い衝撃音がした。
「勇者様ッ!!」
「……」
が、あれだけの攻撃だったにもかかわらず、勇者様の口元からは、軽く血が流れただけだった。
流石勇者様……!
普通の人間だったら首が吹っ飛んでたところだろうけど、タフさも桁外れだわ……。
……でも。
「ハッハッハァ! やるな。俺の【灰拳】を喰らって生きていた人間は、お前が初めてだぞ勇者よ。――だが、それもいつまでもつかな? オラオラオラァッ!!」
「「「――!!」」」
今度はゲルザは目にも止まらぬ速さで、無数にパンチを打ってきた。
勇者様のお顔が、苦痛で歪む。
「オラオラオラァッ!!」
尚もゲルザの猛攻はやまない。
嗚呼、勇者様……!!
「勇者様、お願いです……! わ、私なんかに構わず、戦ってください!!」
お父さん……!!
「――いいえ!」
が、勇者様は頑なに、首を縦に振ろうとはしない――。
そして――。
「……」
「ゆ、勇者様ッ!」
遂には堪えきれず、その場に片膝をついてしまった――。
嗚呼……。
「ハッハッハァ! 所詮勇者もこの程度か! さて、お前はもう用済みだ。最後はこの俺の渾身の一撃で、勇者を屠ってやる」
「う、うわ!?」
ゲルザはお父さんを放り投げ、右手の拳を天高く掲げた。
――クッ。
「させないわよ!」
「アァン?」
「フィ、フィアナ!?」
私は両手を広げ、ゲルザの前に立ちはだかった。
「勇者様を殺すなら、その前に私を殺しなさい!」
「フィアナ!! 何を言ってるんだお前は!?」
これで少しでも時間が稼げれば、勇者様の体力も回復するかもしれない。
――世界を救うためには、これが最善の道よ。
「ハッハッハァ! 殊勝だな小娘! 気に入った。望み通り、貴様を先に殺してやろう!」
ゲルザの丸太のような腕が、私に振り下ろされる――。
「フィアナッ!!」
――ごめんなさい、お父さん。
――勇者様、後は頼みます。
「な、なにィ!?」
「「「――!!」」」
……え?
あれ?
全然痛くない……?
「――!! ゆ、勇者様!?」
いつの間にか勇者様が私の前に立っており、左手だけでゲルザの右拳を受け止めていた――。
嗚呼、勇者様――。
「クッ!? 何故だ!? 何故まだ立ち上がる!? 貴様、死ぬのが怖くはないのか!?」
奇しくもゲルザが、先ほど私がしたのと同じ質問を口に出した。
「……いいえ」
勇者様……。
そうですよね。
勇者様だって、そりゃ死ぬのは怖いですよね……。
「では、何故貴様はそれでも逃げずに立ち向かってくるのだ!? ――ま、まさか、自分が逃げたせいで誰かが死んでしまったら、そのほうがずっと怖いからだとでも言うつもりか!?」
……ん!?
「はい」
ゆ、勇者様!
「そ、そうか! さては貴様、まだ勇者の力を授かる前、故郷を我ら魔王軍に襲われた際、何もできず逃げ出してしまったのだろう!? そのことをずっと後悔していた貴様は、勇者になってからはどんなに怖くとも、もう二度と逃げないと心に誓ったというのだなッ!?」
「――はい」
勇者様のこと誰よりもわかってるなこの魔族!?!?
「クッ、だが、俺にも魔王軍六騎将としてのプライドがあるッ! ここで貴様に負けるわけにはいかんのだッ! 死ね、勇者よおおおお!!!」
今度はゲルザは、左の拳を振り下ろしてきた。
勇者様――!!
「――いいえ」
「――ガハッ」
「「「――!!」」」
が、勇者様の右拳のほうが一瞬速く、ゲルザの心臓を貫いたのだった――。
ゆ、勇者様ああああああああ!!!!
「……ハ、ハッハッハァ。……見事だ勇者よ。……だが、俺は魔王軍六騎将の中でも最弱。……必ずや残りの六騎将が、貴様……を……」
ゲルザの全身が灰となり、跡形もなく消え去った――。
……こんな言い方をするのは何だけれど、コイツ、悪役としては百点だったわね。
「……!」
「ゆ、勇者様!」
危うく倒れそうになった勇者様を、間一髪私は支えた。
見れば勇者様のお顔は傷だらけで、私は胸がギュッと苦しくなった。
勇者様はこれまでも、こうやってボロボロになりながら、人類のために必死に戦ってこられたんだ……。
それって何て気高く、だが、あまりにも辛いことなのだろう……。
「勇者様! 本当にありがとうございました!!」
「ありがとうございます勇者様!!」
「あなた様はやはり、この世界の英雄です!!」
「今傷薬を持ってまいります!!」
お父さんや村の人たちも、一斉に勇者様を取り囲んで賞賛の言葉を投げ掛ける。
「……」
だが、勇者様は照れくさそうに、無言ではにかんでいたのだった――。
「わっはっは! さあさあお前たち! もっとジャンジャン飲まんか!」
「もうお父さん、恥ずかしいからその辺にしてよ」
大分夜も更け、勇者様の歓迎会も、宴もたけなわとなった頃。
完全に出来上がったお父さんは、顔を真っ赤にしてくだを巻いている。
まったく、お父さんは飲み会だとすぐ調子に乗るんだから。
「あれ? お父さん、さっきから勇者様の姿が見えないんだけど、どこに行かれたか知ってる?」
「ん? ああ、そういえばいらっしゃらないな。もしかしたらトイレの場所に迷ってるのかもしれん。ちょっと探してきてくれ、フィアナ」
「うん」
この歓迎会の会場のトイレは、わかりづらいところにあるものね。
私は立ち上がり、勇者様のことを探しに行った――。
「あ、勇者様! こちらにいらっしゃいましたか」
「はい」
建物の中にはいらっしゃらなかったので外に出てみたら、月に照らされた村をお一人で見下ろしている勇者様を発見した。
この会場は小高い丘の上にあるので、ここからだと村が一望できるのだ。
もしかして……。
「ご自分が救った村の光景を、目に焼き付けておこうとしてらっしゃったんですか?」
「――! ……はい」
勇者様は照れくさそうに、頭を掻いた。
ふふ、やっぱり。
きっと勇者様は訪れる村や町で毎回こうして、ご自分の使命を改めて噛みしめてらっしゃるのだろう。
あのゲルザという魔族ほどじゃないけど、私も段々、勇者様の考えてることがわかるようになってきた。
――そうだ。
「勇者様、勇者様のお名前をお訊きしてもよろしいでしょうか?」
「――!」
ずっと知りたかったのだ。
勇者様のお名前を。
「……はい」
「わあ、ありがとうございます! ――では勇者様、勇者様のお名前の一文字目は、こちら側のどれかですか?」
私はその辺に転がっていた棒で地面に文字を書き、それをまた二つのグループに分け、右側のグループを棒で指した。
すると――。
「はい」
勇者様は頷かれた。
よしよし。
こうして何度かこれを繰り返し――。
「では勇者様のお名前の一文字目は、これですか?」
「はい」
お名前の一文字目は『レ』だということが判明したのだった。
後はこれを繰り返すだけ。
そして遂に――。
「では勇者様のお名前の三文字目は、これですか?」
「はい」
よし!
これでピースが揃った!
「つまり、勇者様のお名前は、『レイド』様ですね!」
「――はい!」
やった!
やっとわかった!
勇者様は、レイド様と仰るんですね!
「レイド様! レイド様!」
「はい! はい!」
私が名を呼ぶたび、無邪気に頷かれるレイド様。
おそらく勇者になって以来、名前を呼ばれる機会はほとんどなかったのだろうから、余程嬉しかったのかもしれない。
――この瞬間私は、目の前の道が開けたような気がした。
「勇者様、どうかお元気で」
「またいつでもいらしてくださいね」
「はい」
そして一夜明けた朝。
お父さんをはじめ、村の人たち総出で勇者様をお見送りしていた。
だが――。
「――レイド様」
「フィ、フィアナ?」
そんな中、私は一歩前に出て、レイド様と向かい合った。
「レイド様にお願いがあります。――どうか私を、旅のお供にさせてください!」
「「「――!!」」」
「なっ!? 何を言い出すんだ、フィアナ!?」
「ごめんなさい、お父さん。――でも、私もう決めたの」
「フィアナ……、考え直せ。何の力もないお前じゃ、勇者様の足手まといにしかならないぞ」
「確かに戦闘ではそうかもしれない。――でも、通訳としてだったら、役に立てると思うの!」
「……っ!?」
そう、それこそが、昨日私が見付けた使命なのだ――。
「レイド様はピーマンが苦手なことも、レイドという名前なことも、自分から教えることは決してできないのよ。……それがどんなに、辛いことか」
「……フィアナ」
「でも、私が一緒にいれば、代わりに教えることができる。――これからは、私がレイド様の記録媒体となって、初めて訪れた村でもコミュニケーションに困らないように、手助けするわ」
それはきっと、私にしかできないことだから――。
「……そうか。お前は死んだ母さんに似て、一度言い出したら聞かないからなぁ。……どうでしょうか勇者様……、いや、レイド様、うちの娘を、通訳としてお供させてはいただけないでしょうか?」
嗚呼、お父さん……!
「――はい」
レ、レイド様――!
「ありがとうございます、レイド様! これからよろしくお願いしますね!」
「はい!」
私はレイド様と、固い握手を交わした――。
「でも、これだけは約束してください」
……?
お父さん……?
「レイド様もフィアナも、必ず生きて帰って来てくださいね」
「お、お父さん……!」
目の前の風景が、水の膜で潤んだ。
「――はい」
「はい!」
私とレイド様は、力強く頷いたのだった――。
――この三年後。
見事魔王を討ち倒したレイド様と共に、勇者を常に側で支え続けた通訳として、私の名前も歴史に残ることになるのだけど、それはまた、別の話――。
拙作、『戦争から帰って来た婚約者が愛人を連れていた』がコミックグロウル様より2026年3月6日に発売された『選ばれなかった令嬢には、本命の彼が待っています!アンソロジーコミック』に収録されています。
よろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)




