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四畳半聖女の楽しい引きこもり生活 ※たまに鎧騎士が訪問します  作者: 彩瀬あいり


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09 聖騎士のこと


 デュランに求められているのは、聖騎士になること。


 それ以外の選択肢は存在しないし、求められていない。

 そうであるべきだし、それが当たり前だった。


 自分は何者なのだろう。

 名前からして、スランの騎士。

 デューク・スランだ。


 なにも知らなかったころはともかく、己の足で歩き、周囲の言葉を理解できるようになれば、デュランは思い悩むようになった。周りの目が怖くなった。


 デュランは聖騎士だった。

 デュランという人間はただの器で、彼らは聖騎士という存在のみを求めている。


 なにを考えているのか、どんな性格なのか。

 それすらもどうだってよくて、ただ、生きていさえすればいい。

 息をして動いているだけのお人形。



 聖騎士訓練の一環ということにして、デュランは人前に出るときは、なるべく顔を隠すようになった。

 聖女と騎士の関係を知っている大人たちはともかくとして、普段から鎧兜を装備する少年を、同世代の子どもたちは嘲笑し、あるいは遠巻きにした。


 奇異と好奇が入り混じった眼差しは常にデュランを追いかけてくる。

 いっそ誰も自分を知らない世界へ行ってしまいたい、逃げ出したいと思うようになっていった。




「情けないことだ」

「そうは思いませんよ。子どもに勝手に自分の都合を押しつけて、それに応えないと駄目だって圧をかける。逃げたいと思っても仕方ないです。そう考えてしまう自分を責める気持ちもわかります」


 成美だってそうだ。毒親から逃げたいと思いつつ、結局逃げきれずにずるずると付き合ってここまできた。

 聖女という仕事に就いて、元の世界から強制的に外されなければ、まだ親と繋がっていたかもしれない。


「私も子どものころ、よく逃避してました。恥ずかしながら、妄想のお友達をつくって、その子とお話をすることで自分を保っていたっていうか」


 デュランがあまりに深刻なので、成美は自分の黒歴史を開示することにした。

 さすがに俺はそこまでではないな、と、すこしでも気持ちを軽くしてくれたらいいなーと、そんな程度の気持ちだった。

 しかし、デュランは予想外の答えを返してきた。


「なんだ。ナルミにもそんなことがあったのか。じつは俺もなんだ」


 はい? この麗しいイケメンにもそんなおもしろい過去があったと?

 いやおもしろいといっては失礼だが。

 どう反応しようか悩む成美に、デュランはさらなる爆弾を投下する。


「俺の相手は女の子だった。ミーと呼んでいた。もっとちがう名前だったようだが、俺はうまく聞き取れなくて。相手もそうだったようで、俺はミーから、ウーという愛称をもらい――」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってもらっていいですかっっ」

「なんだろう」


 ウーとミー。


 海、とか、そういうことではなく。

 聞き覚えのありすぎる、成美の黒歴史に酷似した事象に体が震えてくる。


 ど、ど、どういうことですか。


 成美は慌てて立ち上がり、引き出しの中から小さな巾着袋を取り出して戻る。そのなかに入れてあった物を手のひらへ乗せ、デュランへ見せた。


「つかぬことを伺いますが、これに見覚えとかありますか?」

「こ、これ、は……」



 木彫りの動物。五センチほどの小さな物で、ところどころ欠けていたり、すり減っていたりもしているけれど、なんとか形は保っている。

 これは黒歴史時代の遺物だ。


 押し入れの主・うーくんとは、会ったことがない。

 襖を開けると誰もいなくて、閉めている状態でないと会話ができなかった。

 だからこそ、見えない誰かは成美の妄想だと思っていたし、他人には言えない家族への愚痴なんかも漏らしていた。


 けれど、たった一度だけ、自分ではない誰かの存在を感じたことがある。


 いつになく荒れた父が成美の部屋に入ってきて、背中を蹴られたことがあった。うーくんとこっそり会話をしていたため、「ひとりでしゃべるな」とかなんとか文句を言われたのだ。


 畳の上に転がった成美に追撃をしようとした父だが、そのとき、襖の向こう側から大きな音がして、ガタガタ揺れ始めた。

 当時住んでいた家は古く、立て付けが悪かったので、風が強い日には窓が揺れたりもしたけれど、その日はまったくそんなことはなく。

 いつまでも収まらない音と、なんだったらいまにも破れそうな勢いで襖が内側から膨らんでいるのを見て、父は逃げていった。


 父には声が聞こえていなかったようだが、成美にはちゃんと聞こえていた。

 うーくんが、「みーはぼくがまもる、おまえ、そこをどけ」と、体当たりをしているような声が、ちゃんと聞こえていた。

 父は怖かったけれど、成美には味方がちゃんといるのだと思えて、とてもうれしかったことを強く憶えている。


 数日後、押し入れの中には、この木彫りの動物が転がっていた。

 もしやこれがうーくんの正体だったのかと思ったりもしたが、木彫りがこちらにある状態でも、襖の向こうにうーくんはいたので、そうではないとわかる。

 これは彼が用意した御守りだった。守り神らしい。


「ぼくはそちらに行けないから、そのかわりになればいいなって思ったんだ。とどいてよかった」

「ありがとう、だいじにするね」

「うん」

「なにかおかえしできたらいいんだけどなあ。折り紙ぐらいしかなくて」

「おりがみ?」


 そして成美が作ったのが、たしか兜だった。

 うーくんが「騎士になる」と言っていたので、そのころ読んだ児童書の知識で、騎士といえば鎧兜だと安直に考えたせいである。襖を開けずに、隙間からねじ込んでみたところ、なんと無事に届いたらしい。


 成美が今でもうーくんをどこかで信じているのは、このやり取りがあったから。

 夢のようでいて、夢ではない。

 家を引っ越してから会えなくなってしまったけれど、うーくんは成美にとって絶対的な味方であり、かっこいい騎士さまだったのである。



「うーくんに貰ったお守りなんです。うーくんは騎士になると言っていました」

「ナルミが、ミーなのか……? まさか、そんなことが」


 机に置いた木彫りの動物をふたりで眺めて沈黙する。

 そのとき、タブレット端末から音がした。

 なにかの通知音。

 銀太郎が覗きに行き、画面をポンと押して言った。


「こんにちはー、ぼくだよー」

「なんだ銀太郎か。聖女は?」

「えっとねえ、聖騎士とおはなししてるよ。成美がミーで、デュランがウーなんだってー」

「あー、判明したんだね、その事実」

「うん? ぼくよくわかんない」

「聖女、呼んでくれるかな」

「わかったー。成美ー、神さまだよー」


 タブレット画面から成美のほうへ顔を向けて、銀太郎がしっぽを振る。


「もしかしてとは思ってたけど、軽すぎないかな、銀太郎くんは!」

「うんー?」


 小首を傾げるさまは大変かわいいが、いきなり神さまからの通信は、そんな軽いものではない気がする。



親に掛かってきた電話に勝手に出てしまった子どもの図

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