11 私の騎士さま
「ナルミ。スランはあまり華やかな地ではないが、聖女を求める声は大きい。待っていたぶん、期待も膨らんでいるだろうが、俺も手伝うから、この地に留まってくれないだろうか」
「そうですね」
「数十年ぶりの聖女さまだ。どうなるのかわからないし、敵対する者が現れないともかぎらない。だが、俺が護ると約束しよう。俺は聖騎士だ」
デュランは成美の両手を包むように握りこみ、真剣な眼差しで告げた。
「俺はこの世に生まれた瞬間から成美の騎士だ。あのころ、聖女ではなくミーの騎士のほうがよかったと苦悩したものだが、成美がミーだったのだ。もう迷いも憂いもない。俺のすべてをかけて貴女を護ろう、生涯、傍で、ずっと、永遠に」
「すごーい、ぼく知ってるよー、こういうの、愛が重いっていうんだよねー。ねえねえ成美、どうするのー? ぼくはいいと思うなー」
いったいなにがいいと言うのか。
銀太郎がうれしそうにしっぽを振る。
成美といえば、慣れない状況に顔が赤くなっていた。
イケメン、お坊ちゃま。
次男ということで後継ぎではないようだが、それでもこの手の世界では、お貴族様には婚約者的なひとがいるのではなかろうか。
今はおらずとも、虎視眈々と狙われているにちがいないのだ。なにしろイケメンなので。
「俺の気持ちは迷惑だろうか」
「そんなことは」
「傍にいると不快か」
「いえ、まったく」
それは、デュランが聖堂へ入ることができてから、ずっと変わらない気持ちだ。
ぼっち上等どんとこいの成美だが、見慣れた己の四畳半の部屋にデュランがいても、まったく苦にならない。
緊張していたのは最初だけで、いることに慣れてしまえば沈黙すら心地よかった。
とりとめのない雑談、読んだ本の感想、お取り寄せの相談。
楽しかったり、おもしろかったり、穏やかだったり。
些細なことも、あとから思い出して、うれしくなれる。
デュランは成美にとって、貴重な相手だった。
まるで子ども時代に――うーくんと話をしていたころに戻ったみたいな気持ちだった。
結果的に本人だったので当然ではあるのだが、そんな通常考えられないような出来事も、まるで運命的に思えてうれしい。
そう、うれしいのだ。
いったいどこの少女小説だと思わなくもないけれど、お約束的ベタ展開に対して、成美はとてもドキドキしているし、うれしく感じているのである。
「なにそれ、私ってそんな軽い女だったわけ……?」
「たしかに成美は細いし軽いな。もっと食べたほうがいい」
「軽いの意味がちがうー」
子ども時代に軽く育児放棄されていた影響なのか、成美は一般的な成人女性の中では小柄だ。
けれど、ぐーたら引きこもり聖女生活により体重は増加していると思われる。そろそろ運動を考えなければまずいだろう。
「ってー、そういうことじゃないってばー!」
「どうしたナルミ、憂いがあるのならば取り除こう」
「憂いっていうかなんていうか、デュランさん、生涯とか簡単に言いますけど、お貴族さまっていうのはご結婚とかあるのでは?」
「聖騎士は聖女のお傍に侍る者だ。俺が聖騎士になった段階で、そういった相手は想定されていない」
強制的に独身が決定するとか、聖騎士とは制約の多い仕事である。お気の毒に。
「家の付き合いで最低限は出席しなければならん場所もあるが、そういったところへ参加するときは、鎧をかぶって顔を隠していた。両親がそうしろと言ったからではあるが、そのせいなのか、ご令嬢たちに遠巻きにされてな。嫌われたものだよ。もうすぐ三十歳、女性には無縁の生活だった」
「たぶんそれ、ご家族の努力の賜物」
聖女が来るまで身綺麗にしておく必要がある聖騎士。
ところがデュランはこの顔だ。普通に考えたらモテないわけがないだろう。毒牙にかからないよう、「常に鎧装備のおかしな奴」として扱ったにちがいない。
その聖女が私ですみません。
成美は、領主に心の中で謝罪する。
今度、おいしいもの、差し入れさせていただきます。
「ナルミ、我が生涯を君に捧げる。騎士の誇りにかけて誓おう」
デュランが成美の手を押し戴き、そっとくちづける。二次元でしか見たことがないことをされ、成美は肌が粟立った。
「神よ、我はここに誓願を立てる」
「聞き届けた。聖女よ、それでよいか」
よいか悪いかと問われたら、悪くはない。
成美はおずおずと頷く。
すると、デュランがくちづけたところが光りはじめたではないか。
LEDライト並みの眩しさに、目を閉じる。
リンゴーンと、どこからか鐘が鳴った。なんだそれは。
光が収まり、成美は目を開ける。
眩いばかりのイケメンが穏やかな笑みを浮かべており、今度は恥ずかしさに目を伏せた。目が。目があああ。その蠱惑的な表情は反則ですよー。
「おめでとう聖上成美、デュラン・コールフィールド。スランの繁栄を祈念している。なにかあれば連絡をしてくれたら、相談に乗るから。銀太郎、頼んだよ」
「はーい」
おめでとうって、なにが?
わけがわからず混乱する成美。微笑むデュラン。
ふたりの足下をうれしそうにぐるぐるまわる銀太郎。しっぽを振りすぎて千切れそうになっている。
「わっふー! ぼく、ふたりともだいすきー。ずっと一緒にいようねー」
「聖女の気持ちも確定したことだし、ほどなく空間転移も完了するでしょう。一部は繋がったままにしてあるから、引き続き異界の商品を仕入れてくれたら助かります」
「はあ、お取り寄せはいつでもしますけど」
「助かります。それでは本日はこのへんで失礼しますね」
「あ、はい。お疲れさまでした」
プツン。
通信が途切れる。会議終了。
「転移が完了したら、外に出ても大丈夫だよー」
「それは本当か銀太郎」
「うんー。成美、一緒にお外にお散歩行こうねー。運動するって言ってたでしょー」
「ではまず我が家にお連れさせていただこう。両親に紹介するよ」
たしかに聖女として、ごあいさつは必要だ。
扉越しにしか会話できていないので、きちんと対面で話をしておきたい。リモートワークが主流とはいえ、ビジネスの上では、やはり一度でもいいから直接会っておくのは大事だろう。
うなずく成美にデュランは甘く微笑んだ。
「貴女が俺の『ミー』だと知れば、きっと驚くだろうな」
「え、ご家族も知ってるんですか?」
「声が聞こえなくなって、ひどく落ち込んだからな」
子どもの妄想と聞き流すことなく、なぐさめて元気づけてくれたそうだ。己の親とのちがいを目の当たりにして、成美はちょっぴり哀しくなった。
「ナルミにとっても両親となる方だし、是非会ってほしい」
「……ん?」
今なにか、おかしなことを言われた気がする。
成美は冷や汗をかきはじめた。なにかとんでもないことをやってしまったのではないだろうか。
生涯共に、とか。言葉の綾かと思っていたけれど、もしかしてもしかしなくても、ウエディング的な意味で言っていた? 神さまへ誓って、しかも了解されたかんじ? あれ??
やらかした気がして焦る成美に、デュランが微笑む。
「ナルミ、ずっと会いたかった」
彼の言葉はたしかにそうで、成美もまったく同じ気持ちだ。
うーくんは成美の絶対的な味方であり、いつか会いたいひとだった。
そのひとが目の前にいる。
――じゃあ、それでいいのでは。
結局それがすべてなのだと思った成美は、言葉を返した。
「私も。もう一度、会いたかったよ」
うーくん。
私の騎士さま。
ひとまず、これで終わります。(四畳半から出られるようになったので)
【2026.3.17追記】
思っていたよりたくさんの方にお立ち寄りいただき、大変うれしく思っております。ありがとうございます。
リクエストいただいたこともあり、デュランの家族が出てくる後日談を書いてます。
書き始めたら、あれこれ出てきて、まだ書き終わらなくて、1万字超えました……。
なんとか3月中には投稿できるよう努めます。
-----追記終わり-----
このあとは六賢人それぞれに贈答品をお渡しして、スランに加護をもたらしてくれる流れに。
温泉ができて湯治場として発展。新たな観光地になります。
デュランにお酒を飲ませるとどうなるのか、書く場所がなかったので、ここで簡潔に。
酔うと色気が増し、エロさが倍増されるので、お兄ちゃんが止めました。
お酒の入ったお菓子を食べたときにそれが発動し、成美もその被害者となり、寝落ちして起きたあとのデュランに「飲むのやめましょうね」ってお願いします。




