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ホラー短編

【怖い話】異世界に召喚されたけど、言葉がまったくわからないので、それっぽい行動をしてたら、世界を救っちゃいました

作者: 小岩 正

先日、投稿したコメディー作品の裏側です。

前半の内容は、セリフ以外は同じです。


実は、怖い話でした……。

 俺の名前は葉梨(はなし)ワカル。どこにでもいる平凡な高校生──だったのだが、ある日、授業中に突然光に包まれ、気がついたら謎の大広間に立っていた。


 豪華なシャンデリア、ずらりと並んだ鎧、でっかい玉座。そして、目の前には王様っぽいおじさんと、ツンとすました美女。その美女が口を開いた。


「タシンカウヨシ=ヲエニヶイノシャジルセ・サウボツメィ=カセ!!」


 ……何言ってんの?


 まったくわからん。しかも、俺がポカンとしていると、周囲の人たちが「おお〜っ」とか何か色々言いながらざわついてる。いや、お前らの言葉、ぜんぶ異世界語で何言ってるかわからないって……。こういうのって、普通は分かるようになるんじゃないの?


 それからというもの、俺は訳の分からぬまま歓迎され、飯を出され、なんか魔法陣とかで祝福された。わからないながらも、俺は推理した。


 たぶん、俺、すっごい強い存在として期待されてるっぽい。


 でも、俺には特別な力なんてないし、異世界語もさっぱり。とりあえず、何言われても「うむ」とか言っておくか……。


 そんな感じで俺の異世界生活が始まった。



 ある日、訓練場に連れて行かれた。筋骨隆々の戦士たちが木剣を持って並んでいる。どうやら、俺に戦闘技術を見せてくれるらしい。


「ウヨレクテミヲ─クヨリツジ! カエ・ニケイノンシヤ=ジガツイコ!」


「ウム……?」


 よくわからんが、たぶん「どれ、我が技を見せよう!」みたいなノリだ。とりあえず、俺は剣を持ってみた。うん、持ち方はなんとなくわかる。


 戦士が襲いかかってくる。ヤバい、どうしよう!


 その瞬間、俺はよけた。偶然つまずいてこけたせいで、相手の攻撃が空振り。そして、勢い余って戦士が自爆して転倒。周囲は大歓声。


「ホォォォーーーーッ!!」


「イィガンウ、エニケ=イノンシヤジ・ハガスサ!!」


 ……たぶん、「すげぇ!」とか言ってる。いやいや、ただこけただけだって。



 さらに次の日。今度は魔導士たちの塔に連れて行かれた。長老みたいな爺さんが、魔法陣を描きながら語り出す。


「スロ=コヲツィコ=ゾルス・ウホィカ=ヲン・シヤジ!」


「……ウム」


 とりあえず、神妙な顔でうなずいておいた。


 すると、魔法陣の中心に立つよう促された。まわりは期待の眼差し。たぶん、俺に魔法を見せてほしいってことだろう。


 仕方なく、俺は適当に手を上げて「マンズィユー!」と叫んでみた。なぜかは知らん。なんとなくだ。そしたら──


 天井が落ちた。


 ……どうやら、上の階でドラゴンが飼われていて、俺の声でびっくりして暴れたらしい。天井を突き破って落下してきたドラゴンは、偶然にも隠された邪神の像を破壊。それが封印の鍵だったとかで、邪神復活阻止に成功したらしい。


 俺は神と崇められた。



 その後も、俺は見よう見まねでテキトーにやってただけなのに、すべてが奇跡的に上手くいってしまった。


 農民に囲まれて畑を指差されたときも、なんか「耕せ」って感じかな?と思ってスコップを振り回したら、地面から聖なる泉が湧き出して干ばつ解消。


 貴族の屋敷に招かれ、トイレを探して迷子に。なんとなく押した壁が「ガコン」と開いて──隠し倉庫を発見。中から金銀財宝が。


 そして、ついには、世界を苦しめていた魔王との最終決戦にも同行させられたのだが、俺はそのとき腹が痛くて、戦いの前にトイレを探してウロウロしていた。途中、転んで階段を転げ落ち、その先にあった魔力の増幅装置をうっかり破壊してしまい、魔王の力が弱体化。アリのように小さくなりプチッと踏み潰す。結果、世界は救われた。



 そして今。


 俺は玉座の間で王様と姫に囲まれていた。周囲は盛大な拍手。王が言う。


「ヨゲサ・サヲチノエマオデンシ! スロ・コヲツイコ・ロソロソ・アサ!!」


 ……え、婚約? いやいや、意味わからんし!


 だが、姫が俺の腕にそっと手を添えて、頬を赤らめた。


……やっぱり姫と結婚するっぽい!


 かくして俺は、異世界の言葉が一言もわからぬまま、なぜか世界を救い、姫と婚約し、英雄として国に名を刻まれることになったのだった。


 ま、いっか。困ったら「うむ」って言っておけば、だいたい何とかなる。





【姫の視点】


ああ……すてき。

本当に、なんて……おもしろいのかしら、あなたって。


まさかここまでうまくいくなんて、思ってもみませんでした。


まさかここまで滑稽に踊ってくれるなんて……誰が想像できたかしら?


ねえ、ワカル様。

あなたは今、ご自分が英雄だと、本気で信じていらっしゃるのでしょう?


言葉も通じない異世界で、右も左もわからぬまま、ただ頷いて……ただこけて……ただ叫んで。


それだけで世界を救った『伝説の救世主』になってしまった。


ふふっ……っくく……ああ、もう、ダメ……笑いが……止まりませんわ。


──でも、それでいいのです。

あなたはそれでいい。

いいえ、そうでなければ困るのです。


だって、あなたは『大切な鍵』なのですもの。

異界の命──生け贄──扉を開くための供物。

愚かで、無知で、従順で、都合のいい『異物』。


それでいて……ああ、どうしてかしら。

こんなに……愛おしく思えてしまうなんて。


だって、あなたのおかげで、私たちは『魔王』を殺せました。


あれは邪神様の復活を阻む忌まわしい障害。

それを、あなたが──無自覚に──転んで、叫んで、踏み潰してくださったのですから。


ねえ、ワカル様。


もう少しだけ……この夢を見ていてくださいね?

あなたが笑っている間に、私は……


あなたの心臓に、祝福の刃を──そっと、沈めてさしあげますわ。


ああ……楽しみ。


これでようやく、我らが神が目覚めるのです……。


血に濡れたあなたの最期が、世界の夜明けになるのです……!


ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふ……!


──さあ、英雄様。

おやすみなさい。


永遠に。

「ドラゴンが邪神像を破壊して、邪神復活を阻止した」は違和感を覚えるかもしれません……。


でも、『誰が』邪神復活を阻止したと言ったのでしょう……。

ワカルは、なぜ、それを理解したのでしょう……。


ご想像にお任せします。


最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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