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第7話 安心感

 「戈星さん、これまで白い手紙が来た地域ってどうなったんですか?」


 そう訊かれた戈星さんは少し考え込んで答えた。


 「──消えました。何もかもが消えました。」


 「え…何もかもって…」


 「これまで7カ所の地域にあの手紙が送られました。そのすべての地域は建物も、人も、植物でさえ街の一部になっていたすべてが消えました。残っていたのは、少しの血溜まりと手紙だけ。」


 絶句した。この前までのワクワク感を真剣に返してほしい。異世界だから元の世界では無い文化とかあるのは分かるが、これは酷い。


 「えっと…それって、全部タリス共和国がやったんですか?」


 「いえ、ほんとんどは違います。違いますが、やってることは同じです。」


 「何か雇ってるんですかね?でも、今考えても仕方が無いですよね…何か逃れる方法を探らないと…」


 (今までの口ぶりからして、誰がやったかも分かっていない。いつやったのかも分かっていない。建物も消えるぐらいだし、誰か見てそうだけど。)


 「──人数的にも、避難は難しい。つまり、ほとんど戦うしか手がない……皆の意見を聞かせてほしい。」


 星鴉が初めて参加した時のように沈黙が流れる。とてもじゃないが、今決めるのは難しいだろう。

 逃げるにしても、ポラリスは人口が多い。同じ規模の街がぽっかり空いているはずもなく、移動時間もかかる。戦うにしても、相手は街を文字通り消す力を持つ正体不明の部隊。この街に常駐している軍もいなくはないらしいのだが、相手の規格外さを考えると軍の本部隊が欲しい。だが、到着前に消されているだろう。


 「意見は無いか?無いなら…とりあえず兵器の完成を急いでくれ。後は軍と相談する。では閉会とする。」


 前回よりも話し合いが行われず、閉会まで行ってしまった。しかも、前回より他人事ではないことない。この場にいた皆が天才的な発想を誰かしてくれると思っていただろう。こういう時、天才的な才能を持った人、マッドサイエンティストな人が意見してくれることを期待するが、どうやらその期待は望めないようだ。

 

 (こういうとき、自分なら大丈夫だろうと思うってしまう。こういうのって確か…正常性バイアスっていうんだよな。)


 終わりが告げられ、皆ざわざわしながら退出してゆく。


 「戈星さん。この状況…かなり、その、マズいですよね。」


 「ええ。状況はかなり絶望的で、防ぐ術が全く無く、逃げることもできない。ハッキリ言って叫びたいですね。」


 戈星さんはかなり冷静だが、思っていることは同じらしい。


 (異世界転生…確かにイベントはあるけど、こんな絶望的になるのかよ…しかも転生してから短期間でだし。主人公補正を切望する!)


 会議が早く終わり、とりあえず兵器の完成を手伝うために、事務所のような所に戻った。

 戻ると槭山さんがすでに作業を再開していた。


 「槭山さん、今までの案をこのまま進めますか?」


 「うーん…使えそうなやつはそのままで、新しい案も作ろう。でも、そんなのあるかな…」


 「守る系は堀とかですよね…」


 (無理じゃね?!来世に期待かな!…はぁ)


 「とりあえず、できることをやろう。それしかない。」


 ∶

 ∶


 2日間。あの手紙が来てから2日も経った。兵士の人の巡回が始まり、簡易避難所の整備、武具·兵器の準備が急速に行われた。現実とは思えないスピードで準備が行われ、この街の人々の一体感に驚く。


 「はあ、帰りたい…」


 この街での生活を始めた新人用の部屋を替え、この身体に合った部屋の窓の外を観ながら呟く。


 「この部屋凄い。ホントに理想的な部屋だ。この街もキレイだし、異世界感もありながら馴染み安い。この状況以外は完璧…」


 飲み物の棚からこの世界の牛乳を取り出し、グラスに注いでひと口飲む。時間はおおよそ8時、この世界に来て生活習慣がまとまって寝起きが良くなった。


 (本当に素晴らしい気分だ!この状況以外は…)


 重要なことなので2回復唱する。最近は兵士の方に新しい武器などを教える役をしている。そのおかげなのか、ハリル語に少し耳が慣れてきた。

 部屋に用意されているこの世界特有の服に着替える。形的に洋服だが、縫われてはいないのが面白い。肌触りもすごくいいので、昨日始めて着てから虜になっている。だが、スボンは元の世界の方がいいのでいつものを使っている。


 「こう、何ていうんだろう?こういう一息ついた時って、何か起こるフラグ感がする…いや、もう起こってるな。」


 そろそろ行こうと思い、靴を履いて外に出る。柔らかい光に包まれ、何とも言えない気持ちになる。

 下を見ると戈星さんがいたので、急いで降りる。


 「おはようございます。今日は馬車移動なんですか?」


 隣に居る馬車を見ながら訊く。


 「そうです、今日は少し遠いので。では、さっそく行きましょう。」


 促されるままに馬車に乗り込み出発する。人はぼちぼちいるが、道が広いのでスピードを落とさずに進んでゆく。

 しばらく経つと、門が目の前に現れた。戈星さんが門番の人に手続きを行い、スムーズに施設に入る。


 「ここ結構でかいですね。何人ぐらいがいるんですか?」


 「ここは2000人ぐらいですね。この国の中では中ぐらいの規模ですよ。」


 少しして停車したので降りる。降りると明らかにオーラが違う人が近づいてきた。


 (この人、ヤバい!)


 そのオーラがヤバい人ともう一人が目の前に立つ。お腹が痛くなりそうだ。


 「はじめまして、戈星さん、星鴉さん。お待ちしておりました。」


 驚いた。オーラについてではなく、転生者ではないこの世界の人が日本語を滑らかに発したからだ。少なくとも今までは聞いたことが無い。


 「隊長の所までご案内します。ついてきてください。」


 これまた驚いた。いつもはすぐ訓練に入るのだが、ここまで組織めいた所は初めてだ。

 建物に入り、花の装飾がされた扉の前に着いた。


 「この部屋の中にいらっしゃいます。では入りましょう。」


 部屋に入ると大きめの机の奥に一人座っていた。


 「『王の槍』部隊へようこそ。私がここの隊長をやらせてもらっている『イロアス·イ·フィラカス』というものだ。」


 来訪した2人の目を順に見る。不思議とその目から逸らせない。この世界の人は眼の色がカラフルだ。なので、眼が赤や青の人を見ても驚かなくなっていた。だが、イロアスさんの眼はオッドアイでそれぞれ異なる輝きをもっている。そして、瞳孔の形が左右で五芒星と六芒星をなしているのだ。その目は安心感と畏怖の念を同時に抱くものだった。

 

 「わざわざ来てもらって申し訳ない。本当はそのまま指導してもらってよかったのだが、すこし話がしたい……あなた方、何か隠している?」


 いきなりそんなことを訊かれ、固まる。それは卑しいことを隠しているからではなく、無い罪を疑われ固まったのだ。それはほとんどの人がそうなるだろう。


 「いえ、ありません。そちらに関わることは全て報告等しています。」


 イロアスさんの目は特に戈星さんに向いている。迫力があり、疑われる行為だが目は合わせようとは思えない。


 「そうか……うむ。疑ってすまない。では、指導を頼む。」


 一気に緊張が解け、始めの空気感に戻る。


 「では行きましょう。」

 

 いつの間にか一人になっていた案内人に連れられ、部屋をあとにする。


 「戈星さん、イロアスさんってなんかこう、凄そうな人でしたけど」

 

 「あの人は凄そうというより、本当に凄い人らしいですよ。この前までの戦争でほとんど血が流れなかったのはあの人の影響らしいです。噂ではこの世界で最も強いらしいですよ。」


 (なるほど。これは期待していいのかな?フラグ関係ではないことを祈ろう。)


 その後、いつも通り指導まがいのことをして1日を終えた。今回の人達は飲み込みが早く、ザ·精鋭部隊という感じだった。この人達なら何とかできるのではないかと期待が生まれる。

 安心感によりすぐに眠りについたのだった。


 

 

 



 


 

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