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第6話 種火

 突然の爆発に全身が硬直した。緑色の炎の柱が直線的に青空へ昇り、建物は揺れて窓もガタガタと音を鳴らす。心拍数は上がり、呼吸が浅くなる。

 外では語でコミュニケーションをとっている声が聞こえる。恐らく消火活動の事についてだろう。


 「あの、戈星さん。これ消火に行ったほうがいいですよね?」


 少し息を切らしながら、すでに落ち着いていた戈星さんにそう尋ねる。

 

 「いえ。私達は行かないほうがいいでしょう。この世界の緑色の炎は小さければ水等で消火出来ますが、あそこまでの大きさは逆に水を燃料とします。消防隊の消火薬に頼るしかないですね。とりあえず、避難と他の人達と合流しましょう。」


 戈星さんの案内のもと素早く外に出て他の人達と合流した。


 「『槭山』さん、先程の爆発は何ですか?」


 『槭山 辰也《セキヤマ タツヤ》』さん。先日の案だし会議にいた人で、先程まで下の階で作業していたようだが、爆発音を聞いてすぐ外に出て状況を確認していたようだ。


 「どうやら、第5貯蔵庫が大爆発を起こしたようだ。被害の全貌は分からないが、とりあえず近くの建物に被害等がないか調べよう。」


 第5貯蔵庫とは、この世界の化学物質は危険度が7段階で示されており、その中で5番目に危険な物質たちの貯蔵庫。基本的にこの5番目が産業等で使える最高レベルで6番以降は研究でしか使われない。

 槭山さんの指示に従い、周囲の被害状況を調べた。幸い第5貯蔵庫は元々離れた場所にあったので、ほとんど被害は無かった。


 「にしても、どうして爆発したんですかね?作業中の事故とかですかね?」


 消火薬によって小さくなっていく緑色の火柱を見ながら問いかける。


 「うーん、聴いたところによると今日は作業が無いはずらしい。基本的には4番以降の物質を扱う時には許可証がいるから、もし作業での事故なら違反だし安全管理の見直しがいる。」


 火はどんどん消えてゆき、爆発した現場が現れた。そこに残っていたのは、周囲を覆っていたはずの石造りの壁が数段と、真新しい白い手紙のようなものである。

 石造りの壁は一瞬の業火によって蒸発したようで、全く瓦礫や破片が飛んでいない。そのようなところで燃えていないあの紙は一体何なのだろうか?


 「かなり独特なニオイがしますね。」


 許可が出たので現場に踏み入らせてもらった。


 「このニオイは独特だけど、危険性はないよ。」


 槭山さんはどんどん中央にある手紙のようなものに近づき、それを手に取った。


 「なんだろうか?ぱっと見普通の手紙だが、この現場から見つかるのは普通じゃない。」


 そう言って、刻印の入ってない封蝋を剥がすと、少し黄ばんだ紙が出てきた。


 「何も書かれてないですね。何を伝えたかったんだろう?」


 その問いの答えを聴くために、顔を覗くと槭山さんの顔色が少しずつ悪くなってゆく。


 「戈星さん…まさかこれ!」


 慌てて手紙を戈星さんに見せに行く。見せられた戈星さんは眉間に皺を寄せ、いかにもマズいということを表している。


 「何か書いてあるんですか?それとも、この何も書いてないというのが何かを表しているんですか?」


 「ええ。何も書いてないということは…ここ一帯を更地にしてやるといった意味になります。」


 「早く皆に知らせましょう。戈星さん、頼めますか?」


 「わかりました。渡したら戻ります。」


 戈星さんはすぐに渡しに行ったので、爆発現場の調べを続けることにした。時間も経って人も少し増えたようだ。


 「せ、宣戦布告みたいなのってやってましたよね?な、なぜ今?」


 突然の脅しのような手紙に動揺が隠せない。


 「分からない。もしかしたらバティール国ではないかもしれない。」

 

 仲間割れを疑うも、まだ同盟関係を結んでいないので何をするか分からない。普通に考えればバティール国対その他になると思うが、もしかすると…


 「とりあえず調べを続けよう。かなり消失してしまっているから、原因を見つけれるかは運だけれど。」


 調べを続けていると、貯蔵していたであろう場所の近くに一般的に想像する猛禽類のひと回り大きい『跡』が地面に残っていた。


 「これって鳥の形ですよね…こんな場所に入ったりするもんですかね?」


 「いや、入らないだろうね。商業的に使えるとはいえ、危険であることに変わりはない。扉も厳重にしてあるし、わざわざ入れたりしないと…」


 「わざわざ入れたんですかね…?この世界に遠隔で爆発させる技術はありますか?」


 「無線はまだ開発されてないけど、有線ならあるよ。でも爆発は大きかったけど火柱状に細長かったから、有線なら鳥みたいに跡が少しでも残ると思う…後考えるなら、炸薬量がある爆弾を外で爆発させるか…」


 「外で起爆させたら、ここと別に爆発跡ができそうですよね。鳥も入らなさそうですし…鳥が爆発でも起こしたんでしょうか?」


 「もし鳥がやった場合、多分鳥が飛べる量の火薬でできそうだけれど、遠隔操作の爆発だと有線だから浮いている状態になるし、誰か気づきそうだよね。」

 

 「そうですね…例えば爆薬を点火してから時差をつけて起爆させたのではないでしょうか?導火線みたいな?」


 「ふむ。飼われていた鳥なら出来そうかもしれない。けど突拍子もない事だと思われそうだね…」


 「ですよね…」


 想像を膨らませながら話していると、戈星さんが戻ってきたようだ。何か額に皺が寄っている気がする。


 「皆さん、至急オルトシアにて会議が行われます。一度戻りましょう。」


 戈星さんの呼びかけにより、すぐに集会場所に着くともうほとんどの人が揃っているようだった。なるべく急いで席に着く。


 「戈星さん。結局誰が送ってきたか分かったんですか?」


 「ええ、地域によってかなり紙の材質にばらつきがあるのと、封蝋に使われた蝋の種類も特定の要因になりました。この世界の人々はかなり自分達の地域のものとかに誇りを持っているので、他の国のものとかはあまり使わないんですよね。で、送ってきた国は…


 そこまで言いかけたとき、会議の始まりが合図された。


 「皆知っての通り、第5貯蔵庫が爆発した。そして、現場に手紙が発見された。中身は白、これは大量破壊を意味する。そして先程、送ってきたであろう国が分かった。その国はタリス共和国。」


 タリス共和国は、バティール国に宣戦布告された3カ国の内のひとつ。

 それはつまり、戦の複雑化を招くことだということを直感的に理解した。

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