第5話 変化
戸籍を得て1週間たち、戈星さんの手を借りてやっと生活に慣れて、この国の言語で挨拶が出来そうかとなっていたとき、突然旱箕さんに呼ばれた。
「何があったんですか?」
歩きで移動中、久しぶりに会った旱箕さんに問いかけた。
「バティール国の説明は聞いたことありますかね?」
「はい。軽く説明は受けました。」
柾木さんの説明に出てきたあと、戈星さんにも気になって聴いてみた。
聴いたところによると、バティール国の魔王は自称でどこの国ともあまり関わらず、貿易もせず、戦争を仕掛けたりもしない。孤島なので他の国はあまり気にしていない。ただ、ときどき各国に使者を出し、興味深いことが書いてある文書を各国の君主や政治の重鎮たちに送るらしい。噂によると、今起こっている戦争はその文書が原因だと言われている。
「それが今日、我々の国含めた3カ国にバティール国から宣戦布告がなされました。開戦は2ヶ月後です。」
「え??」
正直、この言葉しかでなかった。元々この大陸の3カ国で戦争していたが、事実上休戦状態でほとんど戦闘は起こらず、そろそろ終戦という雰囲気が出ていた矢先にこんなことになるとは…
(まじかよ!転生系だと戦闘は定番だけど、魔法とか使えないし、痛いのは嫌だし…やりたくねぇ!!)
「とりあえずの会議を『オルトシア』で行います。」
『オルトシア』は転生者が所属する団体。基本的にハリル国に属してはいるが中立の立場を貫いており戦争には関与しなかった。役割の一つとして対バティール国の国際機関『ツヴァイフェル』を統括も行っている。『ツヴァイフェル』は動向が分からないバティール国を疑う者たちの団体。国際機関と格好いい風に言ってはいるが、基本的にバティール国は疑われる事は少ないので構成員は少数で影も薄い。
「さ、参戦する可能性があるということですよね?」
「はい。この状況だと、ツヴァイフェルを動員せざるをえないと思います。」
(あぁ…クソバティールが!!)
そしてオルトシアの集会場所に着くと、名前も知らない方々が議論を交わしていた。正面に何か貼るようの板があり、それを円状に囲むように座っている。
「全員揃いました。」
旱箕さんが板の横にいる、何か作業している人に声をかけると、その人は軽く頷き
「今から会議を開始する!」
そう言うと、板に先程まで書き込んでいただろう大きめの紙を貼り付けた。
「皆知っての通り、バティール国が宣戦布告を行った。期限は2週間で、それまでに我々の方針を決める。では、何か意見がある者はいるか?」
そう問いかけるも、皆は固まったままだ。
(新参者だけど、皆戦に参加するのは嫌だろうし、かといってこの国からの信頼がどうなるかってところだと思う。)
このまま閉会まで流れるのかな、と考えていたとき
「ひとまず、兵器みたいなものをこちらで造って、それを提供するのはどうでしょうか?」
「確かにいい案だ。だが、造れる者や設計できる者はどのくらいいる?」
「そうですね…とりあえず工学を学んだことがあったり、関わりがある人を集めて案を出しましょう。出なかったら別の案に。」
「よし。ではひとまずその案でいこう。だが、もし案がなかった場合を考え、期間は3日から4日にしておきたい。この会議が終わった後、工学に少しでも関わりがある者や、案がある者はこの場所に残ってくれ。」
実質この会議の終わりを告げられ、会場が少々騒がしくなった後、だんだん多くの人がここから去って行った。
「星鴉さんはどうしますか?」
残るかどうか考えていると、戈星さんにそう訊かれた。
「悩みますけど、残ろうかと思ってます。戈星さんは?」
「少しですけど、お手伝いしますよ。」
そして、閑散としだしたこの場所の中心へと向かった。
「とりあえずここに集まったのは12人か。そこの人は新しく来た人かな?」
「は、はい。そうです。星鴉といいます。」
「申し訳ない。本当は自己紹介でもすればいいんだが、今かなり切羽詰まってるから後にしよう。では、案をできるだけ多く出そう。皆案が有るからここにいると思うので、私の右から順番に出してくれ。」
「はい。まず僕の案は…
∶
∶
∶
あの会議から4日目たった。案自体は多くの数が出たが、国に提出したところ「実用性が分からないため、実際に作ってほしい。人は派遣する」とのことで、今は総力を挙げて短期間で数個の案の設計を作っているところだ。国から多くの人が派遣されたため、ハイスピードで仕事が進んでいる。
そして星鴉はというと、好きだが得意とは言えない数理と、ハリル語が喋れないため何の戦力にもならず、戈星さんの手助けを受けて少しデザインを描いたりしただけだ。
(そういえば、この世界の物理ってどうなっているんだ?考えてみると、転生したてのときの身体でも呼吸に違和感は無かった。重力は強いけど空気の密度は変わってない?うーん、考えたらきりが無い。)
弱い頭を使っても無駄なので考えるのは一旦置いておいて、何かできないかなと考えていると
(グライダーとか造れないかな?幅も広がりそうだし。)
さっそくデザインを考えてみた。飛ぶかは分からないが、頭の中では飛び回っている。
「何もできないしなぁ…ちょっとした模型でも作って飛ばしてみたいなぁ…」
ちょうどそこに戈星さんが通りかかったため、訊いてみることにした。
「すみません。あの、軽くて成形しやすい材料とかってありますかね?」
「私はピンとはきませんが…何をしようとしてるんですか?」
「えぇと、グライダーでも飛ばせないかな、と思ったんです。時間あるので。で…まずは模型を作ってみようかなと。」
「そうですね、そういう系は…
戈星さんが何か言いかけたとき、突然爆発音がこの街に響き渡った。