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第12話 移住の小さな始め

 あまり大きくない馬車に乗せられ、ポラリスを背に走り出す。無骨で簡単な造りの馬車は風避けには十分だが、振動が体に響きお尻の耐久値はゴリゴリと削られている。しかも窓は開閉式なのに、動きが硬すぎて開かない。

 同乗者は遺体3名。いや、仮遺体が3名が乗っている。色んな植物をクッションにして棺に納められている。蓋のおかげか、この世界では遺体から臭いはしないのか、遺体と一緒に乗っているという事実以外特に気になる事は無い。


 「乗り心地はどうです?まぁ、文句があってもどうもできないですけど。」


 馬車の前方扉が開いたかと思うと、軽い身のこなしで入ってきた。


 「──正直、良いとは言えないですね。……結構遠い感じなんですか?その、幻想の崖って。」


 「そこまで遠くはないですよ?多分…数日で着きますよ。うん。」


 顎に手を当て頷いている。声色的に本当に近いと思っていそうだ。数日間この座り心地と付き合わなければならない事に絶望しかない。腰は確実に砕け散り、お尻はモース硬度を手に入れることだろう。


 「もしお尻が痛くなったら、そこの人達に座ったら良いですよ!」


 ……座り心地が悪いと耳まで悪くなるのだろうか?いや耳が悪くなったのだろう。それか酷い冗談に違いない。


 「いや〜!流石にやらないですよ!」


 「流石に……?まぁ、座りたくなったらまた言ってください。あ!それか外に出るのとかもいいんじゃないですか?」


 先程入ってきた扉に手をかけて少し開き、新鮮な空気が入ってくる。「どうします?」と言わんばかりの顔でこちらの様子を伺っている。


 「じゃ、じゃあ。出てみます!」


 少し屈みながら移動する。扉の前まで行くのも楽では無い。


 「落ちないように気をつけてくださいね!」


 そう言うと直ぐに扉を空けて外に出た。真正面から受ける風はかなり強く感じる。

 顔を外に出してみると、もう馬車の上側にもう移動していた。


 「ここが良いですよ!ここ!」


 自身がいる当たりを指さしている。多少の恐怖はあれど、意を決して全身を外に出す。手すりを使いながら上側に移動する。縮んでいた体を伸ばし、風を全身で受ける。

 上側に着くと空いている場所に促され、そこに座る。座っている板が何故かカタカタ動いているが、それでいい感じに衝撃が小さくなっている。

 顔を上げると輝きを放つ草原が目に入る。比喩ではなく、本当に輝いているのだ。色彩ざかな花が咲き、一輪一輪に気をとめる暇もなく走り続けている。集団は適当な間隔を維持しながら走り続けている。舞った土埃はすぐに散り、刹那の輝きだけを残して通り過ぎてゆく──


 ∶


 陽が沈もうとしている時間となり、集団は少しずつ速度を落としていく。停止すると下車を促され、ここまでノンストップで走り続けた馬は疲れた様子も見せず他の馬が集まっているところに歩き出した。

 馬車に付けられていたテントを建てて火を灯す。灯すといっても他の人が灯した火を移しただけだ。その火は白っぽく揺らめいている。食料もその時に貰うことが出来た。


 「この食料って料理しないといけないですよね?その、お願いしても良いですか?」


 「──フッフッフ。」


 口角を上げ自信げに告げる。


 「出来ないです!!」


 (うん……でしょうね。)


 少し溜めて言う言い方は出来ないと相場は決まっている。


 「ですけど!こういうのは焼いておけば良いんです!」


 食料が入っている箱を勢いよく開けると、食べ物としてよろしくない臭いがする。


 「え……これ、腐ってません?焼いても食べれませんって!」


 「うへぇ…臭いですけど、別に完全に腐ってるわけではないですよ。半分腐らせることで完全に腐らないようにして長距離の移動に耐えられるようにしているんです。──にしてもこんなに臭いとは知りませんでした。」


 「本当に焼くだけで食べれるんです?」


 「まぁ、焼いてみれば分かりますよ!」

 

 そう言うと用途不明の草に食料を包み、炎に放り入れた。白っぽかった炎は草の塊を包むと、触れている所から青い炎がチリっと小さな音をたてながら草の塊を徐々に包んでゆく。


 「そういえば、あなたの名前を教えてもらっても良いですか?」

 

 「星鴉 浹です。あなたは?」


 「『モネーレ』です。」


 すこし間をおいて話し出す。

 

 「──その〜言いづらいんですけど……私一度もしたことが無いんですよね……」


 「ん?料理がですか?」


 首を振りながら答える。


 「それもなんですけど……こういう長距離移動のことです……本当は私、この役割になるはずじゃなかったんですよね……」


 「本当はってことは、元々別の人が担当だったんですか?」


 「う〜ん。そういうのでもないんですけど…元々…いや!やっぱり言わないでおきます!」


 「そこまで言っておいて?!」

 

 いつの間にか草の塊がまとっていた青い炎は消え去り、草の表面がだんだんと黒くなり始めていた。そこにモネーレは勢いよく木の棒で突っつき、草の塊を火の当たらないことに出した。


 「じぁ!食べましょ!」

 

 先程までの落ち着きはどこへやら、素早く草の包みをほどき料理を皿に移し始めている。

 素早く移し終わると料理を渡してくれた。


 「さっきのは無しで!その……何か別の話をしましょ!」


 過度にアワアワしながら話している。そこまで知られたくない事だろうか?


 「そうですね…好きなことってありますか?趣味とか。」


 気づけば満天の星空の下で、料理の温度を確かめながら会話へと乗り出す。

 


 


 


 


 


 

 


 

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