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第11話 少しの落ち着きと進み

 いつもより早く起きた。いつもは日が昇り、地面の冷たさが和らいだ時間に起きていた。が、今日は地平線が紫だっていて地面はまだ少し冷えている。


 (野宿……なかなか悪くなかったな……)


 イロアスさんに渡された屋外寝具は石畳の道の硬さを和らげ、寒さを十分に防いでくれた。

 ただでさえ低い建物が多いのに所々建物が消され、昇りきってない日の光を全身に受ける。周りを見ると数人が作業している姿が見受けられた。大凡誰なのか予想はつく。


 (──トイレに行こう…)


 だんだんと尿意が近づいている事に気づいたが、この場所から近いトイレを知らない。


 (訊くしかない…かぁ──あ、ハリル語でどう訊くか分からないや)


 イロアスさんや昨日の人に会えることを期待して起き上がり、作業している人に近づく。どうやら、荷物の確認をしている様子だ。その作業をしている人は知っている人ではなかったが、訊いてみるしかない。


 「すみません、トイレの場所を知りませんか?」


 作業している手を止めると、こちらに顔を向けてきた。すこしこちらを凝視してから


 「あーっとね〜。トイレはあの建物の隣りにあるよ。」


 「ありがとうございます。」


 一瞬見えた瞳は赤紫色に彩られていた。髪の毛は朝日にあてられて、橙色に輝いていた。髪の毛の淵が若干青く見えるのは異世界要素である。

 異常に発達したトイレを終えて戻ると、昨日死んだ内の数人が起き始めていた。


 (まじか、本当に生き返るのか。魔法無いのに。)


 若干驚愕しながらも見つめ続けるのは気味が悪い奴だと思われかねないので、スッと適当な所を歩き始めた。

 テキトーな所を歩いて、ふと気にしなくなっていた建物の跡に目がとまった。

 

 (本当に全部なくなってるのか…あ、元の服も消えたんかな?せっかくとっておいたのに)


 少し悲しみを覚えつつも、鼻歌を歌いながら跡を観察してみた。目を凝らすと一つの硝子の容器を見つけた。中には半分ほど赤色の液体が入っていて、臭いはかなりの刺激臭。長方形で少し湾曲した形の容器には何かの紋様が彫られている。


 (この世界だと紋様は大事だった気がする。確か一昔前まで地域ごとに言語があったけど、ハリル語が出来て言葉としては使われなくなったんだよね。確か。う〜ん…彫られてる跡的に硝子じゃないのかな?──これ家の人の持ち物だったらヤバいよね。ていうか十中八九そうじゃん!?)


 いろいろな考えを巡らせていると、急に肩を軽く叩かれた。非常に軽かったが、今の星鴉には非常に重く感じられた。


 「何をしてるんですか?」


 さっき聴いたばかりの声だった。先程トイレの場所を教えてくれた人だ。


 (どうし──そうだ。ちょっと理由付けして誤魔化そう…うん、紋様についても訊けるし)


 大きな罪悪感と後悔を押し潰して訊いてみる。


 「ちょっとこの家の近くでコレが落ちてたんですよね。拾ってみたら紋様があったので、気になって見てました。」


 かなり簡単な言い訳を並べて容器を見せる。


 「……ふ~ん、見たことない紋様。」


 慣れた手つきで手帳を取り出す。数枚ページをめくり、再び容器に目を移す。


 「──あ、そうだ。移住についての話は聞いてますか?」


 目が容器の紋様と手帳を右往左往させながら話してきた。


 「─確か…話としては聞いた気がするんですけど、詳しくは分からないです。」


 「なるほど…では改めて話した方が良いですね。」


 紋様を手帳に写し取ったようで、手帳を懐にしまった。そして


 「まず私達はこの街の人々を移住させる為にやってきました。この街は殆どの重要機能を失い、多くの死傷者を出しました。もはやこの街では手に負える状況ではありません。よって、「幻想の崖」に移住していただきます。」


 「重要機能を失った…?その、あまりその様には見えないのですが…」


 「そうですね。一見まばらに建物が壊れているように見えますが、確実にこの街の工業製品や工場施設は破壊されています。工場の中は空っぽになっていますよ。」


 ──本当に自分に降りかかっている事実なのか、星鴉は一層思考した。異世界転生をしてから1週間程で起きた出来事とは思えないほど転々としている。そこまでこの街に愛着があるとは言えないが、元の世界では叶えられそうになかった生活を望む事が出来ていた。そこの未練に少しの悲しみがある。


 「ちなみに午後から移動しますので、そのつもりで。」


 「──え?」


 ∶

 ∶

 

 「〜〜〜!〜〜。─ではこれから移動します!!何かあれば報告をお願いします!」


 後ろまで緩やかに、だが確実に通る綺麗な声が聞こえてくる。


 元の世界換算時間おおよそ13時。1週間程滞在した街を惜しみながら、生者と遺体を運ぶ馬車で構成された大団体は幻想の崖へと進みだした。

 


 

 


 

 

 

 

 


 

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