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第1話 転生

 「はじめまして、『魔王』さん。」


 美しい剣を持った男が、目の前で座っている男にそう挨拶する。


 「ええ、はじめましてですね、この世界の『勇者』さん。ここまで来るのに苦労しました…」


 男が立ちながらそう返すと、開いていた分厚い本をそっと閉じた。


 「そろそろ終わりにしましょうか。」

 

 ∶

 ∶

 ∶


 「うぅぅ、便秘ってほんとにきついぃぃ!」


 トイレの中でそんなことを言いながら、頑張って踏ん張ること約30分ほど。まだ出る気配のないモノを出すためにいま一度覚悟を決めて

 

     「ふぅぅぅぬぅうう!!!!!!!」


 と本気で踏ん張ったところ


       「うぅ??」

 

目の前がグラグラ揺れて、その場に倒れてしまい、程なくして気絶した。気絶する瞬間、うっすら紫色の光に包まれた気がした。


 ∶


 「ぅうん、、、?あれ?え、え、な、え?」


 気がつけばなんと、野原の中に倒れていた。見覚えのない景色により、この男『星鴉 浹《ホシガラ メグル》』はとても混乱している。

 本人からしてみれば、トイレから野原に転送された感覚であり、困惑は当たり前である。


 (これってまさか、、、異世界転生!?!?え、なんで?なんでここなの?もっと他のところないの?)


 彼は、異世界転生の本にここ最近ハマっていたので、短時間でその結論にいたった。


 (とにかく人だ、人を探そう。)


 そう考え周辺を見回そうと、体を起こそうとしても何故か体が動かない。体の重さが倍以上になった感覚だ。

 だが、人を見つけるのは死活問題なので頑張って体の向きを回転させた。すると、そう遠くないところに建造物が見えた。早速そこに這って行く。


 「ふぅ、ふぅ、、、とりあえず着いたぁ。けど、建物の年季すごい経ってそうだし、人もいなさそう。なんの建物か分からないけど、ここはハズレかな。」


 そう独り言を呟き、仰向けになって休憩しようとしたとき、目を見張った。少し視界に入った程度だが、太陽らしき恒星が緑色に光っていたのだ。


 (異世界転生ってここまで環境変わるっけ?)


 現在確認している違いは、体の重さ(恐らく重力)と太陽らしき恒星の色である。転生に関してかなり冷静に受け入れた彼もさすがに動揺した。

 草の色はよく知っている緑だが、ここまで環境が違うと『人』に会えないのではないか?そう考えていたとき


  「~~~~~~~~~~~」「~~~~~」


 よく聞き取れなかったが、近くで会話が聞こえたので、助けを求めた。すると、こちらに気づいたようで、ゆっくり近づいてくる音がする。


 「~~~~~~~~、お?」  「『転生者』だ!」


 草むらから出てきた姿と出てきた言葉にまたもや目と耳を疑った。顔は日本人風で、身長は子供ぐらい、大人をそのまま小さくしたという感じだ。不思議な感じと、言葉にできないよく分からない恐怖が体のからこみ上げてくる。


 「あんた、いつ何処からココに来た?」


 「ちょ、ちょっと前に来た。何処からっていうのは、えっと、どう答えたらいいか…」


 「あぁ、都道府県で答えてくれ。」


 言葉が伝わり、異世界に来ても人と会話できるのは安心感があるが、まだその人の格好をジロジロ見てしまう。恐らく不愉快と感じているだろう。


     「山口県です。」


 「なるほど、『この世界』に来るときに何か光が見えたか?」


 「えっと、た、確か紫色の光が見えた気がします。」


 質問の回答を紙らしきものに書き込んだ。


 「私の自己紹介がまだだったな。私の名前は『柾木 彰《マサキギ アキラ》』だ。恐らく、これから長い付き合いになると思うから、よろしく頼む。あと、後ろの奴は、『旱箕 武尊《ヒデリミ ホタカ》』っていう名前だ。」


 そう紹介されると、彼は静かに会釈した。


 「あ、はい。私の名前は星鴉 浹です。よろしくお願いします。」


 自分も会釈しようとしたのだが、まだ地面を抱えているのでできなかった。


 「ずっと地面を這うのはキツイだろうから、俺たちの集落に連れて行ってやる。それでいいか?」


 「はい、お願いします。あと、先ほどの質問ってどういう?」


 「あぁこれは、道すがら話そうと思ってたんだが、実は『転生者』が結構な人数いてな。簡単な統計を取ってみようってことで、全員に聴いてる。」


 「なるほど、では何故あの2つの質問なんですか?」


 「その質問に答える前に、この橇に乗ってくれ」


 そう言って出てきたのは、少し傾斜と取っ手がついた一般的な橇だった。恐らく、『転生者』を運ぶために作ったのだろう。簡易的ながら最適化していて、乗りやすく、乗り心地もなかなか悪くない。

 柾木さんの口笛で、木陰で見えなかったところから馬のような動物がでてきて、その動物の後ろの器具に接続された。


 「よし、じゃあ集落に向かうぞ。」


 「はい。お願いします。」


 集落に向かう時間という名の質問タイムが始まった。


 「そろそろ答えようか、何故あの2つの質問なのかというと、まず1つ目の都道府県を聴いたことだが、どうやら君を含めた『転生者』達は山口県にいた時にココに来たようだ。」


 「いた時ってことは、出身地が県外の人も居るということですか?」


 「そうだ、出身地が県外の奴も居る。でも何故山口県なのか、原因は何なのか、とかは分かってない。

 で、2つ目の質問は、全員が違う光を見てこの世界に来たようだ。何故この2つの質問かというと、この間興味深い石碑が見つかってな、それに則っている。ま、詳しいことは分からないからそこは訊かないでくれ。」


 「なるほど、そういえば現地人とか居るんですか?」


 「ああ、もちろんいるし独自の言語も持ってる。ちなみに異世界転生定番のその世界の言語がわかるようになってるとか無いから頑張って勉強してくれ。」


 「え、どうやってわかるようになったんですか?」


 「どうやら、最初にココに来た奴が言語系に強かったらしい。で2人目も言語系で3人目が文化研究をしていた人っていう順だったそうだ。」


 「すごいですね…」


 そう相槌をうちながら次の質問を考えるが、1つしか思いつかない。しかも、結構聴きづらい質問なので長考する。


 「あと、あんたが気になってる俺達の体だが、感じている通り体が重いだろう?ま、そういう事だ。」


 やっぱりジロジロ見過ぎてしまった…と後悔しながら、未来の自分の身体を想像して恐怖する。


 「まぁ、そのうち慣れるさ。周りには同じょうな身長の人しか居ないからな。さぁ着いたぞ!」


 その声を聞いて顔を上げてみると、想像もしていなかった美しい街並みが広がっていた。


 「すごいキレイですね…」


 「ようこそ、『ポラリス』へ。」


 この街で暮らせるのかぁ、というワクワク感とともに異世界生活がスタートした。

 


 


 

 



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