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第11話 幼馴染とは明かせない空気感

「幸田くん、一緒にお昼どうかな?」


 次の日。昼休みになった直後のことだった。

 椎川が俺へ声をかけてきた。

 

 思わぬ展開に動揺する。

 しかし、いつもは剣村と食べているので、相談しないことには承諾できない。

 剣村へ視線をやると、


「それオレも混ざっていいやつ?」


 彼は意気揚々と会話に入ってきた。

 二次元に恋している男だが、現実でも美少女と接したいのだろうか。


「うん。剣村くんも一緒に食べよっ!」


「うっしゃあ!」


 と喜んだかと思えば、俺の傍へやってきて耳打ちする。


「このままだとお前、女子に囲まれる羽目になるところだったぞ。そんなことになったら大変だろ」


 俺はクラスでは比較的目立たないポジションだ。

 そんな自分が、女子……しかも二大美女に囲まれるのは周りの男子が黙っていないだろう。


「確かに、ちょっとやばかったかもな。助かった」


 剣村のアシストに救われた。

 何も言わずとも察してくれる。

 いい友を持てて嬉しい限りだ。


「いや〜、美少女は二次元でも三次元でも眼福だよなぁ〜」


 前言撤回。そっちが本音か。


 * * *


 というわけで、みんなで一緒にお昼を食べることになった、のはいいものの……。

 

 当たり前だが、理代もいるのか。

 幼馴染という関係性を明かしていないため、少し気まずさを覚える。

  

「お、橘さんもいるんだ! よろしくぅ!」

 

「え、あ、よ……よろしく、です」


 完全に萎縮している理代。

 それもそのはず、異性で陽キャという真逆の位置にいる剣村と理代が、スムーズに会話する光景は想像すらできない。


「橘さんって部活何やってるの? オレ、テニス部なんだ」

 

「あ、帰宅……じゃなくて……入ってない、です」

 

「そうなんだ。よかったらテニス部入ってみない? 結構自由で楽しいよ」

 

「え、えーと……か、考えておきます」


 絶対入らないやつだ。

 

 まあ理代がテニス部に入るのはあまり現実味がない。運動が大の不得意だからだ。インドア派だしな……。


「テニス部の空気感はちょっと理代チャンにはキツイでしょ。書道部こなーい?」


 ここで口を挟んできたのが久須美だ。


「久須美さん、書道部なのか?」


 俺は予想外の発言に思わず訊き返す。

 

「知らなかった? ぶっちゃけ意外っしょ?」

 

「ああ、ちょっと驚いた」

 

「桃乃は昔から書道をやってて、すごく上手なんだよ! 県の展覧会にもいったことがあってね……」

 

「ちょっ、茜!? 恥ずかしいからベタ褒めやめてよ〜」


 久須美が恥ずかしさを誤魔化すようにワタワタと手を振る。

 

「県展か! すごいな!」

 

「剣村クンまで乗っからないでよ〜」


 賑やかな昼食風景。

 

 だが、理代は目を回しかけていた。

 陽キャの会話はテンポが早い。

 目まぐるしく進んでいく話に理代が置いていかれている。

 

 そのことに気づいたのか、椎川が理代へパスを投げる。


「理代ちゃんは、何が好き?」

 

「へ……? あ、卵焼きが、好きです」


 部活の話の流れから、何をするのが好きか……みたいな感じに思えたが、理代が答えたのは好物だった。


「卵焼きかぁ! 甘い派? しょっぱい派?」

 

「あ、甘い派、です」


 話術はお手の物なのか、椎川は難なく会話を続けていく。


「お弁当に入ってる卵焼きもさ、すっごく綺麗に巻かれてるよね。美味しそー! アタシ食べたくなっちゃう……!」

 

「あ、た、卵焼き、作るのは……と、得意なの、で」

 

「幸田の弁当の卵焼きも綺麗だな」


「そ、そうか……?」


 剣村が変なところに目をつけてきた。

 

「ん……? なんか二人のお弁当って似てない?」

 

「「ごふっ!?」」


 久須美の鋭い指摘に、俺と理代は同時に咳込む。

 

 作ってる人が同じだから、似るに決まってる。

 

 が、ここで理代に作ってもらってることや、幼馴染だということを明かせば、一体どういうことなんだとツッコミが止まらなくなる。

 とてもじゃないが、明かせる空気感ではなかった。

 

 それに明かす前には理代に確認を取りたい。

 勝手に明かして反感を買うのは、できるだけ避けたい。

 

「入ってる具材までほとんど一緒だね」

 

「すごい偶然だな。もはや奇跡と言ってもいいんじゃないか?」

 

「ミラクルじゃん!」

 

「ははは……たまたまじゃないか。なあ……橘、さん」


 理代はブンブン頭を振っていた。

 逆に怪しまれるからもっと大人しく振って欲しかった。

  

 みんなの前で理代といきなり名前呼びするわけにもいかず、苗字にさん付けをしたが、なんだか変な感じだ。非常にむず痒い。

 

「でも、お弁当の具材ってイメージしたときに卵焼きとかからあげとかプチトマトとかみんな入ってるよね。そんなに驚くことじゃないのかも……?」

 

「確かに。そうかもな」


 とりあえず事なきを得た……のか?


「あれ、ご飯のデザインまでそっくりじゃん」

 

「「ごほっ!?」」


 つかの間の安寧を経て、再び久須美の攻撃をくらい、俺たちは同時にむせる。

 

 俺の弁当のご飯部分には海苔でくまのデザインがされている。

 一方理代のご飯部分には、にっこり微笑んだバージョンのくまが海苔で再現されていた。

 言い訳のしようがないくらい似ていた。

 

「なんか最近流行ってるらしいんだ。このくましお……? とか言うくまが……」

 

「くましおって大人気なんだね!」

 

「まあ確かに、可愛いもんね〜」


 乗り切ったか……?


 そんなこんなで度重なるピンチに見舞われながらも、なんとか昼食を終えることができたのだった。


 * * *


 弁当を食べ終え、昼休みも残り僅かとなった頃。

 席で次の授業の準備をしていると、LILIが飛んできた。

 相手は当然のごとく理代。


理代『お弁当焦ったねー』

  『そんなことより』

  『橘さんってwwwww』


 さっきの黒歴史を掘り返すな。

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