表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病者は首を吊る  作者: ジェロニモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/13

だから彼女はホラー作家を目指す

 通話で指示されながら、琴原さん宅へと到着する。着いたことを伝えると、玄関から生まれたての子鹿みたいな歩き方で学校指定のジャージを着た琴原さんが出てきた。

スマホへと目を落とし、どうにか正気を保っているようだった。「あ、翔子さん、既読つきました」と言ったきり、沈黙が場を支配する。


「なんでも良いので気を紛らわしてください」


 理不尽な無茶振りが沈黙を切り裂く。


「じゃあ、しりとりでもする?」

「ふざけてるんですか?」


 圧倒的理不尽である。


「琴原さんはそんな怖がりなのに、なんで急にホラー作家になろうと思ったの?」


 しりとりを拒絶されたぼくに残された手札はほとんどない。無難な質問でお茶を濁すことにした。


「暴露法って知ってます?」

「ああ、まあなんとなくは」


 暴露法。確かトラウマや恐怖の対象を避けるのではなく、むしろ積極的に関わって慣れていこう! みたいな荒療治的アプローチだったはずだ。


「彼方先輩が私の怖がりにそういう克服方法があると教えてくれて、まずはホラー小説を読むところから始めたらどうかって勧められたのが、藤原秋水の君の死体にキスをすることだったんです。そのあとがきに書いてあったんですよ。私は小さい頃から怖がりで、すぐに悪い妄想ばかりしてしまう人間だった。それをどうにか武器にできないかと小説家を目指した、と。私は衝撃を受けました。怖がりなことが武器になるとは思いもしなかったので。これしかないと思い立った私はすぐさま陸上部をやめ、文芸部に入ったんです」


 「名前も栞でしたしね」と付け加える琴原さん。


「その暴露法の甲斐もあって、こうして自分を追い込みさえすれば肝試しに自発的にいける程度には改善したわけですよ」


 琴原さんはどことなく誇らしげに頷いた。へっぴり腰だけど。


 ホラー小説を勧めた彼方さんも、よもや彼女が陸上部をやめてホラー小説家を目指すとは夢にも思わなかったに違いない。せめてもの救いは彼女がスポーツ推薦じゃなかったことか。しかしだ。そうなると彼女が小説を書き始めたのは、つい最近ということになるわけだ。

「書いて一年も経ってないのに、本当にすごいな」

「そんな、彼方さんに比べれば全然ですよ」


 両手を振って謙遜する琴原さん。……個人的な好みの話を抜きにすれば、ぼくというアリンコから見れば彼方さんも琴原さんも、どちらも等しくゾウには代わりないのだが。


「まあぼくも、彼方さんの書く話は好きだよ。彼方さんの書くミステリーって、すごく優しくて、ハッピーエンドだから。今回のはちょっと違ったけどさ」

「そうです。彼方さんはすごいんです」

 

 そうこくこくと頷く琴原さんは、やっぱり誇らしげだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ