雪山のてっぺんに温泉があると聞いてやって来たのに、パスワードが必要なんて聞いてないんですが!?
「第5回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」用の作品です。
とある雪山の頂上に知る人ぞ知る秘湯があると幼馴染から聞いた。俺はその幼馴染を引き連れて雪山を登り、遂にお目当ての秘湯を発見した。
だがどういうことか。
秘湯は雪対策用の強化ガラスに囲われていた。このガラス部屋に入る手段は眼前のドアただ一つ。
だというのに!
「何でパスワードが必要なんだよ!?」
ドアには音声認識システム搭載のロックが掛けられていやがった! 何で知る人ぞ知る秘湯にこんなハイテク取り付けられてんだ!? 日頃お世話になってる科学技術様を今日ほど恨めしく思ったことはない!
「あああああっ!」
寒い寒い寒いっ!
完全防寒装備が全く役に立ってないよぅ!
死ぬ! このままでは死んでしまう!
「とにかくパスワードを何とかしないと」
「んなこと言ってもよぉ」
「見て。ここにパスワードのヒントが書いてあるわ」
「何っ!?」
流石は我が幼馴染美花月さん!
俺はそのヒントに目を向ける。
【ヒント:愛するひとう】
「別府ぅ!」
『パスワードが違います』
「何でだよ!?」
「いやこっちが聞きたいわ」
わぉ! 美花月さんが絶対零度の眼差しで睨んでる!
「どう考えたら別府になるのよ?」
「貴様別府三大秘湯と呼ばれる名所を知らんのか!?」
「じゃなくて、何で別府がパスワードになると思ったか聞いてんのよ」
「だってヒント書いた人の愛する秘湯とか知らんし、手あたり次第言うしかねーじゃん!」
「は? あんた何言って――」
「てことで次は祖谷!」
『パスワードが違います』
「なら谷知!」
『パスワードが違います』
「薬師! 法師! 乳頭温泉郷!」
『違うっつってんだろ』
「今喋んなかったか!?」
「あんたちゃんとヒント読んでるの?」
「え?」
俺は再度ヒントを見る。
【ヒント:愛するひと】
「愛する人!?」
間違えて『う』を付けてたんか! どんだけ温泉好きなんだ俺!?
でも愛する人ってもそんなのーーいや、まさか。
「……へくちっ」
「っ!?」
ええいもう迷ってる時間はねぇ! 男なら覚悟を決めろ!
「愛する人は、美花月だぁああああ!」
『……やっと言ってくれたわね』
「は?」
音声システムからそんな声が流れてきたと思ったら、凍えていた美花月が歩き出す。
「言うのが遅いのよマジ。こんな寒さも予想外だったし」
なんて言いながら、美花月はカードキーで簡単にドアを開けた。
「じゃあ雪が止むまで温泉を楽しみましょう? 一緒にね」
いつも冷やかな美花月さんが妖艶な笑みでそう言った。
うーん、何というか。
やっぱ温泉って最高だな!
1000文字以内って難しいなぁ。