表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/100

氷の宮殿、半地下の部屋⑶

「仮にもかわいい甥の奥方だ。形だけでも謝っておいたほうが良いと思ったんだが、不要か」

「はい。不要ですね」

「ミーシャ、むやみに煽るな」


 リアムがオリバーとミーシャのあいだに割って入る。そのようすを見てミーシャはほほえましく思い、眉尻をさげた。


「リアムが叔父さんを庇ってる」

「二人がもめそうだったら仲裁しろとジーンに言われている」

「さすが宰相殿。ですが、もめるつもりはないわ」


 ――言いたいことは言わせてもらう。ただそれだけ。


「いくら戦争だったとはいえ、これまで魔女はたくさんの人を殺し、怖がらせ、悲しませてきました。オリバー大公殿下にしてしまったように、誰かの愛する人を奪った。恨まれてあたりまえだと思っています。死んであげることで、罪滅ぼしをする方法もあった。けれど……幾万人の命に対し、この命一つでは償いきれません。だから、私は死なない。生き抜こうと思います。今、生きている人が一人でも笑えるように、幸せにしたいと思っています」


 ――死んで終わりでは、なにも変わらない。魔女の印象は悪いままで、恐れからまたいさかいが生じ、負の連鎖が続くだけ。


 ミーシャはリアムの手を取り、そしてオリバーを見た。


「リアムと、自分の幸せを掴むって約束したんです。そして、人々が楽しく、暮らしやすい国にしたいと思っています。だからあなたも、幸せを諦めないでください」


「……この私に、幸せになれと?」


 オリバーは目を見開いた。


「そうです。憎しみや、恨みを晴らすのではなく、共に人々を導き、支える道を歩んでいただけませんか?」


 ミーシャだって、言葉一つでオリバーの無念が晴れるとは思っていない。それでも、まずは伝えることからはじめるべきだ。


「このままではリアムが苦しいままです。あなたのかわいい甥を救うためにも力を貸してください」

「かわいいは……やめろ」


 口を挟まず聞いてくれていたリアムが、そこだけは手を引いてとめに入った。彼に苦笑いを向ける。


 刺すような目でミーシャを見つめたいたオリバーは、ゆっくりと口を開いた。


「人々を導き、支える道か。民を犠牲にしようとした俺に、民のために尽くせというのか?」

「大切な人を復活できるかもしれないと言われなければ、あなたは民を犠牲にしようとは思わなかった、違いますか?」

「……どうだろうな」


 オリバーは自分の胸にある指輪を握って、目を伏せた。


「もし、あのまま復活できていたとしても、ルシアさまはきっと、喜ばれなかったと思います」


 下を向いていたままのオリバーにミーシャは一歩近づいた。


「私だったら、愛する大切な人の手を汚してまで、復活したいとは思いません。幸せな未来は待っていませんから……」


 もしもリアムが、民の命と引き換えに自分を蘇らせていたら、哀しくて生きていくのが辛くなっていた。

 自分のために、誰かの命を秤にかけ、蹴落としたところで本当の幸せは訪れない。人の命はそんなに軽くない。


「では魔女は、なんで二度も生きかえった」


 オリバーの質問に、ミーシャは一瞬息を呑んだ。


『クレア。魔女の秘密は誰にも言ってはだめよ』


 かつての教えが頭を過ぎる。しかし今は、魔女を守ることよりも、未来を守るほうを選ぶ。

ミーシャはリアムを見た。彼の碧い瞳を見て心を落ち着かせると、ゆっくり口を開いた。


「炎の鳥は、太陽の化身。そして、地中深くに宿る、猛炎(もうか)です」

「猛炎……岩漿(マグマ)か」

「私たち魔女は死なない。太陽が地に沈み、再び生まれ現れるように、復活ができます」

「フルラ王の言っていたことはそのことか」


 ミーシャは頷くと続けた。


「遙か昔。ガーネット家の始祖は、炎の鳥と盟約を交わしたそうです。どうして契約できたのかはわかりません。ただわかっていることは、炎の鳥はガーネット家に産まれた娘を子々孫々守り、力を貸してくれると言うこと」


 ミーシャは片方の手のひらに、炎の鳥を呼んだ。

 朱い炎の鳥は羽を広げ飛び立つと、燭台に止まった。そして、次の燭台へ飛び移りながら部屋の灯りを点けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ