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私はあなたの味方⑴

「陛下、こちらへ」


 屋敷に着くとすぐに一番暖かい部屋へ案内した。

 暖炉の前の長椅子(ソファー)に座ってもらう。すぐにリアムの足元を中心に床が凍りはじめた。移動のあいだに体温が下がってしまったようだ。ミーシャは火力を上げるために薪をくべた。


「もっと火の近くで、温まってください」

「すまない」


 ミーシャはリアムの前に座りこんだ。炎の鳥を呼び、床の氷を溶かしながら彼の顔を覗きこむと、閉じられていた瞼がそっと開いた。


「侍従はさがらせたか?」

「はい。彼女たちは寒さに耐性がありませんので」


 ――身体がつらいはずなのに、自分のことより人を心配している。そういうところは変わってないのね。


 侍女たちが魔力に当てられて凍ったら大変だと気遣うリアムに、胸が苦しくなった。


 暖炉の中で薪が爆ぜる音が響いた。ミーシャは火かき棒を持ち、薪を整える。


 ――みんな、まだかしら。


 馬で移動するとき、エレノアやリアムの側近たちがすぐ後ろをついて来ると思ったが、屋敷に着いたのは自分たちだけだった。あとから到着するだろうと思ったがそれにしても遅い。


「他に敵がいないか調べているんだろう。そのうち来る」


 ドアに視線を向けただけで、リアムはミーシャの考えを読み取ったらしい。こほんと咳払いをしてから話しかけた。


「温かい飲み物と、毛布を持って参ります」

「必要ない」


 リアムは自分の手を見せた。


「霜がなくなった」

「見せてください」


 ――霜はたしかにない。きれいな手をしている。


 炎の鳥と、暖炉のおかげで部屋がずいぶんと暖かくなった。血の気が引いてまっ白だったリアムの顔に赤みが戻ってきている。

 ひとまず回復傾向だと安心していると、彼はなぜかじっとミーシャの顔を見つめてきた。


「頬に煤がついている」

「え……?」


 さっき、かがり火に近づいた。そのときに煤がついたらしい。あわてて頬を手でこすった。


「違う。そっちじゃない」


 リアムの手がミーシャの右頬に触れた。


「煤をつけた令嬢も初めて見た」


 呆れながらも温かみのある眼差しだった。まだ冷たいリアムの指先が頬に何度も触れる。煤を拭き取ってくれているあいだミーシャは動けなかった。


「取れたよ」

「ありがとうございます」

「令嬢はさっき、『太陽に触れても平気』と言った。前に、師匠から聞いたことがある」


 ふいを突かれ、思わず息を呑んだ。

 クレアだった大昔に言ったかもしれない。リアムは今でも覚えているらしく、焦った。なるべく表情を変えずに小首をかしげる。


「私、そんなこと言いました?」

「かすかな魔力からは、クレア師匠と同じものを感じる」


 リアムはミーシャの長い髪を一束、掬うように持ちあげた。


「師匠の髪は真っ赤な月を闇で包んだような色をしていた。名前のとおりガーネット色。令嬢の髪の色はクレア師匠よりも色素が薄い朱鷺色だが、朝焼けのような、透きとおる紫の瞳の色はまったく一緒だ」


 ミーシャはまっすぐ碧い瞳を向けるリアムから視線を逸らした。


 ――よく見ているし、よく気づく。……だから、会いたくなかった。


「クレアは、私の母の従姉妹です。親戚ですから、似た部分もあると思います」


 平静を装って答えたが、これ以上共通点を見つけられたら正体がばれるかもしれない。この場をどう切り抜けようかと頭がいっぱいだった。


「見れば見るほど、よく似ている。まるでクレア師匠が蘇っ……」

「違います! 私は、ミーシャ・ガーネット。十六歳です! 大魔女クレアではありません」


 思わず強く否定してしまった。逆に怪しまれたかもしれない。気まずくしているとリアムは「そうか」と言って立ちあがった。


「暖はもう十分だ。この礼は必ずさせてもらう」

「礼など必要ありません」

「今日見たことは他言しないでいただきたい。世話になった」

「待ってください」


 さっきまで凍って動けなかった人が少し温まったくらいで出て行こうとしている。

 放っておけなくて、ミーシャはリアムの前に立った。


「陛下は魔力が膨大だと存じあげております。寒さ、冷への耐性もある。それなのに、どうしてここまで酷い状態なのか、原因を教えてください」


 森では症状が酷く治療に専念するために事情を聞くのはあとまわしにした。今は引きさがるつもりはなかった。


「貴女に教える義務はない」

「このままでは寿命を縮めます」

「かまわない」


 ミーシャが呆然としていると、彼は脇を抜けて行こうとした。あわててもう一度リアムの進路をふさぐ。


「あなたがかまわなくても、私はかまいます」

「令嬢は関係ないだろ」

「いいえ。私たちは、手紙をやりとりする関係です」


 リアムから視線を逸らさずに、手を振った。炎の鳥が暖炉から飛びだすと、そのまま書斎へ飛んで行く。すぐに帰ってきた鳥の嘴には、皇帝である彼から送られた手紙が咥えられていた。


「会ったばかりで信じられないかもしれませんが、私は誰よりもあなたの味方です」


 手紙を見せながら伝えると、リアムは眉根を寄せた。

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