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魔女の覚醒

サブタイトル「ミーシャの姿の魔鉱石」→「魔女の覚醒」に変更しました。

内容に変更はありません。2023.8.10

 見覚えのある、涙型の魔鉱石。しかし、十六年前と色が微妙に違う。


 もっとよく見たくて、ミーシャはどきどきしながら手を伸ばした。

 まず白狼の首元にそっと触れてみる。雪のように冷たいが、白くて柔らかい。白というより、銀色に輝く毛色をしている。


 白狼はじっと天井を向いたまま動かない。ミーシャは思いきって紐をちぎり、魔鉱石を握った。


 次の瞬間、朱い光があふれ出した。

 心臓がどくんと脈打つ。身体の一番深いところで、大きな炎のような力が湧きあがり、指の先まで満ちていくのを感じた。


 白狼は魔鉱石が発する光を嫌い、ぴょんと飛んで離れると、さっさと氷の壁の向こうへ消えてしまった。


「え、ええ? ちょっと、待って。なにこれ?」


 暖炉の火が勝手に燃えはじめる。消えていた照明や燭台の火も次々に点灯していく。部屋の中は一気明るくなり、温かくなった。


 天井まで隙間なく塞がっていた氷の壁が、溶けて消えていく。


 過去の自分が作った物がよくわからない。ミーシャはパニックだった。


「ねえ、白狼さん。置いて行かないで。これって、クレア魔鉱石じゃないってこと?」


 白狼は外へ行こうと言いたげに、バルコニーのドアの前で待っている。

 ミーシャが話しかけると、床をかりかりと掘った。


「待って。今行く」


 魔鉱石が強く光ったのは一瞬で、今は宝石の中で静かに朱い輝きを放っている。

 ミーシャはなくさないように、紐を結びなおし、自分の首にさげた。

 そのときだった。


「ん?」とミーシャは首をかしげた。


 自分の髪を一房、掴んで眺める。


「……なんか、髪の色が、濃い赤のような……」


 まさかね。と思いつつ、ミーシャは移動した。

 暖炉の火の色が反射して映っているのだろうと自分に言い聞かせながら、衣装部屋にある鏡台の前に立った。


「…………うそ」

 思わず、ばんっと、鏡に手をついて覗きこんだ。


「髪が、朱鷺色じゃない!」


 鏡の中にいたのは、今は懐かしい「クレア」だった。


 しかも自分で焼いて短くなっていた部分も、元の長さに戻っている。ミーシャは鏡に映る自分を見つめたまま、固まった。


「……どうしよう。どうしよう?」


 部屋の中をおろおろしていると、白狼が早くしろと吠えた。


「そ、そうね。今はとりあえず、二人を追いかけなくちゃ。……この格好で?」


 それはとても事態を悪くする気がした。とりあえず気休めで、「よし」といいながらフードを被る。


「ち、力も、戻っていたりしないかなー。なんてね……」


 軽い気持ちで手をかざすと、思いっきり炎柱が発生した。あわてて火を消す。


 氷の壁を溶かしたばかりであたりが濡れていたおかげで、絨毯を少し焦がしただけですんだ。ほっと胸をなでおろす。


「魔力も、戻ってるのね……」


 見た目だけじゃなく、魔力もクレアと同等量あり、扱うこともできるようだった。


「炎の鳥。おいで」


 試しにミーシャが呼ぶと、目の前に自分と同じ大きさの炎の鳥があらわれた。


「これは、もう、間違いないわね」


 ミーシャは待ちくたびれてどっか行ってしまった白狼を追いかけ、バルコニーに出た。炎の鳥をもっと大きくして、その背にミーシャは乗った。


「お願い。リアムのもとへ連れて行って」


 炎の精霊獣は、朱く燃える大きな翼を広げると、空に向かって力強く飛び立った。


 *


 ミーシャを乗せた炎の鳥は、闇を切り裂き進んでいく。ときどき粉雪が顔にあたるが関係ない。

 風を心地よく感じながら、首からさげている魔鉱石を握った。


「皮肉なものね。リアムを守るために作った魔鉱石が、結果、私に力を与えてくれている」


 急に炎の鳥が滑空しだした。もう、リアムたちに追いついたらしい。


 そこは青白く発光する流氷の結界のそばで、オリバーを追いこんだリアムが、今まさにとどめを刺そうとしている瞬間だった。


 ミーシャが上空にいると思ってもいないのだろう。こっちにまったく気づくようすはない。


 ――とめなくちゃ! 


 炎の鳥を操り急降下すると、ふわりと、二人の前に降り立った。


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