魔女が幸せになる物語⑴
ナタリーはミーシャと目が合うと、カーテシーをした。お付きの者はなく、一人のようだ。
「ごきげん麗しゅうございます。ミーシャさま」
「お久しぶりですね。ナタリーさま。ちょうどよかった。私、あなたに渡したい物があるの」
ミーシャは、中に入ってお待ちくださいと、部屋へ案内した。ナタリーが渋っていると、ライリーがドアを開け広げ、頭をさげた。
「私に用があって来られたのでしょう? どうぞお入りください」
ミーシャが促すと、ナタリーは小さく頷いた。
「少々お待ちになって」と断リを入れて、調合するための作業台へ向かう。すでに準備していた袋を手に取ると、彼女のもとへ戻った。
「エルビィスさまの体調がすぐれないと聞いております。これを、よかったら試してみてください」
戸惑う彼女の手を取り、薬が入った袋を渡した。
「大丈夫です。陛下の命で作った薬です。毒ではないので安心して。不安でしたら今、私が服用してみせます」
「……私の父のために、薬を作ってくださったんですか?」
「はい。私の取り柄はこれくらいですので。今、飲まれている薬を邪魔するような物は入っていません」
「ミーシャさまは、噂どおり、薬に詳しいのですね」
「はい。 あ、ライリーの淹れる紅茶は美味しいんです。どうぞ召し上がってください」
ナタリーは袋をぎゅっと握ると、「ありがとうございます」とほほえんだ。
彼女はライリーに案内された席についても硬い表情をしていた。
肩の力を抜いてもらおうと、ミーシャが先に紅茶を飲んで見せる。ほほえみかけると彼女もカップに手を伸ばした。紅茶を飲んだあと、ゆっくりと口を開いた。
「陛下から、カルディアとの国境の視察へ、一緒に向かうと聞きました。それで、ミーシャさまにごあいさつをと思って、立ち寄らせていただきました。立ち聞きなど不躾なことをして申しわけございません」
彼女はぺこりと頭をさげたあと、ミーシャを見た。
「令嬢はクレアさまの生まれ変わりと聞こえてきました。……本当、でしょうか?」
じっとミーシャを見つめる瞳は真剣で、事実を見極めようとしていた。誤魔化はよくない。ちゃんと答えようと目を閉じて腹をくくる。
「はい、本当です。私は、前世クレアの生まれ変わりです」
ナタリーは目を見開き、驚いていた。
「前世の記憶を持ってはいますが、魔力は残念ながらないに等しいです。なので、なんの力もない、ただの娘ですよ」
彼女を安心させようと、笑顔を向けた。
「ナタリーさま、ミーシャさまがクレアの生まれ変わりだと言うことは、ここにいる者以外、誰も知りません。ご内密にお願い申しあげます」
ライリーが割って入った。
「ここにいる者って、……陛下もご存知ないということですか?」
ライリーは「さようでございます」と答えた。
「ナタリーさま、お願いです。今聞いたことは、陛下には言わないでいて欲しいです」
「どうして言わないのですか? 陛下、ずっと、ずっとクレアさまを慕っておいでです」
声を震わせるナタリーに向かってミーシャは頭をさげた。
「私はクレアの生まれ変わりとして、前世の罪を償う身だからです」
彼女にわかってもらおうと、まっすぐ言葉をぶつけた。
「帝国民は、魔女を嫌っています。婚約者が、復活した悪魔女クレアだと知れ渡れば糾弾してくるでしょう。私を庇い立て、陛下の立場を悪くしてしまう。彼はクレアを慕っている。だからこそ、私の正体は陛下にとって足枷にしかならない」
「庇い立て、させたらいいのです。喜んで、リアムさまの足枷になりましょう」
はっきりと言い切るナタリーに、驚いた。喜んで足枷になると言う発想がなかったからだ。
「それに、立場など、陛下は気になさらないでしょう」
「でも……、」
「クレアの正体が世間にばれるのがいやなら、帝国民や他の者には隠せばいいわ。リアムさまを含め、一部の者だけ承知していればいい」
「私がこの世に生み出した魔鉱石が原因で、たくさんの犠牲者が出ました。その帝国民に、自分の正体を偽ったままで、本当の正妃にはなれません」
「待ってください。ミーシャさま、リアムさまの正妃にならないおつもりでいらっしゃるんですか?」
ナタリーは、今まで一番驚いた顔でミーシャを見た。




