表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/100

叶えられない願い

「リアムさま、連日お邪魔してもうしわけございません」


 ナタリーはていねいにカーテシーをした。


「我が妹よ。おまえ、なんでここにいるんだ」

「……あら、お兄さま。いらしたんですね。見えませんでしたわ」

「いたから! 最初からずっと、陛下の横に!」


 ふっと笑うと、ナタリーはリアムを見た。


「今朝方、父がうわごとを。お伝えしようと思いまして、馳せ参じました。陛下にだけ、お伝えしたく思います」


 兄のジーンは渋い顔をしているが、ノアに聞かれたくない内容かも知れないと目配せをする。


「ノア皇子、ぼくと遊んでください。書類整理でちょうど疲れていたんですよー」


 ジーンがノアを連れて立ち去ってから、リアムは口を開いた。


「それで、エルビィス先生の伝言とは?」

「わたくしに、陛下を支えなさいと」


 ナタリーの表情は硬く、真剣な顔をしている。彼女の話をちゃんと聞こうと、向き直った。


「リアムさま。わたくし、ずっと、ずっと前から、リアムさまをお慕いしておりました」


 彼女の手が伸びてくる。それを「触れるな」と、言葉で止めた。


「凍化が進んでいる。魔力がないものが触れると凍傷してしまう」


 ナタリーは怯えた目で、救いを求めるようにリアムを見つめた。


「陛下も凍化病を? いつからですか?」

「だいぶ前からだ」

「まったく、気づきませんでした」

「ジーンが、うまく隠してくれていた。今まで、黙っていてすまない」


 一度目を見開いたあと、彼女は弱々しく、首を横に振った。


「陛下の病は内緒にするのが当たり前です。最近、カルディア国も不穏な動きをしているみたいですし」

「さすが、アルベルト侯爵の令嬢だな」

「わたくし、これでも宰相の妹ですから」


 顔には笑みが浮かんでいるが、胸の前でぎゅっと握られたナタリーの手は、小さく震えていた。


「わたくしは、幼いころから将来は陛下を支える妃になると聞かされて育ち、わたくし自身もそうなりたいと望んで、生きてきました」

「ナタリー、でも俺は……、」

「陛下の心にクレアさまがいるのは知っています。それでも私はかまいません……傍で、陛下を支えることがわたくしの幸せですから」


 ジーンは、ミーシャを求めてしまう感情を恋だという。

 相手を想う気持ちがわかるからこそ、ナタリーの言葉がリアムの胸を締め付ける。


「ナタリー。きみの気持ちはわかった。だが、どれだけ俺を想ってくれても、その気持ちに応えることはできない」


 ナタリーは息を吞むと、下を向いた。


「俺は、誰かに支えて欲しいんじゃない。大切な人たちを支えたいと思っている。守るだけじゃなく、みんなを、できるだけ幸せにしたい。もちろんナタリーのことも。だけど、ごめん。きみの望む幸せは、叶えてあげられない」


 想いを伝えるのは、とても勇気がいる。

 だからこそ、最大限の敬意を示すべきだ。淡い期待を持たせるような中途半端な返答はしたくなかった。


「俺がこの手で幸せにしたいと思うのは、ミーシャだけだ。この命続く限り、彼女に俺の傍にいて欲しい。いつも、笑っていて欲しいと願っている」


 ナタリーは、一度深く息をはくと、顔をあげた。


「陛下。……クレアさまのことは、忘れられそうですか?」

「それは、無理だろうね」

「それでも、彼女を選ぶと」

「ミーシャが嫌じゃなければ」


 ナタリーはふっと、肩の力を抜いた。


「陛下、勝手ですね」

「きみの兄曰く、恋とは自分勝手でいいそうだ」


 一瞬驚いたあと、彼女は小さく笑った。


「正直、薄々と、わかっておりました。陛下の言葉で言っていただけて、すっきりしましたわ。……ありがとうございます」


 ゆっくりと長く、ナタリーは頭をさげた。


「気持ちは、簡単には吹っ切れませんが、陛下への忠誠心は、かわりません。わがアルベルト家が力になれることがあれば、なんなりと申してくださいませ」


「ありがとう。恩にきる」


 顔をあげた彼女の頬はぬれていた。


「陛下。近々、カルディアに赴くと兄から聞きました。差しでがましいことを申しますが、陛下が留守の間、ミーシャさまをアルベルトの者にも守らせていただけませんか?」


「きみの心づかいは感謝する。だが、それには及ばない。ミーシャは、一緒に連れて行く」


 ナタリーは目を見張った。


「彼女が、魔女だからですか?」

「魔女だから連れて行くと言うより、ここに置いていっても危険だからだ」


 ナタリーは、下を向いて逡巡したあともう一度リアムを見た。


「陛下、ミーシャさまにお会いする許可をいただいてもよろしいでしょうか? カルディアに向かう前に、お話をしておきたいと思います」

「許可しよう。ただ、彼女は部屋にいないかもしれない」

「自分で探しますから、大丈夫ですわ」


 ナタリーはカーテシーをすると、もう一度リアムを見た。


「リアムさま。どうか、……幸せになってくださいね」


 にこりとほほえみを残し背を向けた彼女を、リアムは黙って見送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ