表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/100

二度と失いたくない

 寝台の横の大きな本棚の空いている場所にスノードームを置くと、ミーシャはリアムに向き直った。


「陛下。仰向けに寝てください。よく眠れるようにマッサージをして差しあげます」


 ミーシャはライリーがいつもするように、両腕の袖をまくった。


「冷え性にはマッサージが効果的なんですよ」

「冷え性?……俺は別に、血流が悪いわけじゃない」

「わかってますよ。でもいろいろ試すお約束です」


 ミーシャはお風呂で使った香油を持ってきていた。手に塗ると、リアムの手のひらからマッサージをはじめる。


「陛下、目を閉じてください。眠くなったらそのまま寝ていただいてけっこうですからね」


 ミーシャは炎の鳥を呼ぶと、リアムの胸とお腹の上に乗せた。


「変わった施術だな……」

「動いちゃだめです」


 彼の大きな手のひらを指でやさしくさすり、軽く押して揉んでいく。次に手首、腕をやさしくさする。


「強さはどうですか?」

「気持ちいい」

「私が国に帰ったあとは、新しいお妃さまにしてもらってくださいね」

「結婚をするつもりはないって言ってるだろ」


 リアムはふんっと顔を逸らしてしまった。


 スープや、マッサージよりも症状の和らげるのに一番いい方法がある。ミーシャはマッサージの手をとめると、思い切って口を開いた。



「陛下。どうしても伴侶は必要ないと仰るのなら、私に、クレアの魔鉱石を使わせてください」


 リアムの表情があきらかに険しいものに変わったが、そのまま考えを伝えた。


「魔鉱石があれば、陛下の治療もできるし、私は自分自身を守れます。陛下のお力にもなれる」

「魔鉱石はないと、前に言っただろ」


 ミーシャはリアムの手をぎゅっと握った。


「誓います。私は決して陛下を、グレシャー帝国を火の海に沈めない。陛下のためにしか使いません。だから、信じてください」


 仰向けに寝ていたリアムは上体を起した。炎の鳥がぱたぱたと飛んで逃げていく。


「まるで、魔鉱石が存在していると確信しているような口ぶりだな」


 刺すような視線を向けられたが、ミーシャは言葉を続けた。


「クレアが焼き払ったのは、オリバー大公が作った青色の偽物だけ。ガーネットでできた赤いクレア魔鉱石はまだこの世にあるはず。そして今も、陛下が持っている。違いますか?」


「仮に、クレアの魔鉱石が燃え尽きずに存在するとして、なぜ俺が持っていると思うんだ?」

「陛下は、クレアの弟子ではありませんか。託すとしたら、あなたさましかいません」


 リアムは目を細めた。


「持っていると思うなら、自分の手で確かめて見る?」


 いきなり手をつかまれた。驚いているとリアムは、ミーシャの手を、自分の胸に当てた。


「遠慮はいらない。くまなく探せ」


 後頭部を掴むとリアムは、ミーシャの顔を自分の胸に押しつけた。

 とくとくと耳に届く心音と、微かな石けんの香り。彼の寝間着の前は(はだ)け、手は直接リアムの広い胸に触れている。


「無理、です……!」

「どうして? 緩和治療や、マッサージとたいして変わらないだろう」


 ミーシャは無言で首を横に振った。

 恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。離れようと身体を反らすが、拘束は解けない。


「持っていないと言っているのに、信じられないんだろ。だったら、ちゃんと調べろ」

「陛下が、身につけていないことくらい、わかってます。どこかに隠しているんでしょう?」


 ミーシャは彼を下から睨んだ。


「氷の泉の深淵に隠している。違いますか?」

「そんなところに隠さない」

「つまり、どこかにあるんですね?」


 リアムは首を横に振った。


「たとえ、魔鉱石があったとしても、俺は自分のためには使わない」


「陛下、お願いです。どうか、わっ!」


 ミーシャを抱きしめたままリアムは横に寝そべった。


「俺なんかより、きみのほうがやさしい。俺のために本を読みあさり、薬草を探し、スープを作り、マッサージまでしてくれる。緩和治療は十分してもらっているよ」

「だけど私はいずれ、陛下のもとを離れます。その先の準備も必要です!」

「時が来たら、来たときだ。今は傍にいてくれたらそれでいい」


 ――私は十分じゃない!


 じたばたと暴れたが、リアムの腕からは逃げられなかった。しかたなく、彼をぎゅっと抱きしめる。


「私、諦めません。陛下のこと、絶対に死なせませんから」


 魔力でリアムを思いっきり温めながら伝えた。するとリアムもミーシャを抱きしめる手を強めた。


「俺も、もう二度と失いたくない」


 師弟でもなく、夫婦でもない。本来相容れない、炎と氷の関係。だけど、なにに代えても相手を守りたいという気持ちだけは一緒で、二人だけの真実だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ