まどろみと腕の中⑵
「陛下。私、今日も薬草を探しに行こうと思います。その許可を今ください」
「……オリバーの動向がわかるまでは、外出は控えて欲しいが」
「氷の宮殿から出ませんし、陛下の目の届く範囲で行動します」
難色を示すのはわかっていた。あらかじめ用意していた答えを彼にぶつけた。
「なにかあれば、炎の鳥を飛ばします。決して無理はしません」
「薬草なら、宮殿内の備蓄分を使えばいい」
「それはとてもありがたいですが、全部を使うわけにはいかないでしょう?」
「……薬草、そんなにいるのか?」
ミーシャはリアムを見ながら「はい」と答えた。
「昨夜、陛下に飲んでいただいた薬草スープ、毎日飲んでいただきたいんです。そのために定期的に材料を入手したいんです」
「昨夜の赤いスープか……。病の緩和は、ミーシャをこうして抱きしめているだけで効果がありそうだが?」
「今はよくても白い結婚が明けたあとは、どうするんですか? スープは苦くて辛くて美味しくなくても、飲み続けていただきます!」
リアムは苦笑いを浮かべた。
「わかった。飲み続けよう」
「約束ですからね? それと、薬草の材料もですが、懐炉の材料も探そうと思っています。陛下の許可をいただけるなら、宮殿で働く宮仕えのみんなにもぜひ、使っていただきたくて」
「懐炉の増産は賛成だ。まずは宰相のジーンに使わせ、試させたい」
「ありがとうございます! 陛下ならそう言っていただけると思っていました」
リアムはミーシャの目の前で、やわらかくほほえんだ。
――リアム、笑うとあどけなかった子どものころみたいで、少しかわいい。
彼の笑顔を見て、ふと、髪が金色の皇子が頭を過ぎった。
「陛下。どうしてノア皇子は一人で遊んでいるんですか」
「ノアに、会ったのか?」
「庭で薬草を探した帰りに見かけました。ノア皇子、お友だちと遊びたい年ごろだと思うんです」
幼少期のリアムの傍に、ジーンやイライジャがいたように、彼にも同世代の仲間がいたほうがいい。
「ノアのことは気にしなくていい」
少し突き放すような声だった。
「あれの母親が、ノアに関わるな、子育てに口を出すなと言ってくる」
「陛下にも口を出すなと?」
リアムはミーシャを見ながら、「出すけどな」と言った。
「ノアは一人ではなかっただろ? あの子には雪の精霊獣を傍に置いている」
「もしかして、あの白い仔犬!」
「仔犬じゃない、小さな白狼だ」
「精霊獣の白狼! 陛下も操るんですか? ぜひ見てみたいです」
ミーシャが操る炎の鳥も小鳥だったり、大きかったりと種類はさまざまだ。
リアムは「機会があればな」と言って上体を起した。
「あの子がもう少し大きくなったら魔力のコントロールのしかたを教えるつもりだ」
「教えるって、陛下は今、魔力を使うと凍ってしまう身体ですよ」
――それに、ただでさえ忙しいのに。教える時間があるのだろうか?
「ノアの教育は俺の義務の一つだからね。それに、凍化病はきみが治してくれるんだろ?」
「それは、もちろん」
「友だちを作らせてあげたいとは前から思っていた。だが、今はオリバーの動向が気になる。新しい人を入れるのは難しいな。皇太子のノアも命を狙われる恐れがあるから護衛を強化するつもりだ」
リアムはミーシャの髪に触れた。
「きみも、十分気をつけて。オリバーは魔女に危害を加えようとする可能性がある。薬草採りは宮殿内。引き続きイライジャの護衛をつけるように」
「陛下の仰せのままに」
掬った髪にキスを落とすと、リアムは名残惜しそうにミーシャの髪から手を引いた。
「そろそろ起きよう」
「そうですね。もうお昼前ですし。お腹、空きました」
腹部を手でさすると、リアムはくすりと笑って「やっぱりきみは令嬢らしくない」と笑った。




