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氷の皇帝の秘密⑴

「お初にお目にかかります。ミーシャ・ガーネットと申します」


 炎の鳥を空へ逃がし、摘んできた花束を地面に置くと、屈折礼(カーテシー)をした。

 両手で広げ持ち上げたスカートには、木の葉がついている。


「あなたが、ガーネット女公爵の令嬢?」


 記憶と違う低い声だった。


 下を向いたまま「はい」と答えながらミーシャは、後悔していた。

 冷たい空気と強い魔力を感じ、もしかしたらリアムかもしれないと、予感はあったのだ。


 雪を操るかわいい氷の妖精は、すっかり立派な青年になった。 

 切れ長の目、高い鼻筋、形のいい唇。すべてが完璧に整っている。男性なのに見た目は昔と変わらずきれいで美しい。


 まさに『氷の皇帝』


 一方、かつての師は、土まみれで魔力はほぼ持たない小娘。


 政略結婚を拒み、命日には会わないように部屋に引きこもり、やり過ごしてきた。今生ではクレアだったことを伏せ、リアムと関わらないで生きると決めていたのに、確かめるためとはいえ、こんなに彼に近づくことになるとは想定外だ。


「公爵令嬢。話はあとだ。そこにいて」

「え?」


 思わぬ再会に動揺していたミーシャは、顔をあげて驚いた。

 リアムを中心に白い煙のようなものが放たれている。冷気だ。彼は右手を横へ向けるとその手に大きな氷の剣を一瞬で作りあげた。


 剣を構えるのと、黒ずくめの男たちが現われるのはほぼ同時だった。男たちはリアムを挟むようにしていきなり斬りかかった。


 魔力で作った氷の剣は強化されているため鉄のように固い。襲いかかる刃を受け、キンッと弾く音が辺りに響いた。


 ミーシャは男たちの接近にまったく気がつかなかった。動揺しながらも他に敵がいないか警戒してまわりを見る。


 リアムは魔力だけじゃなく、剣技も大陸一と噂されるほどだが、今は護衛が一人もいない。相手からの攻撃をうまく受け流しているが、敵が何者かわからない。二対一では分が悪い。


 男の一人がリアムの背に回ると、斧のような武器を振り上げた。ミーシャは思わず駆けだした。


「炎の鳥よ、来て!」


 リアムは敵の攻撃を難なく避けた。上空を旋回していた炎の鳥が急降下する。かがり火から生まれた炎の鳥もすごい速さで敵に襲いかかった。


 男の袖がぼっと燃え上がる。服に火がついて、男が怯んだ。ミーシャはもう一人に体当たりしようと前傾姿勢を取ったら、目の前に手が伸びてきた。


 リアムが阻むようにミーシャの前に出ると、二人の男に向かって手をかざした。彼の手のひらから発生した吹雪が二人に襲いかかる。

 視界を遮られ、もがく男たちはあっという間にまっ白になって凍ってしまった。


「令嬢、怪我は?」

「私は、大丈夫です。陛下こそ、お怪我はありませんか?」

「大丈夫だ」


 他に敵はいないらしく、しんと静まり返っている。

 リアムは男に近寄ると手と足以外の氷を溶かしはじめた。気を失っているようだが、息はある。ミーシャも炎の鳥を使って、氷を溶かすのを手伝った。


「すまない。炎の鳥で助けてくれたんだろう。ありがとう」

「いえ、かえって足手まといでした。助けていただき、ありがとうございました」


 深く頭を下げる。するとリアムは目を見開いた。


「あなたを巻き込んだのはこっちだ。……礼はいらない」


 ミーシャは首を横に振った。倒れている男たちに目を向ける。


「陛下が無事で、本当によかったです」


 男たちは熟練の刺客だった。武器と鍛えられている身体のようすから、あのまま体当たりしても、なんのダメージも与えられなかっただろうとミーシャは反省した。


「ここ数日、付け狙われていた」


 氷を溶かしながら、彼の横顔を見た。


「狙われていたのに、なぜお一人だったんですか?」

「捕らえたくて単独行動をして誘い込むためだ。何者なのか、これといった特徴は……見た限りわからないな」

「単独行動? 護衛もつけず、陛下自ら動くなんて、あまりに危険すぎませんか?」


 リアムが一人だった理由はわかったが無謀すぎる。思わず眉根を寄せた。


「多少のリスクはしかたがない。結果、捕まえられた。目覚めたら情報を引きだす」


 男が目覚めたとき、舌を噛んで自害しないように口を布で縛り、手足も紐で拘束する。それから残りの氷も溶かした。



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