表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/100

氷の皇帝の望むしあわせ

「古老たちが早く妃を娶れとうるさいからそうしたが、来るのが隣国の魔女だ。同盟国とはいえ、魔女を皇后にすることに反対している者がいまだにいる。彼女が根本的な完治が無理だと気づき諦めるまでは付き合うが、故郷へ帰りたいと言えばすぐに願いを叶えてあげるつもりでいる」


 ジーンはにこりと笑った。


「令嬢の気持ち、身の安全が最優先ということですね。さすが我が主。自分の都合よりも相手の気持ちを慮るなんてとてもご立派です。しかし、陛下の家来として、……親友として言わせてもらえば、もう少しご自分の幸せについても欲張っていただきたい」


 リアムは眉根を寄せた。宰相として小言ばかりの彼の目が今日はとくに真剣だ。


『生きて、陛下も幸せになってください』


 ――俺の幸せか。……令嬢も同じことを言っていたな。


 死の間際の師匠も、弟子の幸せを口にしていた。だがしかし、その願いは叶えられない。

 彼女のいない世界に、幸せなど存在しないからだ。


 人生を共にするパートナーが欲しいと思えない。血の繋がった子どもがいる未来が、想像できない。


「俺の幸せは、みんなが幸せになることだよ」


 ――この命は師匠からいただいたもの。守られた命は無駄にはできない。


 今いる大切な人のために使うことだけが、リアムの唯一の願いだった。


「陛下……!」

「静かに」


 リアムは不服そうな顔をするジーンの言葉を手で遮った。雪を踏みしめる音が聞こえたからだ。

 振り向いた先には、炎の鳥を肩に乗せたミーシャがいた。


「あの、ごめんなさい。お話の邪魔をするつもりはなかったの。起きたら陛下がいなかったので、心配で……」


 ミーシャはリアムが初日に渡した白い外套を羽織っていた。雪の中、佇んだままの彼女に近づく。


「俺を探しに来たのか?」

「はい」

「今後は探さなくていい」


 彼女はなにか言いたそうに口を開きかけたが、すぐに唇を引き結んだ。お辞儀をして「仰せのままに」とさがる。

 雪交じりの風が、彼女の朱鷺色の髪をさらりと揺らす。朝陽に透けて輝いて見えた。


「きみの髪は、やっぱりきれいだ」


 ふと、()いで出た言葉に、目を見開いている彼女より自分が驚いた。炎の鳥が空に舞いあがる。

 リアムは咳払いをすると外套を脱ぎ、ミーシャの肩にかけた。


「えっと……、陛下。私、外套はもう……炎の鳥もいるので平気です」

「それでも着て。そんな薄着では炎の鳥がいても風邪をひく」


 ミーシャは苦笑いをすると、白い外套(マント)の上に、黒の外套クロークを羽織った。

 隣に立つジーンが「いや、重そうでかわいそうっす」と呟いたので、彼の足をぎゅっと踏みにじむ。


「早朝に起きるのが日課なんだ。きみは寝てていい。という意味だ」


 彼女はゆっくりと頬をゆるめた。


「わかりました。次からは寝るようにします」

「戻ろう」

「陛下、待ってください。……流氷の結界を、近くで見せて欲しいです」

「氷の泉を?」


 ミーシャは真剣な顔でこくりと頷いた。リアムはジーンに視線を向ける。


「はいはい。お邪魔虫は退散しますよ。ミーシャさま。どうかごゆるりと」


 ジーンは胸に手を当て臣下の礼をすると、足早に去って行った。二人だけになってからリアムは口を開いた。


「俺はきみを信用している。だが、残念だがそうは思っていない者もいる。一緒にいるときはかまわないが、一人では結界に近づかないように」

「……承知しました。以後、近づかないように気をつけます」


 ほとんど魔力がないミーシャには結界に細工などできないが、事情を知らない者には不安を抱かせる。できれば誰にも、誤解や怖い思いをさせたくない。


「こっちだ。案内する」


 リアムはミーシャの背に手を当て、歩くように促した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ