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陛下の寵姫⑴

「我が妃は、さっそく人気者だな」


 リアムはミーシャに近づくと、顔を覗きこんだ。


「顔色が悪い。……傍を離れるんじゃなかった。すまない」


 風に当たりたいと離れたのはミーシャなのに、リアムは責めるどころか気づかってくる。相手を優先するやさしい彼に胸が苦しくなった。


「リ……陛下。お気づかい、ありがとうございます」

「話は聞こえてきた。ビアンカ皇妃、我が妻となる者に失礼な態度や陥れるような発言は慎め。今後、いっさい許さない」


 リアムに睨まれたビアンカは眉根を寄せて、言葉を噤んだ。頭を下げてから、後ろにさがる。


「それで? なぜ炎の鳥の話に?」

「ぼくです。ぼくが、見せて欲しいって、お願いしたの!」


 ノアが前に出て、必死になって説明した。ミーシャも付け加える。


「ノア皇子に炎の鳥を見せてあげたくて、外へ向かおうとしていたんです」


 彼はノアの前に跪いた。


「ノア。なんにでも興味を持つことはいいことだ。俺も昔、クレア師匠に炎の鳥を見せて欲しいと、何度もお願いをした」

「陛下も?」


 リアムは少しだけ口角をあげて頷いた。それからすっと立ちあがり、ミーシャを見た。


「令嬢。炎の鳥を見せてもらってもいいか? できればノアだけじゃなく、みんなにも」


 ミーシャは目を見開いた。周りにいた人もざわめき立つ。


「今、ここでお見せするのですか?」

「そうだ」


 視線を列席者に向けた。

 目が合った客人たちは恐ろしそうに顔を歪め、距離を取るためさがった。他の人もパートナーと肩を寄せ合い、すっかり怯えて萎縮していた。これ以上、怖がらせたくはない。


 見せるのを断ろうと思い、視線を戻したときだった。リアムはミーシャに近づき耳打ちをした。


「いい機会だ。魔女は怖くないと示してくれ」


「え?」と驚き、言葉を飲みこんだ。


 来賓の中にも炎の鳥に家を焼かれた者はいるはずで、きっと今でも恐れ、憎んでいる。

 負わせた心の傷をえぐるようなことはしたくない。

 不安に思い躊躇していると、彼はミーシャの手を取った。


「大丈夫だ。俺を信じろ」


 迷いのない瞳を見せてから彼は、人々に視線を向けた。


「炎の鳥は聖なる精霊獣だ。天の意思を伝える特別な存在。炎の鳥がこの地を燃やしたのは魔女ではなく、天の意思だ。堅い種子に覆われた植物の中には、大地が燃えたことで新しく芽吹くものがある。炎の鳥の聖火は、他者を傷つけるために火を使う人とは違う」


 リアムは右手に氷の剣を作ると、高くかざした。


「それでも不安に思う、ご来賓のかたがたもいると思う。だが、心配はいらない。私は雪と氷を操れる。天の意思で炎の鳥が舞い降りても、天に授けられたこの私の力で、みなさまがたを守ろう」


 会場内に白い雪が、静かに降りだした。誰もが上を向き、雪を眺める。


「きれい……」


 ミーシャも天を仰ぎ、きらきらと舞う粉雪を目で追いかけながら頬をゆるめた。


「令嬢。雪に見とれている場合じゃない。今のうちに炎の鳥を呼んで」


 リアムの声にはっとなった。彼の碧い瞳を見つめる。


 氷の妖精皇子だった彼は、もう立派な氷の皇帝だ。説得力のある演説をこなし、人を引き付ける魅力であふれていた。


 ――リアムを信じよう。

 ミーシャは頷くと、手を高くかざした。


「炎の鳥よ」


 呼びかけると、会場を照らす燭台の灯がゆらりと揺れた。

 雪を見て緊張をゆるめはじめていた人たちから悲鳴があがった。


「恐れるな。私がついている」


 リアムは声を張ると、ミーシャの腰に手を回し、ぐっと引き寄せた。


 ――近い!

 思わず身体を強張らせたが、彼は平然としたようすで「いいから早く呼べ」と言った。


 とまどいながらも、「炎の鳥よ、おいで」と大きな声で呼んだ。

 ろうそくの火が、かっと赤く大きくなると、すぐに鳥の形になった。

 翼を広げ、ミーシャのもとへ飛んでくる。小鳥サイズの炎の鳥を手の甲にとまらせた。


「……みなさま、これが炎の鳥です」


 引きつった顔で静まりかえる人たちに、よく見えるように手を向ける。愛らしく炎の鳥は小首をかしげた。場はさらに凍りついたように静まりかえった。


「……ずいぶんと小さいな。こないだ見せてもらった炎の鳥よりも小振りだ」


 リアムだけが余裕顔で観察するように、炎の鳥を見つめる。


「この大きさが限界です……」


 ノアが興味深そうにしているが、近づくのをビアンカが遮った。


「陛下の仰せのとおり、炎の鳥は、災いなどもたらしたりしません」


 ミーシャはビアンカ、そして列席者に視線を向けた。


「氷の国でも、炎は生活に欠かせない大事なものですよね。火は美味しい料理を作るのに欠かせません。凍えている人がいれば暖められます。生きていくのに必要で、命を救う神聖なものです。炎の鳥は怖いものではありません」


 リアムが手を伸ばしてきたので、彼の手に炎の鳥を移した。


「令嬢の言うとおりだ。炎を恐れる必要はない」


 ミーシャはろうそくの火から次々と小さな炎の鳥を生みだした。会場の天井近くをぱたぱたと羽音をたてて飛び回っている。

 火を恐れて姿勢を低くする人、ちらちらと火の粉を降らせる姿がきれいで、見入る人とさまざまだ。


「炎の鳥は、ふつうの火より高温です。ですが、燃やす対象を選べます。それにこの地は陛下の力『流氷の結界』があるため、私には、これ以上大きな炎の鳥を呼びだすことはできません」


「いくら炎の鳥と言っても、この程度の炎では国を燃やすことはできないな。だが……」


 リアムは「失礼する」と言って、ミーシャを軽々と抱きあげた。

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