表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/100

陛下の外套⑴  

 

 ――手が、冷たい。


 思わず顔をあげてリアムを見た。目が合った彼は涼しい顔をしている。


 クレアの石碑前にいた彼は装飾品もつけず、質素な服装をしていた。今は豪奢(ごうしゃ)な装いをしている。

 白を基調とした服装で、外套(マント)も白く、やわらかそうなファーがあしらわれている。瞬時に剣を作れる彼は、帯剣していない。

 十分着こんで暖かそうにしている。なのに、彼から冷たい魔力を感じた。


 リアムのエスコートで大広間ホールの奥にある階段をあがる。ジーンと侍女ライリー、そして近衛兵四人を従えて、二階の回廊を進んだ。


「この部屋を使って」


 南向きの明るい部屋だった。一人で使うには広すぎる。

 調度品はどれも上品で高そうな物ばかりだ。天蓋つきの豪華なベッドの左右には、天井までびっしり詰まった本棚があった。難しそうな本ばかり並んでいる。


「令嬢。話がある」


 大きな暖炉の前には、ゆったりと座れる長椅子ソファーがあり、そこへ座るように勧められた。


 リアムはミーシャの斜め前の椅子に座ると、壁に控えていた侍従たちを部屋からさがらせた。侍女のライリーも退室して、リアムと二人きりになった。


 暖炉には薪がたくさんくべられている。なのに、部屋は寒々としていた。


「陛下。話の前に、炎の鳥を呼んでもよろしいですか?」

「好きにしていい」


 ミーシャは暖炉に向かって手をかざした。赤い炎がゆらりと揺れる。鳥の形になって飛んで来た炎を、両手で受けとめた。


「寒いなら、薪を足そうか?」

「いえ、この子がいれば十分です」


 リアムは炎の鳥に目を向けたがすぐに立ちあがった。コートハンガーからさっきまで身に纏っていた白い外套をつかみ、戻ってきた。ミーシャの膝にかけようとして、炎の鳥が空中へと逃げる。


「陛下、畏れ(おそれ)多いです!」

「俺には必要ないから、着ていろ」


 リアムは椅子に座リなおした。

「ありがとうございます」とお礼を言ってから、ファーにそっと触れた。


『師匠。寒いならこれを着て』


 小さなリアムもよく、自分が着ていた上着を脱ぎ、クレアに渡してくれた。侍従たちにも『いつも寒い思いをさせてごめんね』と、マフラーや膝かけをあげていた。


 自分のせいで周りの人が凍えるのがいやだから、早く魔力を扱えるようになりたいと言っていた。

 幸せだったころの記憶に触れて、思わず頬がゆるんだ。


「暖かいです。陛下はやさしいですね」

「寒い人が暖かくする。当然のことをしただけだ」


 リアムは「本題だが」と話を切りだした。


「来たばかりで申しわけないが、今夜、令嬢のお披露目パーティーをする」

「はい。先日いただいたお手紙で、存じております」


 ミーシャは姿勢を正し、リアムに向きなおった。


「氷の国に一応、短い春がある。半年後の春祭りの日、我々の『婚姻の儀』をおこなう予定だ。普通ならそれまでのあいだに、王家のしきたりや臣下へのあいさつ回り、王妃教育のお復習(さら)いをして過ごすが、きみはしないでいい」


 婚姻の儀を結ぶまでが『白い結婚』だ。仮初めの夫婦で男女の関係はない。


「わかりました。陛下の治療に専念します」


 ――診察と、治療ができるのは春まで。あまり、ゆっくりはしていられない。


 天井を飛びまわっている炎の鳥をミーシャは呼び戻した。


「では、さっそく治療を開始しましょう」


 炎の鳥を差しだすと、リアムは目を見張った。


「今から治療をしようというのか?」

「陛下の手、とても冷たかったです。先ほど陛下から賜りました、この暖かい外套と交換です」


 厚手の生地でできている外套は、冷気を遮断し体温を逃さないために(まと)うもの。リアムの場合は体内温度が下がっていくばかりで、保温目的の外套はあまり意味がない。


「私と別れてから一月以上経ってしまっていますし、治療の開始は早いほうがいいです」


 説明しながら、いつまでも受け取らない彼の手に炎の鳥を押しつけた。


「陛下の『流氷の結界』をここに来るまでに見ました。外敵を阻む氷ですが、とても大きくそして、陛下のように美しかったです。……炎の鳥は、いかがですか?」

「ほんのり温かいが、熱くはない」


 ミーシャは頷いたあと、炎の鳥をもう一羽、暖炉から呼んだ。


「精霊は、魔力がある者しか触ることができない。この子たちが、陛下の治療に効果がありそうでよかったですが、これはあくまで一時しのぎ、対処療法です。やはり一番いいのは……、」


「根本から治すには、流氷の結界を解けと言いたいんだろう? だが、前にも言ったがそれはできない」


 先に言われてしまい、ミーシャは眉尻をさげた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ