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お土産

「もう、いいのか?」


 吉良が両手を添えてドアを開けた先の廊下では、月岡がまたタバコをふかしながら待っていた。


「大丈夫です。すみません……」


 目に力を入れてぐっと瞑り、再び目を開いた。月岡が確認するような目付きで見ていたが、すぐに視線が逸らされた。


「まだ、事件の真相が明らかになっただけだ。解決はこれからだろ? 精神の安定は保っておく必要がある。甘い物でも食べるか?」


「……いえ、遠慮しておきます」


「そうか」


 月岡なりの気遣いなのだろうか。だがこの状況で吉良の胃が、何か食べ物を欲することはなかった。日記に綴られていたのは、椿の歴史であるとともに食にまつわる怪異の歴史だ。あるいは無限とも思えた食欲に呑まれて、食欲が失せてしまったのかもしれない。


「なら、話を先に進める。あやかしが生まれた経緯はわかったが、肝心なのはそのあと、どうやって広がっていったかだ。あのばあさんが通っていた場所については書かれていなかったのか?」


「記述はありませんでした。おそらく、先に見つけた手帳に書かれていたのだと思いますが、手帳はもうバラバラで読めません」


 腕を組み、空いた手で口元を撫でながら月岡は天井を見上げた。もう夜明けも近い真夜中に警察署とはいえ薄暗い廊下で話し込んでいる者は少ないだろう。吉良は少し離れた窓から外の様子を眺めた。ぐるぐると渦巻くような黒雲が街の上空に位置し、どこか不気味に動いている。


「……親和性の高い場所。ヒントが大き過ぎて絞り込めねぇな。南柳市には最悪なことに曰くつきの場所が数多くあるんだろ? それにだ。その場所に呪いを溜め込んだとしてもそれがどうやってこんなにも広がっていくんだ? ばあさんがああなる前に取り憑かれた人間もいるだろ」


「親和性という点を考慮すれば、最も親和性の高い場所は胎内です。今のところ餓鬼に取り憑かれた人は全て女性。僕や月岡さん、それから警察関係者の男性も数多く接触していますが、取り憑かれた人はいない。だから、その場所を偶然通りかかる、あるいは儀式後、椿さんと接触するなどすれば取り憑かれる可能性はあります。椿さんは、自分は子どもを産めない体と言っていましたからね。一度、あやかしとして取り憑いたならばそのあとは取り憑いた母体を(むしば)みつつ、自然発生的に増殖していく。自分の形をつくるために」


 吉良が一息でそこまで話すと、月岡は何かを思いついたように眉を上げて「あっ、待てよ」と呟いた。


「? 何か心当たりがあるんですか?」


「いや、ずっと引っ掛かっていたんだが、亡くなった少女の胃から摘出されたもの、覚えているか? 家と庭にあったもの以外にどこで口にしたのかわからないものがあっただろう。確かーー紙片とガラス片だ。燃えた跡のくっきり残っている、な」


「燃えた跡。それって火災が起きた場所、ということですか?」


「ああ。そんなものあやかしに取り憑かれていたとはいえ、偶然入り込むとは思えない。どこかへ行って帰ってきた。その行ってきた場所にあったものを食べたはずだ。親和性の高い場所に……火事……?」


 月岡はスーツのポケットからスマホを取り出した。


「とりあえず帰るぞ。向かう先はもう一つしかないだろ」


「ええ、はいーー」


 後ろを付いていこうと足を向けたときに吉良の時計から通知音が鳴った。見れば、愛姫からのメッセージ。


【お疲れ様です。私も優希も元気です。また、お土産待っていますね】


「……月岡さん」


「なんだ?」


「やっぱり、甘い物、買っていきます!」

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