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餓鬼憑き

「わかりました。わかっているんです。だけどこんなこと! だって『餓鬼がき』かあるいは『ヒダル神』がこの全員に取り憑いたって言うんですか?」


 歴史を遡れば珍しくはない症例と言える。食糧供給が不足しがちだった古くから存在していた餓鬼と呼ばれる妖怪に取り憑かれると、食べても食べても極度の飢餓状態が続く身体へと変化してしまう。「餓鬼憑き」は、ここ数年の学際領域の縦断的研究により、神経性無食欲症ーーいわゆる拒食症や過度なダイエットの原因の一つと特定されている。一斉に空気を振動させたあの音は、空腹時にお腹の鳴るそれだった。


「そんなのわかるわけないじゃない! だけどよく見て!」


 細長く形のいい白い手がそれの額に触れた。瞬間、今にも椅子から転げ落ちそうなほどに前のめりに歪んでいた女性の骨が真直ぐに伸びて、身体が頬が膨らんでいく。取り憑いていた餓鬼が消え去り、肉が元の状態へと戻っていったのだ。


「ほら! これは明らかに餓鬼の仕業よ!」


「そうなんだ。そうなんだけど……」


 茶色がかった切れ長の黒い瞳に睨まれて、喚いていた眼鏡を掛けた男、吉良はついには頭を抱えてしまった。


(こんなこと普通なら起こりえないんだ。餓鬼がこんなに発生するわけがーー)


 けたたましいサイレンの音に突然思考は途絶される。


「死にました! 亡くなりました! 一人死亡が確認されました!!」


 外から突き刺さる怯えた声は、はっきりとそう告げた。

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