表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/93

幼き帝と小夜



 あまりにも楽しそうで彼は見惚れた。そして、興味を引かれた。


 久々に心を動かされた瞬間であった。


 声をかけようと思ったが、自身の正体がバレることに躊躇(ちゅうちょ)してしまう。


 何かないか……そう見回せば、壁にかけられている狐の面が目に入る。そして、躊躇(ためら)いもせずに、その面をつけると少女の前へと静かに姿を現した。


 その瞬間の小夜(さよ)の間の抜けた表情といったら……、あんぐりと可愛らしい口が開かれ、正に目が点になるという表現がピッタリであった。



「何者じゃ?」

「…………」



 (きつね)の面をした少年に小夜は話しかけるが、彼は言葉を紡ぐことができない。心臓ばかりが忙しなく、焦る気持ちとは裏腹にハクハクと空気が口から漏れるばかりだ。


 その様子に小夜は首を傾げながらも近付いてきて、(きつね)の面へと手を伸ばした。



「なぜ顔を隠しておる?」

「ーーーーーーっぅあっ!!」



 伸ばされた手は面を掴むことなく、宙をきる。少年は逃げるようにしゃがみこみ、ガタガタと震え、その姿に小夜はたくさんの涙を瞳からこぼした。


 手を避けられたのがショックだったのもある、自身に怯えられたのが悲しかったのもある。

 だが、何よりも、面に手を伸ばされたことだけで、怯える少年が(あわ)れで仕方がなかった。


 まだ哀れだと思う感情を知らない小夜はぽたぽたと溢れる涙に名前をつけられず、狐の面の少年にどう接すれば良いのか分からなかった。


 それでも、小夜はもう一度手を伸ばし少年のパサついた髪を撫でた。彼の体が震えていた振動なのか、はたまた小夜の手が震えていたのか……。



「すまなかった。その面を外そうとはもうせぬ」



 隣にしゃがみ、何度も何度も飽きることなく撫で続けた。いつしか彼の震えは止まり、撫でていた小夜の手を取った。



「……悪かった」



 何についての謝罪なのか、小夜は首を小さく捻る。そしてーーー


「そういう時は、ありがとう、って言うんじゃよ!!」


と言うとニカリと笑った。それは姫がする表情ではなかったが、少女の笑顔に彼は狐の面の下で頬を染めた。



「ぁりがと……」



 掠れて、耳を澄まさなければ聞こえないような声だ。それでも小夜は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑うから、彼も面の下で自然と口角が上がるのを感じた。




 こうして、小夜の父の目論見(もくろみ)通りに出会った二人は、急接近することとなる。

 小夜は初めての同世代の友達に喜び、彼は裏表のない小夜へと惹かれていく。




「今日はアケビじゃーーー!!」


 元気一杯に扉をまたもやバーーーーンッッと開けて小夜がやってくる。最初は食べることを躊躇していた少年も、目の前で美味しそうに食べる小夜につられて食べるようになっていた。



「……口元のみ開いた半仮面まで持っとるとは、余程 顔を見られたくなんじゃのう」


 都合の悪いことは返事をしない彼を小夜はじろりと(にら)む。


「聞いておるのか?コノハ殿!!」

「……コノハ?」

「そうじゃ。顔のみならず、名すら教えてくれぬのでは不便でならぬ。そこで、われが名付けたのじゃ!!

 名前なしのナナシでは嫌じゃろ?じゃから、狐の面から考えたのじゃよ。ほれ、狐は木の葉を使って化けるじゃろ?」


 どうだ!!と言わんばかりの小夜の表情にコノハと呼ばれた少年は口元に笑みを浮かべた。


「良い名だな」



 コノハとして小夜と過ごした時間が彼にとって人生で一番楽しい時であり、小夜にとっても同じであった。



 だが、先帝が崩御(ほうぎょ)したことでその平穏も終わりを告げる。藤の花が咲き乱れる季節にコノハは小夜の前から姿を消した。

 それは、小夜とコノハが出会ってからおよそ一年後のことであった。







藤の花の花言葉は、

 「優しさ」「歓迎」「決して離れない」です。




「面白い!」「続き読みたい!」など思ってくれましたら、ぜひブックマーク、いいね、下の評価の星をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ