リリアンヌの恋1
さて、リリアンヌとローゼンはというとーーー
「俺が悪かった。逃げないでくれ」
自分が惨めで逃げ出したリリアンヌはあっさりと捕まっていた。
「ローゼン様は何も悪くありません。私の問題です」
「こっちを見てくれないか」
「………………」
(ローゼンのことを見たら、きっと泣いてしまう。そんな面倒くさい女になんてなりたくない。
あぁ……、既に面倒くさい女か。だって、追いかけさせてるんだもの。こんなのただのかまってちゃんじゃん)
自身の浅ましさに嘲笑が漏れた。それでも、弱いところを見せたくないリリアンヌは、無理矢理 笑みを張り付ける。
その表情は歪で、まるで今の不安定なリリアンヌの心のようだ。
「こんな時でも、貴女は笑おうとするのか……」
その言葉をリリアンヌは聞こえない振りをした。どう答えれば良いのか分からなかったから……。
「ローゼン様、急いでいるので離してもらえませんか?」
とにかく態勢を整えたいリリアンヌは、ローゼンから離れたかった。
幸い、明日からは夏期休暇。今、離れられれば、確実に休暇後までにはいつも通りの態度が取れる自信があった。だがーーー
「急いでいるのに、呼び止めて悪かった。送ろう」
当たり前のようにリリアンヌの手を取ったまま歩き出す。
(これじゃあ、まるで恋人みたいじゃん。……逃げないようにって分かってるけどさぁ)
それでも、リリアンヌの心臓は忙しかった。
リリアンヌとローゼンの出会いは入学パーティー。あの頃のリリアンヌは、ルイスを攻略しようとしていた。
いつもルイスの護衛で側にいるローゼンは、ルイスを攻略できれば一緒にいる時間も増える。好みのタイプでもないこともあり、後回しにしようと思っていたのだ。
だが、リリアンヌはローゼンの自分を見る目が誰よりも優しいことに、ある時 気が付いた。他の攻略キャラと同じで熱もこもっていたが、ローゼンのだけはリリアンヌにとって少し違ったのである。
(他のキャラ達は、私がそれぞれの好みに合わせて行動したから、私を好きになった。だから、みんなが愛したのはリリアンヌであって、リリアンヌじゃない。
私の本性を知ったら、どうせみんな離れていくんだから。でも、ローゼンなら もしかして……)
自分でそう演じてきたにも関わらず、リリアンヌは梨理である自分を見てもらえないことに苦しさを感じることがあった。
そんななか、後回しにしたことでアプローチをしていなかったローゼンからの視線にリリアンヌは期待したのである。
(ローゼンなら、私を見てくれる?)
けれど、自身を出すのが怖いリリアンヌは本音を隠し続けた。イザベルと仲良くなるまでは。
そして、イザベルと親しくなれば、ローゼンとも急接近することになった。
ルイスがイザベルと二人きりになろうと画策するからである。なので、ローゼンとリリアンヌも自然と二人きりになることが増えた。
普段は多くを語ることはないローゼンだが、二人きりになればそれなりに話す。リリアンヌが話してローゼンが聞き役なことも多いが、自身のことも少しは話してくれるようになってきている。
気が付いたら優しかったローゼンの瞳は今も変わらない。自身を見てくれるかもと期待はしていたが、これと言った恋に落ちたという瞬間もない。
知らず知らずのうちに想いが芽吹き、育まれてきたのだ。
(ローゼン様とは、本性を出すまであまり話したこともなかったから、素の私を受け入れてくれてる……と思いたい。
何より、手を繋ぐのは私だけであって欲しい)
好きだろうなと思っていたが、こんなに好きだったのか……とリリアンヌは自覚した。そして、自覚してしまえば早い。
元々の梨理は恋愛特攻勢。大好きだと思う相手にしかアプローチもしないし、彼女持ちにも手は出さない。
だが、そうでなければーーー
「ローゼン様って、恋人や婚約者はいるんですか?」
手を強く握り返して、リリアンヌは足を止めた。
私のなかで、ローゼンが唯一の中身もイケメンキャラ。他の男性陣は残念系。
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