オカメとヒロイン
「どうです?似合っていますか?」
そう言いながら、オカメを着けたリリアンヌの声は笑っている。
イザベルは、オカメの下で目をカッと見開き、喜びで震えながらも、こくこくと何度も頷いた。
(ぬおぉぉぉぉぉ!!感無量!!感無量じゃあ!!遂に……遂に、オカメの良さが伝わったのじゃ。
祭りじゃ!!宴じゃ!!)
「パーティーよ!!」
「えっ?パーティーですか?」
思わず、イザベルの口から溢れた言葉にオカメなリリアンヌは首を傾げた。
(あぁ、首を傾げるオカメ姿まで愛らしく、美しい。まさに、これぞ美の集大成じゃ)
「はい。リリアンヌさん、是非とも二人でパーティーをしましょう!!」
リリアンヌの手を取り、興奮しながらイザベルは言う。
オカメの手を取るオカメ。
シュールな見た目に周囲は一部の人を除いて引いた。これでもかってくらいに。
「別にいいですけど、二人ならパーティーっていうより、お茶会なのでは?」
「お茶会!!お茶会をいたしましょう。リリアンヌさん!!」
つい先程までのリリアンヌであったら、イザベルと二人でなんてせず、攻略対象も誘っていた。だがーーー
(乙女ゲームって分かってから、ちょっとどうかしてたかも……。舞い上がってたっていうのとはちょっと違うか。
うーん。固執してたのかな。愛されることに。
もちろん、永遠の愛は欲しいから攻略はするけど、何か無理しなくてもいいかなーって思っちゃったんだよね。
イザベルといると面白そうだし。何より、私に嫉妬の視線を向けてくるルイスへの優越感がたまらないわぁ)
オカメを外して勝ち誇った顔でルイスを見れば、思い切り睨まれたので、リリアンヌは鼻で笑ってやった。
そして、サンドイッチを取って口へと運ぶ。毒なんて入ってないと見せつけるように、わざと大きな口でかぶりつく。
「リリアンヌさん、ソースがついてますよ」
口元しか表情は分からないが、イザベルはふんわりと笑い、ハンカチを差し出してくれる。それをリリアンヌが受け取ろうとすれば、ルイスの邪魔が入った。
「イザベル、リリアンヌばかりでは妬いてしまうな」
イザベルの細い顎を取り自分の方へと向けたルイスに、リリアンヌは冷めた視線を送る。
だが、平安乙女イザベルには効果絶大で首まで真っ赤になった。
口をパクパクと開けたり閉めたりしているが、言葉が出てこないらしく明らかに狼狽えている。
(これは、助けるべき?でもなぁ、人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるって聞いたことあるんだよね……。今世は馬がそこら辺にいるし、本当に蹴られたら嫌だな。
何より、ルイスが怖いしさぁ。馬に蹴られる前にルイスに殺されそう……)
リリアンヌはイザベルを見捨て、自己保身に走ることに決めた。取り巻きーズはもちろんのこと、シュナイやローゼンも静観するようだ。
自分も見捨てたのに、誰にも助け船を出してもらえないイザベルを不憫に思いながらも、リリアンヌは食べかけのサンドイッチをさっさと胃に納め、次のサンドイッチに手を伸ばすとーーー
「フォーカス嬢」
低くて落ち着いた声でローゼンがリリアンヌを呼び、ハンカチを差し出していた。
イザベルとルイスのやり取りで、すっかり口元にソースがついていることなど忘れたリリアンヌが無言でローゼンを見詰めれば、躊躇いながらもローゼンはリリアンヌの口元を拭いた。
「あっ……」
不意打ちだった。口元にずっとソースがついていたことが恥ずかしいのか、はたまたローゼンが拭いてくれたことに照れたのか……。
リリアンヌの頬は朱に染まっていく。
「すまないっっ」
慌てて手を離したローゼンの耳もまた赤い。
「おいっ!!抜け駆けすんなよ!!」
「そうだよ。ゼンったらずるいよー」」
「まったく。今リリーの口を誰が拭くのか話し合ってたんですよ」
取り巻きーズに怒られているローゼンを盗み見て、リリアンヌはまだドキドキしている自身の心臓に心の中で首を捻る。
何とか昼休憩中にサンドイッチを食べ、午後の授業を受けながらも、リリアンヌは無意識に口元へと触れていた。
そんなリリアンヌを一人の令嬢がじっと見ていたのだった。
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