ヒロインな私 ②
キミコイの世界だと思えば、何だか全てがストンと梨理の中に落ちた。
(それなら、私のドレスは赤で決まりだわ。多分、最初のイベントは赤いドレスじゃないと起きないはず……)
何となくやっていたゲームだが、最初のイベントは全てのルートで起きるため、よく覚えていた。
(問題は誰を攻略するかよね。
ルートは、皇太子と宰相の子息に、公爵家の嫡男と侯爵家の三男。騎士団長の息子もいたはず。
あとは、神官長の養子もいたわね。
その他に隠しキャラが二人いるとか恵は言ってたけど、覚えてないなぁ。
まぁ、隠しキャラは隠されてるくらいだから攻略も難しいだろうし、パスだから問題ないとして……。
6人から選ぶのかぁ。ハーレムエンドもあるらしいから、ハーレムも一応狙いつつ、的は絞るべきかな)
誰を攻略するのか悩みながらも、リリアンヌはどうせ汚されるからと一番安い赤いドレスをレンタルした。
(パーティーが始まってすぐにイザベルからジュースをかけられるのに、高いお金を出して借りるなんて勿体ないものね。
何より、フォーカス家ってそんなにお金ないし)
リリアンヌの生家であるフォーカス家は子爵という爵位はあるものの、領地を持たない無領地貴族である。
官職であるフォーカス子爵の俸給で生活をしており、貧乏ではないものの高価なドレスを買えるほど裕福ではない。
だからリリアンヌは貴族ではあるが、家には通いのメイドが一人いるだけで、その生活は裕福な商家の平民よりも余程平民らしい生活をしていた。
(前世の記憶があるだけで、女子高生だった私が何かを生み出せるほど世の中は甘くない。だから、貴族ってだけでラッキーって思ってたけど……)
家に帰ったリリアンヌは母が夕食の支度をしているのを見て、いつものように手伝いにいく。
「おかえりなさい。一緒に行けなくてごめんね」
「ただいま。大丈夫だよ。イーサンの具合はどう?」
「熱も下がってきたし、少し食欲も出てきたわ」
母の言葉にリリアンヌは嬉しそうな表情を意識して笑う。
リリアンヌの5つ下の弟、イーサンは体が弱く、子供の頃からリリアンヌは一人で何かをしなくてはならないことが多かった。
今日だって本当は母親とドレスを見に行く予定だった。だが、イーサンが熱を出してしまいいけなくなった。
本当はリリアンヌは母親と一緒にドレスを見に行くことを楽しみにしていた。
それでもリリアンヌは悲しそうな顔を全くしなかった。
自分が悲しい顔をすると母が悲しむので、幼い頃から泣かないよう、自身の感情を出さないように気を付けて、リリアンヌは笑うのがいつの間にか上手になった。
すると、他の表情も気がつけば意図も簡単に仮面のように張り付けられるようになっていったのだ。
(どうしても体の弱いイーサンが優先されてしまう。それは仕方がないと思っていたけど、やっぱり私も誰かの一番になりたい。
ここはどうせ乙女ゲームの世界なんだもの、ヒロインの私が攻略キャラ達からの愛情を独占したっていいよね)
リリアンヌは自分でも気が付いていなかったが、愛に飢えていた。
誰でも良かった。愛されたかった。
だから、攻略対象を一人にはできなかった。全員が自分を愛してくれる可能性があったから。
自身の寂しさを少しでも埋めるために、リリアンヌはヒロインをすることに決めたのだ。
それが例え作られた愛だとしてもーーー。
ブックマーク、いいね、評価、励みになっております。
良ければ、よろしくお願いいたします<(_ _*)>
次回は第3章になります。




