お姫様抱っこは破廉恥です
ルイスの爆弾発言の後、あまりのことに言葉を失ったイザベルは頭を抱えた。
その結果、イザベルがまだ本調子ではなく休養が必要だとルイスはイザベルをお姫様抱っこし、我が物顔でマッカート公爵家内を歩いてイザベルの部屋まで来た。
(もう、勘弁して……。
こんな破廉恥なもの(お姫様抱っこ)を皆に見られてしもうた。これからどんな顔で屋敷内を歩けばいいんじゃ)
ベッドにそっと寝かされ、布団を掛けられながらイザベルは途方にくれた。
満面の笑みでイザベルを見詰めるルイスと、遠い目をしているイザベル。そして、その様子をミーアは見守っていた。
(本来なら、私は皇太子殿下の御前に出れる立場じゃないんだけど。まさか、向こうから来るとは。これは、静かにしてるのが正解よね。
それにしても、イザベル様と殿下の温度差が凄いわ。イザベル様ったら、人が変わったと思ったら、殿下への恋心まで無くしちゃったのかな。
……あれ?それって実は問題だったりするのかな。うーん。そうなると、婚約はーーー)
扉の側で控えながらも、核心に迫っていたミーア。だが、ルイスに手を握られ、頭を撫でられて涙目になったイザベルを見て、考えていたことなど瞬時に消え去った。
「皇太子殿下、イザベル様をお連れいただきありがとうございました。
大変申し訳ございませんが、イザベル様はお休みになられるようですので……」
皇太子に自ら話しかけ、邪魔をするなど明らかな不敬。横暴な相手なら直ぐ様罰を受けていたはずだ。
こちらに視線を向けたルイスにミーアは下がりそうになる足を叱責し、できるだけ背筋を伸ばす。
「きみ、名前は?」
「ミーアと申します」
顔は微笑んでいるものの無機質な紫の瞳にミーアは息を呑んだ。けれどーーー
「そうだね。きみの言うとおり、俺は今日は帰るとするよ。次来る時は、メイド長ではなく、ミーアが全部やるようにして。話はつけとくから」
ルイスはあっさりとミーアの希望を聞いてくれた。恐ろしい決定事項のおまけ付きで。
そして、もうミーアに用はないとばかりに視線を直ぐ様イザベルへと向ける。そこには先程の無機質さなどどこにもない。
だが、瞳に宿る何かにミーアは、背筋が寒くなる。
(えっ!?今の何?)
困惑するミーアをよそに、ルイスは愛しげにイザベルのおでこへと口付ける。
「イザベル、ゆっくり休むんだよ」
爽やかに微笑み、ミーアにイザベルを頼んだルイスは、マッカート公爵家を後にした。
ルイスを見送った後、おでこにキスをされて白目を剥いていたイザベルを思い出したミーアは遠い目をした。
(これは、前途多難だわ)
ミーアは初めて直接お会いした皇太子殿下の情報を更新する。
(今まで、イザベル様を愛しているけれど、いつか別の方を皇太子妃にするっていう噂を鵜呑みにしてたけど、間違いね。
あの方は何がなんでもイザベル様を離す気はないわね。……というか、イザベル様がいなくなったら、何をしでかすか分からないわ。
絶対に敵にまわしたくはないけれど、イザベル様のために少しくらいの防波堤になろう)
そう決意したミーアは急に寒気がし、体を小さく震わせた。
「とりあえず、私にできることからやっていこう」
そう決意を言葉にしたミーアはルイスが言っていた言葉を思い出す。
「次からは私が全部やるように言ってたけど、殿下って毎日いらしてたような……。
ってことは、全く猶予がないってこと!?……嘘でしょ?」
新たな事実に気が付いたミーアは先程の悪寒とはまた別の寒気を感じる。
「こうしちゃいられないわ。イザベル様ぁぁぁ!!」
イザベルに助けを求めて、ミーアは駆け出した。そして、またもや先輩メイドに「走らない!!」と怒られたのであった。
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