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5話

 鉄格子の小さな窓から入る太陽の光が俺を照らしていた。牢屋に来て最初の朝である。体を動かすと軋むような音が聞こえる。両腕がかなり痛い。鎖でつながれているせいか、腕が引っ張られる、もしくは固定されてうまく動かせなかったせいだろう。気分も最悪である。食べ物に関しては言わなくてよいほどよくない。鋼鉄というほどではないものの固いパンだった。足が棒のようになっている。連日、長く歩いていたので筋肉痛になったのだろう。しかし、異世界に来てから疲労が少ない気がする。


 そして、肩回りの凝りがなくなっている。朝の眠りもよかったように思う。この5日間、牢屋の中で感じていたのは暇ということ。今までスマホを見ていたし。元々、何かをしていなければ不安なタイプであるため、暇なのがストレスになってしまう。まあ、こういったのは良い機会かもしれない。少しは休まないとな。ただ、昔に比べて現代の人は脳を働かせすぎなのかも。適度に休憩を入れながら過ごしたほうがいいのだろう。


 座禅を組み瞑想を始める。心を無にする意味が分からないが、それでも続けることに意味があるし、何もしないときにすごくいい。現在人は考えすぎるから心の安定につながる。座禅を組んでいると誰かの足音が聞こえる。…心が無になっていない証拠である。そもそも心を無にするってなんだっけ。


「…、変わったことをしているな。」


 男が座禅について興味深そうに見ている。ただ、あくまでも健康管理のためにやっていたことだから詳しく言われても答えることは難しい。異世界にもありそうだけどな、このような特有の文化というものが。彼は少しの間見ていたが、やがてご飯を出される。パン2つとスープ、そして野菜である。今まで朝ごはんを食べていないので、豪華だと思ってしまう。パンを口に含むが少し苦みを感じる。毒なのだろうか…。入れるわけがないか。兵士が足りていないという非常時に俺を殺してもな。異世界と元の世界では味付けが異なっているのだろう。後ろから最初に会った男が入ってくる。


「よく食べているな。…、そのまま食べながらでいい。話を聞け。そして俺の名前はケヴィンという。覚えておくように。短い付き合いになるかもしれないがな。」


 ご飯を食べながら姿勢を正して彼の話を聞く。殿下の話は本当らしく準備が足りていない上に兵士の数も足りていないようだ。無理やり徴兵してもよいが、今後の統治を考えればしないほうがいい。死ぬのは上の人間ではなく下の人間であり、その人間たちは住民である。今回は内紛であるらしいので、住民にとってはあまり関係なく、徴兵での集まりも悪いだろう。しかし、内紛に勝たなくてはならない。負ければ俺も殺されるだろう。


 殿下は正当な後継者にあたるようだが、王の周りの側近たちが何か変なことを吹き込んでいるらしい。殿下は年を取ってからの子供だったらしく、王はすでに70歳を超えているということである。足を引っ張っても何も良いことはないのだが。その周りの人間が何か言うと碌なことが起こらないのは確かだろうな。しかし、殿下の戦いというのはかなり厳しいものになることは予想される。問題はどのような戦いになるかということだ。問題は山積しているのだろうな。


「実は我々はかなりの劣勢であるが、指揮官クラスは充分にいるのだ。」

「…。」


 話を聞けば歴戦の大将軍もおり、宰相に準じるような人間もいると。しかし、下の兵士がある程度いなければ勝つことができない。敵兵は30万以上の兵士がいるが、こちらはせいぜい5万程度ということ。…このような話をするメリットがあまりないような気がするが、知っておけということだろうか。彼は少し頭を掻きながら、そのまま鍵を取り出す。彼は鉄格子を開けて、そのまま俺のほうに近づいてくる。

 

「危険では?」

「殿下の指示だ。」

「殿下は何を考えているのでしょう?」

「分からん。分からんが、この男が先の戦いで必要になってくるということだろうな。それくらいのことだ。殿下を信じていれば優秀な人間はいくらでも集まってくる。」

「その通りですね。」


 彼は腕の鎖を外した。鎖を外すのに何の躊躇もなかった。それだけ殿下を信用しているということか。


「お前は罪人であるが、無罪放免になったわけではない。分かっていると思うが、猶予期間と合わせて仮であるというのを忘れないようにしろ。」

「はい。」


 彼は俺のほうを見ずにそのまま退出していく。見張りの兵士も退出していく。…、見張る意味もないということか。それとも危険がないと判断されたのだろうか。後者であれば、気持ちが楽だ。しかし、何もしないというのもかなり暇である。この異世界に来て多く感じるのが暇というものと、それ以上に孤独というものである。元の世界では歩けば人がいて、人が恋しいというのはあっても物凄く孤独を感じるということはなかった。その孤独の感情をどのようにして埋めていくか…。友達などを作るしかないのだが、そんなに簡単にできるものでもないか…。


 まずは何をするかというよりも何をすべきかを考えていく必要がある。戦場に出るわけなので何かしらの訓練を行うことも想定されるが、そこまで高度なことを覚えるような暇はないような気がする。ならば、ストレッチと筋トレくらいしかないか。ストレッチというのは単に体を伸ばすだけではなく、可動域を大きくするようなものである。…、ヨガとかストレッチをまともに勉強していない俺には難しい話だが、分かっている範囲で伸ばしていこう。足をかばいながら…、ん、足に痛みを感じない。触ってみるが、腫れも引いている。良かったのだが、明らかに治るのが早すぎる。


 入念にストレッチをしていくが、体の節々が固くなっている。年齢というのもあるだろうが、運動というのをしていないのが原因だろう。体を伸ばしているだけなのに随分、体が痛いな。少し休んで筋トレを始めた。戦場ではいきなり戦いが始まる。腕立て伏せをしながら、深呼吸を行う。呼吸法として様々なものがあるが、ここに来て心が乱れすぎていると思っている。出来るだけ無心になるように深呼吸を行う。ゆっくりと息を吐きながら屈伸を行う。上下の動きは剣や槍を避けるために必要なものだ。運動してこなかったつけが来たのか、すぐに足のふくらはぎが張ってしまった。剣や槍などを持って振ってみたいが、そもそもここにいる間に渡されるとは思えない。鎖で怪我をしないように反復横跳びを行う。まずは地道な筋トレを続けるのみだ。



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