イーリン~特殊任務⑥~
イーリン~特殊任務⑥~
食料を補給した俺たちはそのままとある場所へ向かっている。向かっている先はコーリン将軍の城。どうして最後の場所がコーリン将軍の家なのかわからないが、指定された以上はいかなければ。しかし、コーリン将軍の家はかなり遠い。どうしてというほど遠くの領地を王からもらっているのだ。他の貴族や軍もわからないといった感じだったが、コーリン将軍の真意を聞かずにその領地をもらったのだ。誰も理由を聞いていない。
コーリン将軍の城に行く道中に別の軍が見える。見る限りコーリン将軍の兵士たちではない。あのような軍に隠れて移動するというのはかなり難しい。100人を超える団体というのは思ったよりも大きく、目につきやすい。隠れる場所があればいいが、草原や平野であれば視覚に入ってしまう。戦闘などになれば一網打尽である。兵数が多ければ多いほど逃げ切ることすら困難になる。盗賊なんてものになって生きにくいということがよく分かった。
「隊長、こっちの道へ行きますか?」
「しかしな…。」
遠回りしていくのは問題ないのだ。問題なのは食料。切り詰めて行軍…、移動しているのだが、補給地点がない以上は減っていく一方なのだ。これでも村を見つければ金銭や宝物で話をつけて融通してもらうが、100人以上の兵士を食べさせるには無理がある。それでも村の人たちはよく譲ってくれたと思っている。
正直な話、早く部下たちを治療させたい。体調の悪い兵士も多い。このまま山を越える道を行動させると数人は死ぬ可能性がある。何か包帯や治療など施したいのだが、すでに使い切っている。
「気持ちはわかりますが、全員が死ぬことのほうが問題です。」
あの軍がどの将軍の兵士かわからないが、コーリン将軍の兵士であっても俺たちを討伐するように動くだろう。結局は討伐する運命にある。
「…わかった。今から山道へ進んでいく。皆、頑張ってくれ。」
山を登って2週間が経過した。死んだ部下も多い。全部で7人亡くなった。どの部下も重傷と思うような怪我を負っていたが、良く頑張ってくれたと思う。それでもできれば生きてこの山を越えてほしかった。部下は簡単な埋葬を行った。このような山で埋めるのは忍びなかった。もう一度、ここへ来訪することはないだろうから。それでも埋葬した方が良いはず。
兵数は102人までになってしまった。3分の1の兵士を失ったことになる。軍としては機能しなくなる人数である。それだけの人数を失ってもまだ俺が隊長で機能できているということは親衛隊の部下たちがかなり強い精神力を持っているということでもある。良い部下を持ったな。
「隊長、もう少しでコーリン将軍の城に着きます。任務の内容はあったのですか?」
「それはなかった。」
将軍の領地というのは城があるような領地である。重要拠点を任せられるのが将軍である。コーリン将軍の城を攻めろというのは違うだろう。無謀もいいところである。意味すらないだろう。返り討ちにあって終わりである。そんなこともコーリン将軍も望んでいない。
ならばということだ。何のためにこのような辺鄙な場所へ来いと命令したのだろうか。まるで意味がないように思うのだが。
2日後、コーリン将軍の領地が見えた。多くの兵士が演習を行っている。あの場所を抜けるのは難しいか。コーリン将軍の兵士は優秀であるため、かなり遠くから見ている。数人の斥候を出してどのように領地へ入っていくか確認してもらいたいが、そもそも恰好が普通の人ですらない。このような状態で斥候をしても意味がないだろうな。すぐに討伐される。
…何かが向かってきている。あれは兵士か。馬上で偵察を行っているのか。普通のことか。しかし、隠れる時間が長すぎる。兵士の巡回にあまり隙がない。
「隊長、どうしますか?」
「どこかで出ていかなくてはいけないのだが…、こうも巡回に隙がなくてはな。とりあえず、夜の状況を見てみよう。」
「そうですね。」
そのまま各々休ませる。緊張しすぎても仕方ない。できるだけ中に入って休ませる。姿が見えてしまって討伐になんてこともありうる。
夜になり、動きだそうとしたときに、1名の兵士がこちらに来ていた。しかも領地とは反対からである。すでに俺たちが来ていることを察知していたのである。
「イーリン殿ですな。」
「その通りですが。」
彼は何をしようというのだろうか。
「お疲れさまでした。兵数もだいぶ減っていますね。ここまで来るのも苦労したでしょう。領地の中に案内します。」
「こちらとしてはありがたいことなのだが、大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。そもそもその予定でしたから。」
一体、どういうことなのか。




